二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

はがね、くちびる

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

 拳銃は卓袱台の上に置かれている。真田はそっとそれに手を伸ばして、その金属に指の腹を滑らせた。男は部屋に隅に伸びているTシャツを掴み取ってそのアンダーシャツの背中に被せている。真田が拳銃に手を伸ばしたのには気づいたようだが、なにも言わなかった。鋼のかたまりはずっしりと真田のてのひらを重たくさせた。隅々まで目を走らせたその先の拳銃に、傷は一つもなく、火薬のにおいも全くしなかった。銃身を掴み、その銃口を覗き込む。暗い内部に刻まれた螺旋の形状がぼんやりと浮かび上がり、真田の胸を波立たせた。
 畳の上に尻をずらし、拳銃を畳に置く。背中を丸め、マガジンを抜くためのボタンに指を沿わせる。抜き出したそれをテーブルの上に避けた。卓袱台のかたわらに佇んでいる男が真田の手元を注視しているのが判った。真田は構わずに、無言で手元の鋼のかたまりを解体していった。一分とかからず、ニッケルメッキでできた円筒を引きずりだしたころには男の膝は真田の目の先にあった。同じように胡坐をかいて部品の巻き散らかされた畳の上を眺めている。そうして、真田の手元のバレルをさっとさらっていった。その円筒を朝陽に透かせて、その細めた目のまま真田を見つめてくる。……アンタの指、いいな。滑らかに言葉が吐き出されるくちびるは緑茶を飲んだためかぬるりと濡れていた。バレルを手の中に握り込んだまま、ぐっとからだを真田のほうに寄せてくる。そうして小さく、感じちまった、と呟いた。
 縦に長い黒目がじっと真田を見つめてくる。その瞬間真田はあのときのように動けなくなり、畳の上で金属と戯れていた指先が凍った。男の濡れたくちびるがぐっと引き伸ばされるのを見、バレルを握った手が素早く動いて真田の、シャツの襟元にその金属のかたまりを放り込むのを見た。男のてのひらでゆるく温められた円筒はそれでも真田の腹には冷たく感じられ、思わずからだを緊張させた。
 男はその様子にまた笑って、真田の腹を引っ張った。デニムから引き出されたアンダーシャツの裾から、ぼろりとバレルがこぼれ落ちる。ころころとそれが転がってゆくのをぼんやりと眺め、新品だということは、これで松永を撃ったわけではないことだなとそう思った。あの日ナイトゲートで、白い衿に黒髪を揺らせていた様子を思い出し、拳銃とこの男と、振り子のように揺れていた興味の槍先が男のほうに向いた。……お名前は?
 男は不意打ちをくらったように目を丸くさせて、うん?と真田を見返してきた。畳の上の円筒を摘みあげた指先は白かったが、ごつごつと節が浮き出ていた。ああ、と息を漏らした口元はもう乾いていて、それが少し惜しいと思う。……惚れた?
 質問を質問で、それも眉をひそめるような質問で返されて真田は思わず眉間に皺を寄せた。お名前を訊いておるだけですが。しかしそのくっきりとした黒目に覗きこまれて苦しい。言葉尻はすぼまって、これはよくない。惚れたから名前を訊いたんじゃねえの?そのようなこと、一言も。ぼそぼそと呟いていると、短くため息をつく音がした。目の先でバレルが揺れる。思わず背を正すと、真田の口元にその金属の塊が押し込まれた。金臭い。ぐっと男が顔を寄せてきて、笑いながら真田の口元からバレルを抜く。鼻の触れる距離である。惚れたって言えよ。言いながら真田がくわえていた円筒に舌を這わせた。金臭い。そう言って殺し屋は笑った。
作品名:はがね、くちびる 作家名:いしかわ