こらぼでほすと アッシー2
年少組のほうは、三日ほどしてロックオンの体調が落ち着いた頃から、順々に空いている時間に見舞いに出かけることにした。まだ大学に入学したての悟空より年次が上のシンやレイのほうが時間の都合がつけやすい。
レイが顔を出したら、ロックオンはベッドで座っていた。
「起きていいんですか? 」
「よおう、レイ。今日は、ひとりか? 」
声をかけて近寄ったら、ロックオンは笑って迎えてくれる。うちの娘は外面がいい、と、トダカが比喩するのがよくわかる。まだ、それほど具合はよくないはずだが、それを微塵も感じさせないのだ。
「何か入用のものがあったら、調達してきますが? 」
「・・・これといってはないな・・・・そんなに気を遣わないでくれよ。いきなり、ダウンして迷惑かけてるんだからさ。」
ハイネに、えらい叱られたんだ、と、苦笑している。戻らないから、携帯端末のGPSでハイネが探して、本宅へ運んだ、ということになっている。概ね、事実だが、大袈裟には伝えていない。
「俺は迷惑はかかってません。」
「そうか? それならいいんだけどさ。そういや、おまえさんも看護士の資格はあるのか? 」
実は、ハイネは、その資格を持っていた。だから、少し前にロックオンに点滴を注そうとして大失敗して、あっちこっち穴を開けた。その痛みで、意識が戻ったんだ、と、ロックオンはレイに話して笑っている。
「ハイネは、ザフトレッドでもフェイスという特務機関の人間ですから、いろいろな資格もあるんだと思います。もしかしたら、アスランは持っているかもしれません。俺は、資格までは、まだ。」
一通りの応急処置は学んだが、資格まで取る時間はなかった。そういうものも必要かもしれないな、と、今は思っている。今のところは、学生生活を楽しんでいるが、将来的には、ザフトに復帰することにはなる。
「俺も資格はないけどさ。」
「ということは、処置はできるんですね? ロックオン。」
「最低限はできるよ。傷を洗って縫うとか、筋肉注射ぐらいならな。」
外科的な処置の簡単なものは、組織で実習までやらされたから、と、教えてくれた。実際、テロリストとして活動していたのだから、それぐらいのことはできるのだろう。
「そういうのも必要なんでしょうか? 」
「おまえさんが希望するのが軍人なら、必要だろうな。レイは、そのつもりなのか? 」
「ええ、俺の保護者は、プラントの事実上のトップだから、その警護はしたいと思っています。今は、好きなことをさせてもらっていますが、できれば、プラントのために働きたい。」
まだ年若いから、いろいろな経験を積みなさい、と、保護者は送り出した。一度、まったく違う世界で暮らせば、軍人の良いところも悪いところも見えてくるし、まったく違うアプローチがあることも解るだろうと言われた。確かに、ザフトにいては見えないものを、いろいろと知ることはできた。さっさと戻りたいという気持ちはない。こちらでできる限り、違うものは体験しておきたいと思っている。
「えらいなあー。俺、おまえさんぐらいの時なんて、そんな立派な志なんてなかったぞ?」
「立派ではないと思います。・・・・大戦の時の自分は、今、思えば、怖いことを考えていました。ひとつに偏ったら、そういうことになると反省した結果です。」
「だから、偉いんじゃないか。・・・・まあ、立ち話もなんだし座れ。時間はあるのか? 」
突っ立ったまま、レイは話していることに気付いて、勧められた椅子に座った。飲み物でも頼もうか、と、内線で、ロックオンが連絡してくれる。すぐに、それが届いたが、ロックオンは飲もうとしない。
「・・あの・・・」
「ああ、俺はいいんだ。」
そして、それをゆっくりと飲み干してしまうと、もう会話が続かない。何か時事ネタを、と、考えても、まさか政治や経済の話なんてできないし、季節の話を、今更するのもどうだろうと、レイは、しばらく考えて俯いた。ロックオンのほうは、それを眺めたり、外の景色を見たりしていたが、いきなり、がっくりとレイが項垂れたので、声をかけた。
「どうした? 」
「すいません、やはり、シンと一緒に来るべきでした。こういう場合の会話が思いつかない。」
「はい? 」
「俺は、人付き合いというものが、あまり得手ではありません。お見舞いの時に、どんなことを話せばいいのか思いつかないんです。シンなら、いろいろと喋れるのに。」
素直に告げたら、思いっきり、ロックオンは噴出して笑い出した。
「ロックオン? 」
「別に、マニュアルなんかあるわけじゃないし、好きなこと喋れよ? 」
「ですが、俺は堅苦しいことしか言えないし、気の晴れるような話も知らない。ちっとも、お見舞いになっていません。」
真面目な顔で、レイは謝っているわけで、それが、さらに笑いを誘う。まだ、そうやって気を遣うだけ、黒子猫より数段社交的だ。
「うちの刹那より、ずっとマシだと思うけどな。あいつ、俺の付き添いしてても、必要なことしか喋らないし、下手すると、そこいらの床で筋トレ三昧だ。おまえさんは、ちゃんと『吉祥富貴』でホストをやってるだろ? あれができるだけけで大したもんだと思うよ。」
「ホストは、アスランの真似をしているだけです。キラさんが、あまり喋らなくてもいいから、相手の目を見て喋ればいい、と、教えてくれたので。」
「うん、それでいいんじゃないか。シンみたいに、素直に口から言葉が出るタイプじゃないもんな。俺としては、レイが来てくれただけで嬉しいからな。いい見舞いになってるよ。」
「本当ですか? ロックオン。」
「嘘言って、どーする? おまえさんを口説くつもりもないし、本当に嬉しいって。」
「それなら、よかった。」
ほっとしてレイが、ニコッと笑うと、花が咲いたような雰囲気になる。これ、女性ならイチコロだろうな、と、ロックオンでも感心する表情だ。
「時間はいいのか? 」
「夕方、出勤するまでフリーです。何かできることがあったら言ってください。キラさんのパシリで慣れてますから、どんなものでも調達してきます。」
「なら、ライブラリーで、なんか見繕って持ってきてくれ。」
そう頼むと、また困った顔をする。相手の趣味があるから、そういう注文は無理らしい。
「なら、一緒に見られそうな映像データでも探しに行こう。」
それでも見ながら、それについて話でもすればいいんじゃないか? と、立ち上がろうとしたら、レイに止められた。
「待ってください、車椅子を借りてきます。」
「え? そこまでしなくてもいい。」
「いえ、まだ絶対安静のはずです。ライブラリーまで歩くと疲れます。」
すぐですから、と、レイは外へ走って行って、車椅子を借りてきた。それに乗ると、後ろからレイが押してくれる。ライブラリーは、屋敷の三階にあるので、一階のロックオンの部屋からの距離としては、かなりある。確かに、この距離を歩くのは、ちょっと辛い。
「なんか回復しなくてな。」
ドクターからの説明に納得できないものはあるのだが、動けない事実は認めるしかない。まだ、部屋の中を動くくらいで手一杯だからだ。
「連日、外出していたと聞いてます。俺でも、そんなことをしたら疲れますよ? ロックオン。」
レイが顔を出したら、ロックオンはベッドで座っていた。
「起きていいんですか? 」
「よおう、レイ。今日は、ひとりか? 」
声をかけて近寄ったら、ロックオンは笑って迎えてくれる。うちの娘は外面がいい、と、トダカが比喩するのがよくわかる。まだ、それほど具合はよくないはずだが、それを微塵も感じさせないのだ。
「何か入用のものがあったら、調達してきますが? 」
「・・・これといってはないな・・・・そんなに気を遣わないでくれよ。いきなり、ダウンして迷惑かけてるんだからさ。」
ハイネに、えらい叱られたんだ、と、苦笑している。戻らないから、携帯端末のGPSでハイネが探して、本宅へ運んだ、ということになっている。概ね、事実だが、大袈裟には伝えていない。
「俺は迷惑はかかってません。」
「そうか? それならいいんだけどさ。そういや、おまえさんも看護士の資格はあるのか? 」
実は、ハイネは、その資格を持っていた。だから、少し前にロックオンに点滴を注そうとして大失敗して、あっちこっち穴を開けた。その痛みで、意識が戻ったんだ、と、ロックオンはレイに話して笑っている。
「ハイネは、ザフトレッドでもフェイスという特務機関の人間ですから、いろいろな資格もあるんだと思います。もしかしたら、アスランは持っているかもしれません。俺は、資格までは、まだ。」
一通りの応急処置は学んだが、資格まで取る時間はなかった。そういうものも必要かもしれないな、と、今は思っている。今のところは、学生生活を楽しんでいるが、将来的には、ザフトに復帰することにはなる。
「俺も資格はないけどさ。」
「ということは、処置はできるんですね? ロックオン。」
「最低限はできるよ。傷を洗って縫うとか、筋肉注射ぐらいならな。」
外科的な処置の簡単なものは、組織で実習までやらされたから、と、教えてくれた。実際、テロリストとして活動していたのだから、それぐらいのことはできるのだろう。
「そういうのも必要なんでしょうか? 」
「おまえさんが希望するのが軍人なら、必要だろうな。レイは、そのつもりなのか? 」
「ええ、俺の保護者は、プラントの事実上のトップだから、その警護はしたいと思っています。今は、好きなことをさせてもらっていますが、できれば、プラントのために働きたい。」
まだ年若いから、いろいろな経験を積みなさい、と、保護者は送り出した。一度、まったく違う世界で暮らせば、軍人の良いところも悪いところも見えてくるし、まったく違うアプローチがあることも解るだろうと言われた。確かに、ザフトにいては見えないものを、いろいろと知ることはできた。さっさと戻りたいという気持ちはない。こちらでできる限り、違うものは体験しておきたいと思っている。
「えらいなあー。俺、おまえさんぐらいの時なんて、そんな立派な志なんてなかったぞ?」
「立派ではないと思います。・・・・大戦の時の自分は、今、思えば、怖いことを考えていました。ひとつに偏ったら、そういうことになると反省した結果です。」
「だから、偉いんじゃないか。・・・・まあ、立ち話もなんだし座れ。時間はあるのか? 」
突っ立ったまま、レイは話していることに気付いて、勧められた椅子に座った。飲み物でも頼もうか、と、内線で、ロックオンが連絡してくれる。すぐに、それが届いたが、ロックオンは飲もうとしない。
「・・あの・・・」
「ああ、俺はいいんだ。」
そして、それをゆっくりと飲み干してしまうと、もう会話が続かない。何か時事ネタを、と、考えても、まさか政治や経済の話なんてできないし、季節の話を、今更するのもどうだろうと、レイは、しばらく考えて俯いた。ロックオンのほうは、それを眺めたり、外の景色を見たりしていたが、いきなり、がっくりとレイが項垂れたので、声をかけた。
「どうした? 」
「すいません、やはり、シンと一緒に来るべきでした。こういう場合の会話が思いつかない。」
「はい? 」
「俺は、人付き合いというものが、あまり得手ではありません。お見舞いの時に、どんなことを話せばいいのか思いつかないんです。シンなら、いろいろと喋れるのに。」
素直に告げたら、思いっきり、ロックオンは噴出して笑い出した。
「ロックオン? 」
「別に、マニュアルなんかあるわけじゃないし、好きなこと喋れよ? 」
「ですが、俺は堅苦しいことしか言えないし、気の晴れるような話も知らない。ちっとも、お見舞いになっていません。」
真面目な顔で、レイは謝っているわけで、それが、さらに笑いを誘う。まだ、そうやって気を遣うだけ、黒子猫より数段社交的だ。
「うちの刹那より、ずっとマシだと思うけどな。あいつ、俺の付き添いしてても、必要なことしか喋らないし、下手すると、そこいらの床で筋トレ三昧だ。おまえさんは、ちゃんと『吉祥富貴』でホストをやってるだろ? あれができるだけけで大したもんだと思うよ。」
「ホストは、アスランの真似をしているだけです。キラさんが、あまり喋らなくてもいいから、相手の目を見て喋ればいい、と、教えてくれたので。」
「うん、それでいいんじゃないか。シンみたいに、素直に口から言葉が出るタイプじゃないもんな。俺としては、レイが来てくれただけで嬉しいからな。いい見舞いになってるよ。」
「本当ですか? ロックオン。」
「嘘言って、どーする? おまえさんを口説くつもりもないし、本当に嬉しいって。」
「それなら、よかった。」
ほっとしてレイが、ニコッと笑うと、花が咲いたような雰囲気になる。これ、女性ならイチコロだろうな、と、ロックオンでも感心する表情だ。
「時間はいいのか? 」
「夕方、出勤するまでフリーです。何かできることがあったら言ってください。キラさんのパシリで慣れてますから、どんなものでも調達してきます。」
「なら、ライブラリーで、なんか見繕って持ってきてくれ。」
そう頼むと、また困った顔をする。相手の趣味があるから、そういう注文は無理らしい。
「なら、一緒に見られそうな映像データでも探しに行こう。」
それでも見ながら、それについて話でもすればいいんじゃないか? と、立ち上がろうとしたら、レイに止められた。
「待ってください、車椅子を借りてきます。」
「え? そこまでしなくてもいい。」
「いえ、まだ絶対安静のはずです。ライブラリーまで歩くと疲れます。」
すぐですから、と、レイは外へ走って行って、車椅子を借りてきた。それに乗ると、後ろからレイが押してくれる。ライブラリーは、屋敷の三階にあるので、一階のロックオンの部屋からの距離としては、かなりある。確かに、この距離を歩くのは、ちょっと辛い。
「なんか回復しなくてな。」
ドクターからの説明に納得できないものはあるのだが、動けない事実は認めるしかない。まだ、部屋の中を動くくらいで手一杯だからだ。
「連日、外出していたと聞いてます。俺でも、そんなことをしたら疲れますよ? ロックオン。」
作品名:こらぼでほすと アッシー2 作家名:篠義