雨の朝
土砂降りの中、静雄は近くの喫茶店の軒下でたばこを吸っていた。
先程から降り続いている雨の所為で、靴などはもうびしょぬれだ。
(あー・・・あいつの家って雨漏りとかしねぇのかな・・・)
ふぅっと息を吐き出せば、たばこの煙が宙へと舞い、雨に打たれて霧散する。
帝人の家は初めて見たとき人が住めるのか、と疑問に思ったほどぼろい。
こんな大雨だときっと屋根から雨が降ってきているのではないだろうか。
(確かめに行きたいけどよ・・・突然俺が行ったら迷惑だろうなぁ・・・)
帝人を困らせるつもりはさらさら無い。あの少年にはいつでも笑顔でいて欲しいと思う。
静雄は久しぶりに感じるこの感情をもてあましながら、それでもむず痒く甘ったるいものだと受け入れていた。
付き合いたいとか、そういうものはない。ただ、傍で笑っていて、話しているだけで、もうそれだけでいいのだ。
視線を足下に下げて、濡れた靴を見つめる。
帝人が、誰を好きなのかはうすうす気が付いていた。認めたくはないし、信じたくもない。
それでも、帝人がそれで笑うなら、幸せだと呟くのなら、静雄はそれで良かったのだ。
そっと静雄は瞼を閉じる。感じるのは雨の音と冷たさ、そしてたばこの苦みだけだった。
「・・・お前が笑ってくれるなら・・・俺はもう、何もいらねぇよ・・・」