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もみのき そのみを かざりなさい

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 今にも跪いて祈りを捧げそうになっている僕の手から、ふよふよとリボンの花が飛んでいく。リリーが杖を使ってそれを呼び寄せたのだ。この少しの距離すら、僕に近付くのはもうこりごりらしい。ふよふよと漂って、ようやくそれはリリーの手に収まった。彼女は指先で形を確かめ、上から眺め、下から覗き込み、それから、ふうん、と言った。最大級の賛辞だ。

「これくらいもらわないと、割が合わないものね」

 独り言のようにそう言って、彼女はすたすたと歩き出した。僕からのプレゼントは彼女の手と一緒にポケットの中だ。去っていく背中に、僕は声を掛けた。

「メリークリスマス!次はカエルにするからね!」

 デートの時間を確認するようにそう言うと、リリーは肩越しにちらりと僕を見た。それから何も言わずに足を速め、彼女はドアの向こうに消えた。そのあいだ、僕は彼女に手を振り続けた。見えなくなってからもドアに向かって手を振り続けた。
 リリーからは"メリークリスマス"の挨拶ひとつもらえなかったけれど。
 僕は彼女の未来の時間を手に入れた。
 にま、と頬がゆるんでしまう。ささやかな約束は何を保証してくれるものでもないけれど、明日に続く道があることを確かめさせてくれる。漠然とした未来が手に届く形で僕の前に現れる。そこに彼女がいるなら、これほど眩しい未来はない。
 リリーはお前との約束なんてすっかり忘れるかもしれねーぜ、と、頭の中でシリウスが笑う。そもそも、あれを約束だと思ってるのはお前だけなんじゃねーか?
 僕は首を振る。分かってないなあシリウス。彼女は僕のことは忘れても、カエルのことは忘れないよ。賭けてもいい。
 僕はツリーに結んであった飾り用のリボンを1本拝借して、それでなんとかカエルをつくろうと試みた。花を作るのと違って、これはなかなか難しそうだった。魔法を使えば見た目どころか動きまで再現できそうだったけれど、指で花を作ったときの彼女の顔をもう一度見たかった。へえ、ともう一度言って欲しかった。
 くるくると指にリボンを巻き付ける。こいねがう気持ちは祈りだ。天には御栄え、地に平和。彼女に幸福。友人たちに光。僕には彼女。明日が朗らかにあるように。祈りながら、リボンに結び目を作って形を整える。
 かくあれかし。
 
 あ、あとカエルがちゃんと形になりますように。

 かくあれかし。