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ふざけんなぁ!! 6

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24.あなたの希望は何ですか? 2




帝人達が帰宅して早々、リビングの大型TVの大音量がキッチンまで聞こえてきた。
貧乏と節約を友に生きてきた自分が消し忘れて外出する筈ないから、幽がやっと起きたのだろう。
時計を見れば十七時半をちょっと超えていて、今日はとてつもなく遅い。

彼はまだ時差ボケがあるのか、現状昼夜がすっかり逆転状態にあった。
朝日が昇ってから眠り、昼過ぎか夕方に目覚めるので、帝人は基本彼用の朝食を準備する事はない。
でもお腹が空いた時用の軽食にと、ダイニングキッチンのテーブル上に、メモと一緒にホットケーキとメイプルシロップ、それからフルーツとヨーグルトのサラダを準備しておいたのだが、一切手をつけた形跡がなくて。
あの人は結構天然でボケている所があり、どうも気づかなかったようだ。


「うーん、早めの夕飯にして夜食に回すか、それともこれを食べて貰うか」


中途半端すぎる時間に、どうしようと眉間に皺を寄せ迷っていると、静雄が己の肩に下げていた帝人特性マイバックを降ろし、冷蔵庫を開けた。


「早めのメシでいいんじゃねーか。俺も小腹が空いたし、あいつも、実家出てからコンビニ弁当と外食主体で碌な食生活送ってこなかったから、栄養随分偏ってるしよ。この機会にお前の美味い家庭料理を、たらふく食わせてやってくれ」
「はーい」
(静雄さんって、本当に弟さんの事が好きなんだよねぇ)


こだわりのバーテン服が、実は幽からのプレゼントだったなんて知らなかったし。
日常的にコスプレを楽しむ人でもなく、逆に目立つのが嫌いなタイプなのにどうしてだろう?と思っていたけれど、ダンボール二箱分大量に貰ったからといって、全部使い切るまで着るって決めたなんて、何処まで律儀で真面目な人なのだろうと、本当にびっくりだ。


家主の命令も出た事だし、微笑ましい気分でエプロンを装着し、静雄が甲斐甲斐しくも持ち帰った食材をせっせと冷蔵庫に詰め終わるのを待っていたのに。
事件は唐突に怒った。


「俺のプリンが一個もねぇ!!」
「え?それって出かける前に私が作った、焼きプリンですか?」


『冷やしてから生クリームを添えて食べましょうね♪』と、『今直ぐ食いてぇ』とぐずる静雄を宥めすかし、一つだけ与えた後容赦なく仕舞い込んだ物なら、確か後、カップで七つもあった筈なのに。
「かすかぁぁぁぁぁ、てめぇ一人で食いやがったなぁぁぁぁぁ!!」


拳を振り上げてどすどすとリビングに突進していった彼の背を、慌てて追いかける。


リビングをひょいと覗けば、幽は紺色の寝巻きを着たまま、TVの真ん前のソファーに座り、半分目を閉じ、無謀にも静雄が楽しみにしていたカスタードプリンを食い散らかしていた。
まだまだ夢うつつの癖に、六つは既に完食し、最後の一個をもっきゅもっきゅ頬張っている。
何事にも全く動じない弟さんは、すこぶる寝起きが悪いらしい。
(ああ、幽さんってば、自分で死亡フラグ立てちゃったよ)


古今東西『食い物の恨みは恐ろしい』と言うけれど、平和島兄弟は超甘党で、特に牛乳を加えて作る菓子に対する執着が凄い。
弟さんも、軽くでいいから独り占めを謝ってくれればいいのに、静雄の純粋な怒りも一切無関心のまま、リビングのテーブルに頬肘をつき、無表情のまま食べ続けているし。
(あーあ、火に油だ。こりゃ)


それに、あの人猫缶も間違えたらしい。
テーブルの上にちんまり鎮座し、シーチキン缶を与えられた愛猫の独尊丸の方が、テロテロと汚した己の口を拭うのも忘れ、静雄の剣幕に怯えガクブルに震えている。
(幽さんってば、あんな油がたっぷりこんと漬かっているものを、仔猫ちゃんにあげたら体に悪いし)


静雄だけが怒りに震える一方的な兄弟喧嘩勃発を、子供だなぁ……と微笑ましい気分で眺めていたが、全く動じず、無視状態な弟の態度に、切れた彼の手が大型テレビにかかりやがる。

そろそろヤバイ。
特にテレビは、廃棄するのに処分費用がかかる。
帝人は急いで駆け出した。

「静雄さん、もう、めっ……、です!!」
背後から飛び掛って抱きつき、彼のほっぺにちゅっとキスを落とす。
途端、ぽぽんと茹蛸状態になる、彼の純情で整った顔がとても可愛いい。

「濃厚ミルクチョコアイスも作ってありますから、桜桃とパインとシリアルとポッキー、それにチョコソースと生クリームも添えてパフェ風にしていただきましょうね。夕食後にとっても美味しいのを作ります。だから幽さんを許してください、ね?」

もう一つちゅっと頬にキスを落とすと、彼は益々頬を赤く染め、こくこく頷く。
静雄の爆発を抑えるには、今の所、この方法が一番効果的だった。



★☆★☆★


そして十分後。


「静雄さん幽さん、ご飯ですよぉぉぉ♪」


ほかほかの真っ白いご飯を茶碗一杯に盛って配ると、静雄も幽も、不思議そうにテーブルのど真ん中に置かれた黒い鍋を凝視した。
現状、すき焼き用の金属鍋は空っぽで、一切何も入っていない状態だ。


「帝人、これで俺達にどうしろと?」
「兄さんが暴れそうになったから、罰ゲーム?」
「えっへっへっ♪ 違います。今日の夕飯は、万華鏡ナベ(命名:正臣)なんです♪」


カセットコンロに火を灯し、黒ナベの底を脂身で擦る。
三人用の中型だから、土鍋と違って火の通りはとっても早い。
鍋を温めている間に、帝人は小走りでキッチンへ行き、冷蔵庫の中から、赤唐辛子と生姜、それと味噌ダレに半日漬け込んでおいた鳥肉とぶつ切りにした大量の長ネギを持ち帰り、一気にえいっと投入して、木のしゃもじでゴロゴロ炒めだした。
火力が心配だったけれど、カセットコンロは結構強力で、火に炙られて肉も直ぐに程よく焼け、合わせ味噌の焦げる、香ばしい良い匂いが、食欲をとってもそそる。

「はい、まずスタートは焼き鳥で~す♪」

本当は串に刺し、レトロだが七輪+炭火に網を乗せ、そこでじわじわ炙った方が抜群に美味しいのだが、都会でしかもマンションの中で行うのは無謀すぎるから諦めた。
でも久しぶりの大好物な味噌ダレだし、帝人もちょっと幸せだ。

鍋の中身を空にし、三枚の皿にきっちり公平に取り分けた途端、がっつり食べだした二人を満足げに眺めた後、帝人はキッチンのガスコンロで火をかけていた熱々の鶏ガラスープを取ってきて、鍋にたっぷり流し加えた。
鳥の脂の旨味をじっくりコトコト溶かしている間に、さっきの十分間で準備したもの……綺麗に盛り付けた薄い豚肉、それとピーラーで削った人参や大根、えのきを詰め肉で縛った巻物、後は彩りよく葉物野菜を盛った、しゃぶしゃぶの大皿を二枚ずつと、中華風味のつけ汁椀を手渡したのだ。

「はい、ではお二方とも、きっちり自分のノルマ分を完食してくださいね♪ しゃぶしゃぶしたお肉とお野菜の旨味が、後ですっごく美味しいスープに化けるんですから♪」
「まだ何か仕掛けメニューがあんのか」
「はい♪」
「判った。おい幽、野菜、一本たりとも残すんじゃねーぞ」
「うん、大丈夫。このつけ汁美味しいし」


帝人も自分の取り分の炒めた焼き鳥を、熱々ご飯と一緒の頬張りつつ、ほっと胸を撫で下ろした
作品名:ふざけんなぁ!! 6 作家名:みかる