こらぼでほすと アッシー2
「そういうもんかなあ。」
「そういうものです。・・・映像は、どんなものがいいですか? 」
「自然とか動物とか人間の居ないのがいいな。レイは映画は? 」
「たまに、シンに付き合わされています。シンの好みなので、アクションものとホラーが多いですね。」
「ホラー? 俺、あれはダメなんだ。ゾンビとか気持ち悪くてさ。・・・俺の故郷、普通に妖精とか精霊が信じられている地域なんでさ。ああいうのを見ると、悪いものが寄ってきそうな気がするんだ。」
「妖精ですか。メルヘンですね? 」
「バカにすんなよ? 俺たちには、守護精霊がついてて守ってくれているんだぞ? 」
本当ですか? と、レイは笑いつつ、ライブラリーまで車椅子を押した。そこで、地球の過去の自然の映像や世界遺産の映像データを、いくつも借り出して戻った。レイ自身も、大戦が終わってから、地球のあっちこっちの世界遺産を見学してきたから、その話を織り交ぜつつ紹介できると、いくつか推薦した。探していた時間は、かなりかかっていたので、部屋に戻ったら、すでに出勤時間だ。
「ほら、いい見舞いだった。」
「え? 」
「レイの見た世界遺産の話を聞かせてもらったり、俺だと手にしない映画の説明をしてもらったりしてさ。いい気晴らしになった。」
そういえば、これといって取り立てた話はしていなかったが、かなりの時間、レイは喋っていた。それも、本当にたわいもないことばかりだ。
「いいお見舞いでしたか? 」
「ああ。次に時間がある時はさ、おまえさんの実際に見た感想を聞きつつ、この映像データを見てみたいな。」
「わかりました。時間ができたら、また来ます。」
「無理はしなくていいから、暇になったらな。たぶん、俺は、しばらく軟禁されるみたいだから。」
「そうらしいですね。でも、年越しにはトダカ家に戻ってあげてください。トダカさんが楽しみにしています。」
まだ、十二月に少し早い時期だ。一月もあれば、トダカ家には戻れるだろう。レイのほうは、保護者の警護をするつもりで年末年始は、プラントに戻るつもりをしている。
「まあ、里へ帰るぐらいは、どうにかなるだろう。・・・・お見舞い、ありがとうな。」
「いえ、こちらこそ楽しかったです。」
挨拶して部屋を出てから、レイは、またニコッと微笑んだ。家族という存在がないレイは、ティエリアたちと同じような存在だ。保護者はいるが、それも、こういう交流の仕方はしたことがないので新鮮だ。マイスター組の子猫たちと同じように、ロックオンは接してくれる。ざっくばらんに、まるで昔からの知り合いのように、レイのことも見てくれているらしい。
・・・・なんか、俺のほうが楽しかったような気がするな・・・・
オーナーから、世話を焼かせろと指示は出ているが、気持ち的には甘えたいと思わせてもらっている。キラには甘えようとは思わない。一緒に、前を向いて歩いていこうと思う。
・・・おかあさんっていいものだな・・・・
レイには、そういうものがないが、そういうものなんだろうと、頬が緩んだ。上司でも友達ではない、同志でもない。ただ、自分を温かく見てくれる存在というのは、トダカと似たような感覚だ。ただ、トダカは、何かをしてくれるというのは、あまりない。だから、トダカは父親というものなんだろうと思う。刹那たちが、おかん、おかんと呼んでいる意味が解る気がした。
「レイが足繁く、ママのところへ通ってるって? 」
ラボでハイネからの報告を聞いた鷹は、大笑いをする。あれから、暇があれば、レイは本宅へ顔を出しているので、ハイネと頻繁に鉢合わせしているのだ。
「たらされたな? あれは。」
「そりゃそうだろう。レイならな。オーナーも、そうなるんだろうな。」
「おや、革新的なご意見だな? 鷹さん。」
オーナーは、あまり動じないタイプだ。確かに、ロックオンには、いろいろと思うところがあるだろうから、それなりに相手はしているが、レイのようにはならないだろう。そう、ハイネが言うと、「そうでもないんだな、これが。」 と、鷹は反論する。
「どうして、レイは、通ってると思う? 」
「ロックオンに甘えろっていうオーダーが出てて、さらに、レイが、それを楽しいと感じているからだろ? 」
「まあ、そういうことなんだけどな。レイは、完全な試験管育ちだろ? だから、両親なんてものの愛情とは無縁なわけさ。レイにとっちゃ、ママは、まさに、母親っていう対象になってるんだろう。今、ママも、子猫がいなくて、甘やかす対象がないからな。どっちも、ないものを、そこに求めてるってとこだ。」
一応、保護者というのは、レイにもあるし、トダカが、こちらでの身元引受人にもなっているが、母親という対象はなかった。たぶん、そこが合致したから通っているのだ。
「じゃあ、オーナーも、そうなるって? 」
「だって、オーナーも母親は早く亡くしているんだろ? うちは、そういうのが多いからな。」
両親健在というのは、『吉祥富貴』では少数派だ。何がしかのアクシデントで、それを亡くしている。シンは、十代前半まで、その存在があったから、そこまでではないだろうが、それでも実の親はないから、トダカに甘えている。アスランもしかり、悟空もしかり、だ。記憶に残っているなら、そこまで傾倒しないのだろうが、根本的に居ないものにとって、ロックオンの存在というのは、特別な感覚を味わうことになる。
「サルは、それほどじゃないだろ? 」
「あそこは、八戒お母さんがいるじゃないか。」
「ああ、そうか。」
「だから、オーナーにとっても、そうだと、俺は思うわけですよ。ハイネくん。」
おどけた鷹の言葉に、ハイネも頷く。
「それは、いいことなのか? 」
「いいんじゃないか? オーナーだって、まだ、未成年枠なんだから、甘えられる存在はあるほうがいい。」
歌姫様には、キラという癒しはあるが、甘えられる存在というのはない。それからすれば、たまには愚痴ったりできて、ただの子供として見てくれる存在は、あったほうがいいだろうと、鷹は思っている。自分たちには、さすがに、オーナーという立場上、甘えたことはできないらしい。もちろん、ロックオンも、『吉祥富貴』に勤めている形にはなっているが、形だけで、今のところは療養生活と家政夫をやっているに過ぎない。ほとんど、店には出てこないから、超レアなホストと呼ばれているぐらいだ。
組織に戻ることができないから、何かできることを、と、考えているロックオンの気を逸らせるには、それは有効なことではある。
「そうだな。あいつ、どうも思い詰めてるから、そのほうがいいんだろうな。」
先日、そろそろ意識が戻るだろうと、ハイネが呼び出された時に聞いてしまった。戻りたいのに戻れない、というロックオンの言葉は、胸に刺さったのは事実だ。
呼び出されたものの、病人は、まだ眠ったままだった。栄養剤を点滴しようとしていた看護士の代わりに、ハイネがやったのも、暇つぶしだった。一応、看護士の資格があるので、それなりの処置はできる。だから、代わってもらったのだが、久しぶりすぎて、血管を突き抜けさせてしまったのだ。
作品名:こらぼでほすと アッシー2 作家名:篠義