雪解け
それから数刻。日も傾きカラスの鳴き声が遠くで聞こえたころ、人通りのない部屋に二人の男がいた。
―ダンッ―
襟首を掴まれた佐助が壁に押さえつけられた。
「・・・で?アンタは幸村に何をしたんだ?」
怒りとも狂気とも呼べる色を含んだ瞳が佐助に向けられていた。
「え、べっつに~?俺様は真田の旦那が寂しがってるから竜の旦那に変化してただけだぜ」
佐助は表面上の笑みを崩すことなく政宗の質問に答えた。政宗は納得するはずもなく、より強い力で佐助を壁に押し付けた。目つきも先ほどの者とは比べ物にならないくらいに鋭い。佐助は肩をすくませた。
「まぁ、強いて言うなら旦那の顔を借りて真田の旦那を口説いたところか。いやぁ、あんな旦那を至近距離で見られるなんて、俺様大感激…ってちょっと!なんで刀持ってるの!?え、俺様斬られるの!?せっかくこっちまで運んできてあげたのに!?」
わざとらしく声を大きくする佐助。政宗は舌打ちをして佐助から手を離した。
「そのことには礼を言うぜ。だが!」
服を直す佐助の手が止まった。
「次に俺の格好でアイツを口説いてみろ。すぐに昇天させてやる」
絶対零度の冷たさで言い放つと、政宗は部屋を出て、幸村の自室がある方角へと向かった。
「・・・してみろよ。いっそのこと俺の存在を消して、真田の旦那に俺の存在を強く残してみせろよ。そのくらいに、俺も・・・なんてな」
一人残された佐助は軽く首を振り、ため息を一つこぼす。
「忍にそんな資格はないって分かってるんだ。・・・旦那のこと、幸せにしてくれよ」
雪が積もれば、時が来てそれも解け、春を迎える。これが常であるはずだ。しかし、雪が解けることなく春を迎えることのできないこともあるのだと、彼らは教えているのかもしれない。