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嘘吐き

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 夜と同じ色で染め上げたような見事な藍色の髪を揺らしながら、周りの者と比べて小柄な体を動かし、少年は走っていた。人工皮膚の色は日に焼けたような色で、少年らしい幼さを見せていた。

 「兄貴っ!」

 嬉しそうに駆け寄ってくる少年に気付いたのか、クワガタムシの角のような飾りがついたカチューシャをしている青年が振り返った。少年と少しばかり似ている顔立ちの青年は立ち止り、駆け寄ってくる少年を抱き止めた。
「どうしたのです、ビートブード」
青年に言われ、少年は幼い顔を上げて言った。
「だって、兄貴は任務で出掛けてたじゃん!俺、寂しかった!」
「仕方ありませんね、貴方は」
青年の胸に顔を埋めるのが落ち着くのか、ビートブードと呼ばれた少年は自分の兄の胸に顔を埋める。
「…しばらくは非番になりそうですよ」
「ホントに!?兄貴、ホント!?」
青年がビートブードの髪を撫でながら言うと、ビートブードは嬉しそうに顔を上げた。その様子を見て、青年だけでなく周りの者も纏っていた空気を和らげる。
 彼らは周りの者からも「第17部隊のブーメル・クワンガーとグラビティー・ビートブード兄弟は仲が良い」と言われるほどだった。
「じゃあ、また兄貴といられるの!?」
「しばらく、ですがね」
クワンガーが言うと、ビートブードは頬を膨らませた。
「兄貴の『しばらく』って短いじゃん!」
「それだけシグマ隊長に信頼されているのですよ」
「兄貴が隊長に信頼されてるのは、俺だって誇れるけど…けどさぁ…」
何か言いたげに口を動かすビートブードの声が、クワンガーには聞こえていなかった。
 クワンガーは、ビートブードと…可愛い可愛い自分の弟と共に過ごせる時間が短い事を知っていた。彼らは「イレギュラーハンター」として、「イレギュラー」を処分しなければならなかった。それは、ビートブードも理解している。ただ、それ以上の事を知らなかった。だからクワンガーは「任務だから」と嘘を吐いて出掛ける。
「でも兄貴、俺さ、もう子供じゃないから!大丈夫、ガマンできる!」
「…そう、ですね。もう、ビートブードは大人でしたね」
 非番だから一緒にいられるというのも嘘だった。クワンガーはそれを悟られないように気を付けつつ、ビートブードの頭を撫で、抱き締める腕に力を込めた。
「…ビートブード…ッ…」
ビートブードは背伸びをして、クワンガーの頭を撫でていた。ハンターとして戦っているのに、まだ幼いビートブードの手は柔らかく、クワンガーの赤い髪を優しくなぞる。

 「大丈夫だよ、兄貴。だって、俺達兄弟はいつでもいっしょだから」

「ビート…ブード…ッ…ぁあぁぁ…!」
 嘘を吐いたと見抜かれるのが怖かった。兄弟でも相手を誤魔化す為に嘘は吐く。それでも、クワンガーは嫌だった。可愛い弟に「嘘吐き」と言われる事も、嘘を吐いてまで誤魔化した事を知られてしまうのも。
「あ、兄貴!?ごめん、俺、何か悪い事した!?」
「何でも…何でもありません…っ!」
嘘吐きと呼ばれるのが嫌なのに、クワンガーはまた嘘を吐いた。本当は、自分はもうイレギュラーになる覚悟をしたと。いずれは戦うかもしれないと。それをビートブードに言おうとした。ただ、それを言う事が出来なかった。そんな事を言ってしまえば、素直で可愛いこの少年は泣きだしてしまうから。
 目から零れる涙を拭い、呼吸を整えてクワンガーは笑った。

 「私達は、ずっと一緒ですからね、ビートブード」

 また、嘘を吐いた。

作品名:嘘吐き 作家名:グノー