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一晩の過ち(R15・暴力描写あり)

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一頻り嗤うと喉に違和感が走った。当たり前だ、アルコールで焼けただれた喉だ、酷使するものじゃない。下にいるセーシェルは相変わらず、冷たい視線を送り続けていた。
「おい、誰に命令してんだ?」
おまえ如き小国が、あまたの国を従えた俺に命令だと。しかも、一度は俺の配下にあったおまえが懇願でなく命令をする。ひどくばかげているな。
「お前は俺の下なんだよ、口答えするな」
確かに先ほどの威圧には目を見開かされた。だけどな、それだけだ。苛立ちも沸点を超えれば後は落ち着いていくだけ。むしろ、怒り狂うこいつを見て何を苛ついているのだと気づかされた。
「どけだ?なぁ、どけって言うなら自分で勝手に起きあがれよ」
踵にさらに力込めてセーシェルの手を床に縫いつければ、顔は苦痛にゆがんだ。昔からそうだ。力ない者は、虚勢を張り続けるしかない。力あるものはすぐにその力をもって相手を従わせる。お前が吠えるのは、お前が力ないからだろう、なぁセーシェル。
「こ、このぉ!」
顔を朱に染め、セーシェルは暴れ出した。全く、これだからバカは困る。あぁ、そうだ。
「これでも飲んで落ち着けよ」
バシャリと手に持っていたワインをセーシェルにかけてみた。いきなりのことにセーシェルはゲホゲホと咳込む。その様子は陸に上がった魚が苦しんでいるのと同じだった。血のように赤いワインが白いシルクのドレスを染めていく。ボタボタと滴り落ちる音とセーシェルの苦しげな呼吸音だけがしていた。セーシェルは逃れようと、左右に頭を降りそうしてぐちゃぐちゃに髪解けいく。
「イギリスさん……」
ポツリと最後の一滴が落ちて責め苦は終わった。水浸しになったセーシェルは全部ぐしゃぐしゃに乱れていた。瞳には生理的な涙が浮かび、髪は水を吸ったことで漆黒の光を宿し、褐色の肌は雫に煌めいていた。はぁはぁと息絶えるセーシェルをみて、俺は惨酷にこう思った。あぁ、最高だなっと。
「泣くなよなぁ……?」
「泣いてなんか……な…」
苦しげに眉を寄せるセーシェルに不意に、俺は腹部に腰を降ろしている事を思い出した。随分と無理な体勢をとっていたな、失敗だ、あぁ悪いことをした。
「どいてやるから機嫌直せよ」
優しく頬を撫でってやったのに、イヤっ、はっきりと拒絶する少しは媚を売ることを覚えばいいのに。そうは言っても、こいつはそんな計算高い女になったらその瞬間にきっと冷めちまうけどな。艶を増した髪を手にとると、それは確かにこいつには似合わないアルコールの匂いがした。自分がしたことだというのに、またイラついた。ムカムカするのだ、こいつが「大人の女」を匂わすのが。あぁそう言えば、こいつは娼婦みたいな赤いハイヒールを履いていたな。
「……なぁ、セーシェル?さっきのワインで終わりなんだよ。どうだ、体を張って止めた気分は?」
「最悪です」
「そうか」
腰まで長い髪を放してやる。その代わりに解けかかったリボンをその手に掴む。
「お前は分かっているのか?こんな深夜にアルコール飲んだ、男の元に来ることを。その意味を」
セーシェルは何も答えない。ボタボタと握りしめたリボンからまたワインがセーシェルに垂れた。
「なんで…そうまでして酒を飲んで逃げるですか?」
「なんでお前はこうされるって分かっていて俺に関わってくるんだ?」
疑問は平行線をたどることは明らかった。しかたなしに俺は片足を一つずつ下ろし、腰を浮かした。
「-っ」
その隙を逃さずに、セーシェルは起きあがって俺の襟首を掴む。
「イギリスさんは……イギリスさんは……なにもわかってない!!」
震えていた。服を握りしめる手は驚く限り震えていた。
「どうしてこんなお酒ばっかり飲むんですか……どうしてそうやって自暴自棄になろうとするんですか……どうして私の気持ちを分かってくれないんですか……どうして……」
掴んでいた手が落ちた。投げ出されるように膝に置かれた細すぎる手首をみて、なんでこいつは自分の涙を拭おうとしないかと思った。俺が、その涙を拭わないことは分かりきったことなのに。
「なんで」
泣きだしたセーシェルに俺は、やっとこの冷水をぶっかけたように熱が引いた。さっきまで奪ったリボンでこいつの手首を縛り、靴を脱がして窓の外の放り投げてやろうかと考えていたのに。
「なんで……お前は関わってこようするんだよ」
お前が関わってこようとしなければ、こんなにイラつくこともなかったのに。そして、こいつを抱くこともなかったのに。