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鉄の棺 石の骸番外8~水魚の交わり~

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 2.

 Z-oneの正体が明かされてからずっと訊きたかったことを、アンチノミーは訊いてみた。
「ねえ。僕を機皇帝から助けてくれたのは、「遊星」なのかな?」
「はい」
「じゃあ、あの時、僕に手を差し出してくれたのも?」
 その問いに、Z-oneは答えていいものか迷っている。もしかして、と思い、アンチノミーは更に訊いてみることにした。
「もしかして、あれは、君?」
「……はい」
 自分にも、何かできることがしたかった。こんな自分にできたのがあれだったのだ。
 Z-oneは右手をきゅうと握りしめて答える。
「身体だけを提供しておいて、後は「遊星」にお任せ、では、何もしないのと一緒です。私は、元々この世界を救いたいと思っていました。「彼」は、私にもできることがある、とあの役割を任せてくれたのです」
 私は彼と共に生きている。共にこの世界を救いたいと思っている。この身体になった今、それがよく実感できるようになったと、Z-oneは語った。
「そうなんだ……」
 誰よりも近い存在として、「遊星」と生きていられる。アンチノミーはZ-oneが羨ましいとさえ思った。
「でも、すごくない? ずっと遊星の傍にいられる身体なんて」
 ファン冥利に尽きるだろう、とアンチノミーが羨望まじりに言ってみると、
「いいえ。この身体にだって、不便なところがあるのですよ」
 意外にもそんな答えが、Z-oneから返ってきた。
「え? どうして?」
「まずは、みんなが遊星コールしている時、参加したくてもできないところですね。私は彼の身体なのですから」
「あ、それはそうかも」
 アンチノミーはそんな光景を想像してみた。いつものように遊星コールをしている群衆の中心で、「遊星」本人が熱烈なコールをしていたら絶対変だ。
「それと何よりも、堂々と遊星語りしたくてもできないのが残念ですね。「遊星」が遊星語りしていたらおかしなことになります。今までは、語り合えるようなファンの人が周囲にいなかったから平気でいられました。しかし、あなたのような遊星ファンがいると知った今では……」
 その事実がとても寂しいのだと、Z-oneは自嘲した。
「すごいとか言っちゃって、ごめんね。Z-one」
「いいのですよ」 
 アンチノミーからの謝罪に、Z-oneは首を横に振って答えた。
「私は後悔なんてしていませんよ。これは、強制された運命ではない。紛れもなく私の自由意思で定めた使命なのです。私が英雄をこの身に降ろそうとした時から、こうなることは覚悟の上です」
 でも、とZ-oneは続けて言った。
「でも、あなたにはあなただけの身体がある。あなたは、自分の身体をもって、あの人に率直に思いを伝えてあげてください」
 そう言ったZ-oneは、やはりどこか寂しそうだった。
 思いついて、アンチノミーはZ-oneにある提案をすることにした。
「Z-one。僕と、遊星の身体である君とは、大っぴらにファン活動ができないけど」
「はい」
「僕たち、遊星のファン仲間になれないかな? もちろん、みんなには内緒でね」
「え?」
 Z-oneは一瞬目をぱちくりさせた。遊星の顔ではめったに見られない表情だった。少なからず驚いた後、彼はおずおずと尋ねた。
「……いいのですか? 私は、遊星についてあなたと一晩中語り明かすことも、一緒に応援することさえもできないのですよ? そんな仲間、つまらなくないですか?」
「例え普通に語り合えなくても、同じ遊星ファンがここにいる。僕にはそれで十分だよ。……ね?」
 アンチノミーは、相手を安心させるように笑って見せた。

「ありがとう。――君とは、とてもいいファン仲間になれそうです。アンチノミー」
 いつもの「遊星」とは違う晴れやかな笑顔で、Z-oneは笑った。


 「遊星」の元へ集う人間は、日に日に増えて行った。初めは小規模だったキャラバンは、現在はもう、千人以上を数える大集団と化している。
 その中には、アンチノミーのように「遊星」の正体を知った人間もいた。何人かは「遊星」の元から離れて行ってしまったが、ほとんどは彼の元に残って活動を続けている。アンチノミーも、その一人だ。

「遊星! 遊星!」

 今日も今日とて、広場の群衆から遊星コールが轟々と鳴り響く。
 群衆の前列には、アンチノミーがいる。誰よりも大きく声を張り上げ、誰よりも勢いをつけて右腕をぶんぶん振り下ろす。
 コールの中心には、「不動遊星」がいる。背筋をぴんと伸ばし、胸を張って堂々とした様子で今日も群衆のコールに応えている。
 多分、「Z-one」も彼のすぐ傍で群衆を見ているのだろう。姿は見えないし、声すらも聞こえない。それでも確かにそこにいるのだ。
 Z-oneの存在を知った日から、アンチノミーは密かに決めていた。これからずっと、自分の応援は二人分。大っぴらに応援できない「ファン仲間」の分まで、自分が遊星を応援するのだと。
 それが今、アンチノミーがZ-oneにしてやれる唯一のことだった。
 
――僕と君とは、ずっと仲間だ。Z-one。

 遊星コールは、今も鳴り止む気配もなく続いている。


(END)


2011/3/7