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背中を押す、手をつかむ

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死んでから思った事といえば、残されたたった一人の家族がこれからどうなるか、だった。
 ガキの俺が思い浮かぶのなんて、しくしく、薄暗いリビングのソファで膝を抱え、1人であいつが泣く姿だった。
 もともと単純だし、ガキだからこそ余計に感受性が高い俺は、そいつをどうにかしなくちゃ、と思った。
 行動理由なんてそれだけ。おぼろげだし、それ以外なんかあったのかなんてきちんと思い出せない。
 だけど、それが俺の死後の、全てだ。

 死んでから、俺は、泣かずに済みそうな方法を一生懸命考えながら、何年も寂しくないように一緒にいた。
いろいろ間違っている気もした。死んだ人間なのに、何時までもこの世にいることとか、抽象的ではっきりしない悪い事が、なんとなく頭に浮かんで、そんな予想が立ちはした。
 だけど、かけがえのない兄のためと考えれば、俺はずっと一緒にいるしかなかった。
 そうして、何年も経ってから、方法は“やってきた”。一生泣かずに済む、後はいっぱい笑っていられる方法。あいつの探している、答え。

 俺の役目は決まった。

 兄貴が答えに気づいたら、後は思いっきりその背中を押す。それだけの役目。そうしたら兄貴はもう二度と寂しくならない。膝を抱え一人で泣く事なんてなくなる。
 
 だから、あの時、兄貴の背を押して、俺は本当の最後を迎えた。

作品名:背中を押す、手をつかむ 作家名:土筆