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僕らは電脳世界で恋をする!@3/19更新

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寂し寂しと泣く子供



ぱちり、とマゼンダの眸が瞬きをする。
きょろりと動いたそれは、何かを探すかのように彷徨った。
けれど、目当てのものが見つからなかったのか、小さな両の手がきゅっと握り締められる。
噛み締めた唇は、今にも嗚咽を零しそうで。
眉が下がり、じわじわとマゼンダの眸が揺らぐ。
わなわなと、噛み締められた唇が開いたかと思えば、
「がっくんどこー!!」
泣き声と共に、こどもは―――サイケは、大好きなひとの名前を呼んだ。





心身ともにこどもで甘えん坊なサイケにとって、大人で思慮深い学人は誰よりも甘えられる存在だ。
もちろんマスターも大好きだけれど、マスターにはどちらかというと「頼ってもらいたい」「役に立ちたい」という想いが強いから、サイケは小さな身体でえっちらおっちらと与えられた作業を頑張る。
そんなサイケが全力で甘えられる存在が、同じPC内の住人である学人だ。
学人はいつでもサイケの傍に居てくれた。
よくできましたねと柔らかな声で頭を撫ぜてくれたり、眠くなったらだっこしてくれたり、綺麗な声で唄ってくれたりもした。
サイケはそんな学人が大好きだ。
だから、学人が傍にいない今がひどく寂しくて哀しくて、サイケは泣いてしまうのを止められなかった。
ぴああっと声を上げて泣くサイケの上で、ぴこん、と音が鳴り、人影が現れる。
それはサイケと同じカラーを身に纏い、小さな身体にスーツを着たもう一人のサイケデリック。
デリ雄は涙を流しては拭って流しては拭ってを繰り返す、サイケにきゅっと眉を顰める。その口には何時も銜えている煙草の形を模したチョコレートが無かった。
「さっきからうるさい、サイケ。がくとがいないぐらいでびーびーなくな」
「うぅッ、だって、もう168じかんも、がっくんみてないんだよっ!でりおはさびしくないの!?」
「っ、・・・おれはさびしくなんて、ない!」
「うそつき!おれ、でりおがずっとずっとがっくんのうたごえさいせいしてるのしってるんだからね!」
「お、おまえみたのかよ!」
「ほんとはさびしーくせに!でりおのうそつき!」
「っうるさいうるさい!おれだって、おれだって・・・!」
声も手の温もりも優しさも笑顔もすぐに思いだせるのに、その存在だけが無い。
デリ雄さんはいじっぱりですねぇ、と微笑みながら頬を撫ぜてくれる手が無い。
チョコレートだって、学人がいつもデリ雄の為に買ってきてくれる大好きなお菓子だけど、学人が居ないからもう手元には無い。
大声で泣くサイケの横で、デリ雄もぎゅっと唇を噛んだ。しかし我慢も虚しく、ぶわりと目が熱くなり、そのままぼろぼろと滴が零れ落ちていく。
大好きな人がいないだけで、こんなにも哀しい。寂しい。
はやくここにきて。
はやくもどってきて。
その手で僕らの頭を撫ぜて。
その声で優しく慰めて。
そして、あの笑顔を、見せて。
こどもふたりの泣き声が木霊する空間に、ふわりと降り立ったのは、こどもたちが望んでやまない相手。
「お2人とも、そんなに泣いては目が溶けちゃいますよ」
ぴたりと止んだ泣き声。
瞬いた四つのマゼンダに、その人は優しく微笑んだ。

「ただいま、戻りました。良い子にしてましたか」

その声に、微笑みに、ひくりと喉が鳴り、そうしてこどもふたりは思いっきり目の前の細身の体へと飛び付いた。
「がっくんがっくんがっくん!!」
「~~~~がくとっ」
再び涙を溢れさせ名前を呼び続けるサイケと、ひたすら震えながら学人の身体に短い腕で懸命に抱きつくデリ雄に、学人は僅かに戸惑いながらも、両の掌でそれぞれの背中を優しく撫ぜる。
こどもたちがこんなにも泣く理由はわからないけれど、ただただ寂しかったのだという気持ちが痛いほど伝わってきたので、とりあえず学人はこどもふたりが泣きやむまで待った。時折、優しく声をかけながら。
それが余計に2人の泣き声を大きくさせてしまったのには、さすがの学人も困ってしまったけれど。



泣き疲れたこどもたちは学人に抱きついたまま眠ってしまった。
右太ももにサイケの頭を、左太ももにデリ雄の頭をそれぞれのせて、2人に毛布を被せる。
黒と金の頭を撫ぜていると、ぽん、と頭上で音が鳴り、モニターが現れた。
学人は僅かに姿勢を正す。
モニターに映ったのは、学人達のマスターである竜ヶ峰帝人だ。
帝人は3人の姿に一瞬驚いたように目を瞠って、けれどすぐに綻ばせた。
《御苦労さま、学人》
「いいえ、マスター。これも僕の役目ですから」
《子守りが?ふふ、しょうがないか。サイケもデリ雄も学人にべったりだからね》
「僕が年長者だからですよ」
《それだけじゃないと思うけど》
学人のマスターが仕方がなさそうに笑うのに、学人は僅かに首を傾げた。
《まあ、いいや。学人には今回がんばってもらったから、しばらくお休みあげるよ》
そう、学人はマスターである帝人の要請で、別のPCで作業をしていたのだ。
外見に似合わず、かなりのハイスペックな機能を持つ学人は色々なところに引っ張りだこで、帝人の生活に多大な助力を齎している。時折こんな出張もあるのだが、ここまで時間を費やしたのは初めてだった。
《サイケとデリ雄にはちょっとだけ留守にするとしか言ってなかったからね。こんなに時間掛かるとは思わなかった》
臨也さんめ、そう呟いたマスターに、学人ははんなりと眉を下げたがコメントは差し控えさせてもらった。
「せめて連絡だけでも入れられたら良かったんですけど、それもできませんでしたから」
2人に寂しい想いをさせてしまいました。
泣きじゃくりながら名前を呼び続けたサイケと震えながらしがみ付くデリ雄を思い出して少し落ち込んだ様子を見せる学人に、帝人は柔らかく微笑んでみせた。その微笑みは先ほどサイケ達に見せた学人の笑みと酷く似たものだった。
《心配させちゃったからね。お休みの間は、2人にめいっぱい構われるといいよ》
「マスター・・・」
《ふふ、じゃあ僕はログアウトするよ。――おやすみ、学人》
「お休みなさいませ、マイマスター」
ぷつんっとモニターが消え、静寂が空間を包む。
学人は一度吐息を付き、こどもふたりの顔を見下ろして、そっと微笑んだ。
前髪を掻き分け、露になったふたつのおでこに優しくキスをする。
「お休みなさい、良い夢を」
起きたら、たくさん遊びましょうね。
囁いて、学人は鮮やかなエメラルドグリーンの眸をゆっくりと閉じた。