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罰が愛

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 罪は罪。
 罰は罰。
 ひとかけらの奇跡もそこにはない。
 延々と永遠に繰り返す。

 いつかの日まで。




 帝人は肺が焼けるようだと思った。
 屋敷が燃えているせいではないだろう。
 刃は臓腑を致命的に傷つけ流れ出す血液は止めようもない。
 仰向けに倒れ込んで見えるものが豪奢な天井飾りではなく泣きぬれた男の顔。
「ざ、んね・・・・・・で、した。ひ、めはすでに」
「どうして身代わりなんか、せめてあの娘と一緒に逃げてるんだと・・・・・・」
 呆然とつぶやく臨也に普通はそうだろうなと帝人も納得する。
 わざわざ命を狙われている姫の身代わりを引き受けた理由など簡単だ。
「きっ、と、くると――」
 本来ならこんな所に臨也は来ないだろう。
 指示を出して高みの見物で終わる。腕に自信があったとしても血生臭いこんな場所へ来るはずがない。
 だが、帝人は確信していた。
 臨也は姫を殺しにくる。
 主義など無視して自分の目でその死を確かめるために単身やってくる。
 会ったのはただの一回だけだったが瞳が言っていた。
 邪魔なものは全て切り裂いてでも手に入れると。
 臨也が囚われていたのだとしたら帝人も同じことだ。
 その熱に絡めとられた。
 だから、ここに残った。
 一緒に育った彼女を愛しいと思っていた。それは家族のような愛だった。
(この人に会わなければ僕は生涯を彼女に捧げただろう・・・・・・生まれたときに決められた通りに)
 死はエゴの形。
 たった一つ許されたワガママ。
「ここが無くなれば、君は解放されるじゃないか・・・・・・」
 臨也の頬を伝う滴に帝人は冷たくなっていく身体が温まる浅ましさを思う。
 強い、これ以上にない想いの重さがのし掛かる。
 彼女の愛した一張羅。鳳凰に火がつく。
 魂が引き合うような出会いだった。
 積み重ねていた自分自身を破壊するような愛だった。
(きっと、お互いに)
 帝人は微笑む。
 与えられた愛に満足して。
 臨也は嘆く。
 与えられた愛が尊すぎて。
「どうして・・・・・・」
 繰り返しながら臨也は納得もしていた。
 帝人は家も愛も捨てなかった。
 たとえ没落したとしても少女が生きていれば家は再興できずとも帝人は囚われたまま。
「どうして・・・・・・」
 そういう風に生まれて育ったから、それだけの理由で。
「どうして・・・・・・」
 運命は残酷な現実しか突き立てない。
 乱世でなければよかったのか。
 敵でなければよかったのか。
「どうして・・・・・・」
 生まれた時代が悪いのか。
 生まれた場所が悪いのか。
 突きつけられた現実は自分が愛しい人を凶器で貫いたという取り返しがつかないこと。
「ま、た・・・・・・あえた・・・・・・ら」
 炎が勢いを増す。
 帝人が姫の身代わりに着た鳳凰の刺繍が入ったきらびやかな衣は襲いかかるかのように帝人の身体を包む。
「次もその次もずっと、ずっと俺は、俺は君だけを」
 自分が後ろから突き刺した刀を抜くこともせず炎に包まれた帝人を臨也は抱きしめる。
 熱を感じたのだとしたら帝人の愛情だろう。
「どれだけ繰り返しても俺はきっと君を求める」
 誓いの言葉が帝人に届いたかは知らない。
 臨也の自己満足でしかないだろう。
 柱が倒れてくる。
 もう意味がないというのに臨也は庇うように帝人を腕の中に閉じこめた。
 奇跡など存在せず愛の重さのための罰だけが積み重なる。
 それでも君に出会えてよかった、と愚かな男は泣きながら最期の言葉を吐き出した。



作品名:罰が愛 作家名:浬@