前夜
勇敢なシグムンド、北の森の民をまとめる若き長。
何故その相手が人間の女では無いのだろう。
だってそれが自然の摂理だろう?
すでに唇を受け入れてしまっているのに、頭の片隅でそんな事を考えてしまう。
『シグムンド、お前は何故そこまで未来を信じるんだ?』
『未来を信じる?』
『その諦めの悪さのことだよ。いつも皆を奮い立たせて戦っているじゃないか。そう、神でさえ奮い立たせるほど。』
『……未来なんて信じてないさ。』
『信じてない?』
『あぁ、ただ、愛する者を死なせたくないだけだ。』
そうか、と呟いてフレイは胸の奥で何か引っかかる気がした。
シグムンドの見つめるその瞳の先に自分が映っている気がして。
目を見て話しているだけなのに、心がざわついた。
そうか、あれは私に言っていたのか。
熱い舌が首筋をなぞる。
「シグムンド……。」
「止めないぞ。」
「構わない。」
顔を上げたシグムンドと視線が交わる。
「……良いのか?」
「今更それを聞くのか?」
その微笑みは悪戯な少年のようで、けれど、どの女神よりも美しいとシグムンドは思った。
フレイは、これが最初で最後の夜になるだろうと思った。
そして、きっと彼も。