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もみのき そのみを かざりなさい

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「いや、本当に。君に手を出したんだったら、たとえ親友といえど打ち首にして晒すけど」
「私に手を出したりしたら返り討ち」
「そりゃそうだ」

 納得して大きく頷くと、リリーは僕を睨んだ。僕は視線を逸らして天井の辺りを眺めた。

「じゃあリーマスのことか、君の不機嫌の理由は」
「私が不機嫌なのは朝からあなたに捕まったせいよ」
「じゃあ言い直そう」

 僕は眼鏡をかけ直した。眼鏡を外したままでは、彼女の顔がよく見えない。

「君はリーマスのことが心配でたまらないんだ」

 そうよ当たり前じゃないそんなこといちいち指摘しないで、と彼女の目が燃え立つ。

「君はリーマスのひととなりを良く理解してる。そしてシリウスのことは信用してない」

 そうよ当たり前じゃない。

「でもね、僕はそんなに心配はしてないんだな。少なくとも、君ほどは」
「そりゃあなたはそうでしょうよ。あのバカと同類なんだから」
「でもリーマスは違う、そう思ってる?」
「そうじゃない。ただ…」

 珍しく、彼女は言い淀んだ。

「心配なのよ」

 きゅっと唇を引き結んで、リリーは顎を引く。うん、と僕は頷いて、それを受け入れる。

「シリウスはあれで結構優しいところもあるんだけどなあ」

 リリーが吹き出す。いやいや、ここは笑うところじゃないよ。

「だから」
「違うのよ。私が心配してるのはあのバカのことじゃないの。リーマスのことなんだってば」
「うん?」

 首を傾げて、僕は彼女の話を待った。少しだけリリーに近付いたのだけれど、運良く彼女には気付かれなかったようだった。リリーはそれが不本意な告白であるかのように、床に視線を落として呟くように言った。

「リーマスが、頑張っちゃうんじゃないかって」
「…ああ」

 ああ、と僕は思った。リリーはやっぱりリーマスのことばかりだ。けれどそう思っても、不思議と嫉妬のような気持ちは少しも浮いてこなかった。

「そうだねえ、彼は頑張りやさんだからねえ」
「困ってたり、なのに無理してたり、ごまかしたり」
「目をつぶったり、耳を塞いだり 笑顔を作ったり」
「そういうのイヤなの、私」

 リーマスのことを話すときのリリーは、相手が僕でも口調が優しい。

「暖かいもの、優しいもの、それと分かっていても、飛び込むのは、きっと彼は、怖いんだよね」

 僕が言うと、彼女は僕の目を見つめた。緑の目は凪いでいて、ただ僕の目の奥にあるものをじっと見つめている。確かめるように、あるいは、探るように、まっすぐに。そしてそのまま、ゆっくりと口を開く。

「彼を傷付けるのは、唯一、暖かいものだからよ。冷たいものでは、彼は傷付かない」

 僕は頷いた。

「リーマスはそこに踏むこむことをシリウスに許した。そうだね?」
「どんな汚い手を使ったかは知らないけれど、そうね」
「あとはリーマスが手を伸ばせばいい」
「その前にあのバカが短気起こしたりしなきゃいいけど」
「大丈夫」

 僕は請け負った。リリーはリーマスのひととなりを良く理解している。それと同じくらい、僕はシリウスという人間のひととなりを理解しているつもりだ。

「大丈夫。シリウスはバカだけど、大事なことを見落としたりはしない。それがリーマスのことなら、なおさらだ。彼はちゃんと、リーマスを見てる。ちゃんと、聞いてる」
「ええ」

 彼女は言った。潔いほど、きっぱりと。

「知ってるわ」

 きゅっと結んだ唇。強く深い緑の瞳。
 ───なんて可愛いんだ!
 思わず抱きつこうとして、僕はリリーの杖に眉間を刺された。
 痛い。

「あなたって人は!」

 さっきまでの穏やかな緑はどこへやら、いまや彼女の目は射殺す勢いで僕を睨み付けていた。
 シリウスほど待つことに覚悟を決めていたら、今僕は眉間をさすりながら立っていなくても良かっただろうに。後悔先に立たずとはこのことだ。一応指先で確認してみたが、どうやら流血はしていないらしい。良いニュースだ。そのことに気を良くして、僕は自分の髪に結んだままのリボンを解いた。
 あなたまだそれ付けてたの?と、リリーは声に出さずに呆れる。
 僕はリボンをすいすいと花の形にまとめ、そこにラッピングに使った白金のリボンをかけた。
 リリーは僕の手元を見て、へえ、と呟いた。

「案外器用ね」
「お褒めにあずかり光栄です。よかったら持って帰らない?」
「いらない」
「あはは、やっぱダメかー」

 緑色に咲いた花を手の中でくるくると回す。白金のリボンがひらひらと踊る。

「ところでさ」
「…なに?」

 返事に緊張が滲んでいた。話の流れを変えますよという意味の接続詞に、リリーが身構えたのだ。僕はリボンの花を胸ポケットに収めた。バラのコサージュのように見えなくもない。

「そろそろキスしてもいいだろうか」
「あなたまじめな顔して何言ってるの?」

 僕は握り拳を作って彼女の前に出した。警戒しながらそれを見つめるリリーの前で、僕は人差し指をぴょこんと立てた。

「だってほら」

 リリーは僕の人差し指が示す場所を目で追って、ゆっくり視線を上げた。

「僕たちの上には宿り木が」
「っひゃあああ!!」
「そんな変な声出さなくても」

 彼女の反応がおもしろかったので、僕はリリーの手首をがしっと掴んで引き寄せた。

「ほら、せっかくのクリスマスだし」
「いやああ!あんた最低!知ってたけど最低!」
「僕としては利用できるものは何でも利用したい」
「今すぐ離さないと殺す!」
「聖なる日になんてことを」
「離さないなら舌噛んで死んでやる!」
「あー、それは困るなあ」
「大声出すわよ!リーマスーぅたすけてぇー!!」
「ってもう出してるし」

 リリーは空いた片手をやみくもに振り回した。杖を振ることも思い付かないくらい慌てた彼女を見られて大変満足だったので、僕は彼女の手を離した。頬にちりちりと小さな痛みがあったけれど、それは些細なことだ。多分彼女に引っ掻かれたのだろう。それもまた勲章だ。
 解放された手首をもう片方の手でぎゅっと掴んで、傷を庇うように彼女はあとずさった。ぎりっと僕を睨み付けたまま、顎をしゃくって何かを示す。

「なに?」
「それ」

 短い指示は僕を数秒間だけ悩ませた。彼女の視線を見るに、どうやら僕の胸ポケットのあたりを指しているようだったので、僕はそこに収めていたものを取り出した。哀れな緑色のバラ。

「これ?」
「それ、ほんとに変な呪いとかかかってないでしょうね?」
「かけてないってば」

 かけておいても良かったかなと思ったことは彼女には内緒だ。

「花にしたのはおもしろかったわ。もらってあげてもいい」
「ほんと!?」
「カエルならもっと良かったのに」
「じゃあ次はカエルにするよ!」
「今変えなさいよ」
「だーめ。次」

 ちっ、と彼女は舌打ちをした。けれど、じゃあいらない、とは、言わなかった。奇跡的だ。