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過去作品を晒してみよう、の巻。

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1.無双(OROCICHI)+戦国BASARA



 1.呉軍中心


「あっ、左近、左近―――!!!」
 回廊を歩いている最中に階下より掛けられた声を聞き、下方を覗き込めば、己に向かって精一杯手を振っている人物と目が合った。
「孫策さん。」
「なぁ左近、今暇か?ちょっと降りて来いよ!!」
 そう言って全開の笑顔を向けられては、無碍にも出来ず、今は遠き地へと従軍しているらしい己の主との差異を見付け、苦笑が零れた。
 幸いな事に、回廊に付けられた手摺に大した高さも無く、また此処から階下迄の距離も然り。
 何時かに備えて武装は常に解く事は無いが、ただ城中を歩くのならば普段所持している大剣は必要無い。
 常よりは軽い身を利用し、手摺を飛び越えひらりと階下へと着地した。
「おぉ~、左近凄ぇ!!でも周瑜が見てる時はやらねぇ方が良いぜ!叱られるから。」
 母親から与えられる叱責と同位な発言に、失笑が漏れた。
「そうですね、気を付けますよ。で、この左近に何の・・・孫策さん、何してるんですか?」
 何やら彼は、座り込んだ身の向こう側に、何やら小さい物を隠している。
 否、隠しているのでは無く、自身の位置からは見え難いのだろう。
 しかしあれは、どう見ても・・・そしてそれは、いくら頭を捻った所で彼とは結び付かない次元にあるような気がするのは己だけだろうか。
「ん?コレか?朝顔だ!!」
「否、それは見れば分かりますが・・・」
「毎年、周瑜が何所からともなく持って来て世話しろ、って言うんだ。しかも成長過程も記して残せって。提出しろと迄言われたんだぜ?俺にも良く分かんねぇよ・・・」
 ・・・情操教育の一環のつもりだろうかあの美丈夫は。
「しっ、しかしまぁ元気に育ってるじゃないですか。」
「ん~、でも、初めの頃は大変だったんだぜぇ?初日から枯らしちゃって、散々周瑜に怒られたんだ。世話の仕方が悪い、ってな。だけど流石に毎年やってりゃコツも掴めるって!!」
 恐らく、あの心優しい、それで居て動植物が好きそうな奥方様にも、散々指導を入れられたに違いない。
 それにしても、態々観察日記迄書かせて提出させるとは・・・あの人はこの人の母親か?
「でな、左近、本題なんだけどな。」
 あぁ、すっかり忘れていた。
「はい、何です?」
 そう言えば、どう切り出して良いのか思案しているようで、「う~ん」だの「あ~」だの煮え切らない唸り声を上げている。
「言い難い事ですか?心配しなくても誰にも言いませんよ。」
「そうじゃなくてな・・・うん、ややこしいのは嫌だから、単刀直入に行こう。」
 覚悟を決めたらしい彼は真っ向から己の目を見据え、その口から、少々考えさせられる発言を紡ぎ出した。
「聞いた話なんだけどな。周瑜は兎の耳で、俺は犬の耳らしいんだ。コレって、どう言う意味だ?」
 聞いた直後、数瞬の間固まってしまった。
 何だって?
「・・・孫策さんが犬耳で、周瑜さんが兎耳?」
「おう!」
 確かに、失礼だが此処だけの話、彼は宛ら犬のようではある。
 愛嬌もあり、皆に好かれ、素直で、どちらかと言えば考えるより体が先に動く、そんな種類の人だ。
 それは認めざるを得ない事実であり、実は大方の人間が周知としている共通の認識でもある。
 よって、後者は良いとしても、だ。
「・・・一体、誰にその話を聞いたんです?」
 あの矜持の高い、色白の美丈夫が、兎等と言う可愛らしい形容しか見当たらないような動物に譬えられるその意味が分らない。
「あぁ、稲が教えてくれたぞ!!」
 脱力をしかけた。
 彼の前で思い切り膝を折る所であった。
 危ない、しっかりと気を持たなくては。
「えぇと、はい、分かりました。」
「えっ?意味分かったのか!?」
「そっちの意味では無くてですね。まぁ、左近にもその辺りは分かり兼ねます。ので、孫策さんに代わって、俺が稲姫に訊いて参りましょう。孫策さんは朝顔の観察に励んで下さい。」
 彼の表情が、更に輝かしいモノへと変わる。
「おう!!有難うな左近!!!やっぱお前は優しいよな。」
 隠す事無く注がれる、感謝と尊敬の眼差し。
 是で言えなくなってしまった。
 自身の行動も、単なる興味本位なのだと・・・



 さてどうしたものか、と、孫策と別れた左近が再び回廊を歩いていると、運良く尚香と談笑している稲の姿が目に入った。
 しめたと思った左近は、先程とは逆に、回廊の上から下方へと声を掛けた。
「稲姫!御話中済みませんねぇ、ちょっとよろしいですか?」
 声を掛けると、振り返った稲と左近の目が合う。
「あぁ、島殿。」
「今下へ行きます。」
 そう言い、今度は婦人方の手前飛び越えはまずかろうと、態々回り道をして下方へ回った。
「いやぁ済みませんね話の途中。御邪魔してしまいまして。」
「御気になさらず。」
「そうよ左近さん!それで、どうしたの?」
 尚香が興味津津と言った体で訊いて来るが、如何せん彼女の実兄に関わる事だ。
 話しても良いのやら、と一瞬逡巡したが、案外妹の彼女なら知っているかもしれないと、思い切って訊いてみる事にした。
「実は、孫策さんから、自分は犬耳で周瑜さんが兎耳だと稲姫に聞いたが、どう言う意味なのか教えて欲しいと頼まれたモノですから。直接聞いてみようと思いまして。」
「あぁ、その話?アレって、私尚香から聞いたのよね。」
 実の妹から、と言うのに聊か目を剥き彼女を見れば、尚香も思い出したようで「あ!」と声を漏らした。
「そうそう!それ私が稲に言ったのよ。ウン、確かにそう。」
「・・・で、どう言う意味です?」
 苦笑気味に問えば、尚香は慌てふためき、両手を胸の前で左右に振った。
「違う違う!!私も聞いた話なのよ!?あまりにも当て嵌まり過ぎてて面白かったから稲に話しただけ!」
 己は無実だと言い張る彼女に、左近は優しく訊いた。
「そうだったんですか。なら、その話は一体誰に聞いたんです?」
「えぇっとねぇ・・・あっ、権兄様に聞いたんだわ!」
 ・・・今度は実の弟かららしい。
「権兄様にも話、聞く?今なら多分、執務室の方に居ると思うわよ?」
「そうですか。分かりました、有難う御座います。早速行ってみるとしましょうかね。」
 そうして左近は、2人に見送られ、次の目的地へと足を向けた。



「・・・その話か。」
 ふぅっ、と溜息を洩らした孫家次男の彼は、どうやら御疲れのようだ。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、心配無い。どうせいつもの事だ。」
 それも問題ではないだろうかとも思ったが、その辺りの管理はあの寡黙な彼が看ているであろうと思い、深く追求しない事にした。本題は別なのだ。
「尚香さんから孫権さんに聞いた、と伺ったんですが、孫権さんが仰ったんですか?また珍しいですね。」
「そんな訳が無かろう!私も人に聞いたのだ!!」
 ・・・またか。
「随分と話が蔓延してますね。孫権さんは一体何方から?」
「父だ。」
 ・・・・・・この一家は本当に・・・
 何ともまぁ、穏やかでほのぼのとした家族なのだろうと、遠い眼をした。
 此処で長話をしていても埒が明かない。左近は孫権に礼を言い、部屋を退室した。



 後、孫呉の大虎孫堅さんの下を訪れたが、彼も人伝に聞いたと言う。