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ふざけんなぁ!! 6

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怖い説教が始まりそうな気配を察知し、帝人はあわあわ立ち上がった。

「ごめん正臣。園原さんが帰ってくる前に、トイレ済ませくるね♪」
「こら、逃げんな帝人!!」

怒鳴る正臣が絶対追いかけて来られない女子トイレを目指し、とろいながらもパタパタダッシュする。
廊下を走っていると、前方にいた蛇みたいな眉なしの教頭が振り返り、こっちとかちりと目が合った。

やばい。
息を呑み、立ち止まってももう手遅れで、天敵は帝人を見つけ、舌嘗めずりするぐらい嬉しそうに近寄ってきた。


「また、一段と包帯が増えてるねぇ」
「……はぁ……」
「ご両親は、この惨状を納得済みなのかね?」
「……はぁ……」
「だとしたら、呆れた放任主義な方々だね。娘が何しても構わないと思っているのか、君が可愛くないのか」
「…………」


最悪だ。
前回静雄とのツーショット写真が雑誌に載ってしまって、学校を辞めろコールを受けた時を切欠に、この先生が大の苦手になった。
何故なら目をつけられて以来、何かにつけて嫌味を囁くし、待遇があんまりよろしくないのだ。
親と離れて一人暮らしだから、モンスターと化すやりたい放題の保護者が飛び出てくる心配が無いと安心し、ストレス発散のターゲットにしてきやがって。
コンチクショーめ。


「まぁ、子供ができるような淫らな真似して、学校の評判を落とすのだけは勘弁してくれたまえ。おっと失礼、そんな未発達の幼女に欲情する程、平和島静雄はロリコン趣味じゃないか」
(その言葉、静雄さんの前で言って見やがれ!! 中間管理職のヒス爺!!)


言葉のセクハラに、悔しくて歯噛みしたくても、にこにこ顔は笑い続けた。
ここで帝人がもし逆切れして手を上げたりしたら最後、こいつの性格なら【校内暴力事件だ!!】と、大げさにあること無いこと喚きたてて、嬉々として埼玉の両親を偉そうに呼びつけるだろう。
そして、帝人は簡単に退学だ。
自分の優位が判っているから、この教師は好き放題卑劣に振舞えるのだから。

「竜ヶ峰さん。早くしないと、紀田君に置いていかれちゃいますよ」
とことこと、杏里がいきなり教頭と帝人の間に割って入り、ぱしっと右手を引っ掴む。

「では先生、失礼いたします」
有無を言わさずぺこりと一礼し、ぐいぐい連れて逃がしてくれた。

「……うう、助かったぁ。園原さん、ありがとう……」
ホッとしながら彼女を見ると、優しく笑ってくれて。
「いいえ、でもあの先生、本当に竜ヶ峰さんにだけ、酷い事を平気で言いますね。傍から見ていてとても腹が立ちます」
「教師も人間だしね。きっと今日、虫の居所が悪かったんだよ」


機嫌が悪いからって、八つ当たられるこっちも良い迷惑だが。
卒業まで後二年と三分の二もあるし、ここは私立高校なので先生は学校に雇われてるから、転勤とか決まった定年退職もない。
今後の対応策を考えたって思いつかないし、本当に憂鬱だ。

ふー、と溜息をつき、教室に戻った途端、救急車のサイレンが鳴り響いてきた。


「え、何、どうしたの?」


正臣と杏里と一緒に窓から身を乗り出して外を見てみると、丁度白衣を着た救急隊員が、車から担架を下ろし駆け足で校舎内に入ってきた。
そして五分と経たないうちに、今度は担架に乗せられ、一人の老人が運ばれていく。

「うそっ、あれうちのお爺ちゃん先生だよね!?」
「暑さで夏バテか?」
「今日も気温、とても高いですからね」


節電の為、職員室の気温は28度に設定されているとは聞いていたけれど、73歳の老体にはキツかったのだろう。
となると担任の代打は……、人件費を削りまくった結果、余っている先生が全く居ない私立だ。ピンチヒッターは、あの教頭しかいない。
明日もしお爺ちゃん先生が復活しなければ、きっと帝人に割り当てられた15分の面談は、嫌味な教頭に八つ当たりでネチネチいびられるだろうと思うと、本気で個人面談をばっくれたくなった。


「明日私、休んでいいかな?」
「やめとけ。嫌味(教頭)にさ、サボりをチクられたら、叔母さんが超怖い」
「頑張りましょうね、竜ヶ峰さん」
「……あい……」



★☆★☆★



所が、家に帰った帝人を待っていたのは、深みのある綺麗な青色ダブルスーツに身を包んだ静雄だった。
サファイアカラーのサングラスと色を合わせたらしいのだが、金髪にもしっくりとあって、息を呑むほどカッコいい。

「どうしたんですか静雄さん? もしかして、もうバーテン服の代えが無くなっちゃったんですか?」

時刻もまだ17時ちょいだし、誰かと喧嘩して服を駄目にし、着替えにきたのだろうと思ったのだ。

「……、嫌、そうゆう訳じゃねーんだがよ、……これ、似合わねーか?……」
しょんぼりとうな垂れるメンタルの弱い彼に、帝人は慌ててぶんぶんと首を横に振った。
「逆です、すっごく素敵です。私、見蕩れちゃいますし、惚れ直しちゃいました♪♪」
「そっか♪♪ 良かった♪♪」

判りやすい男は、今度はお日様のようにまぶしく豪快に微笑んだ。
ならば、いよいよバーテン服から卒業するのだろうか?
どういう心境の変化があったのか、聞いてみたいが聞いていいのか?
小首を傾げた帝人の頭を、上機嫌になった静雄がぐりぐりかき撫でる。


「明日の三者面談、俺が親御さんの代理で行くからな」
「ふえぇぇぇぇ!?」
(どこから嗅ぎつけやがったんですか、あんたぁぁぁぁぁぁぁ!!)

怒鳴りつけたい後半部分をぐぐっと飲み込むと、その時仔猫を腕に抱いたパジャマ姿の幽が、とことこやってきて。

「いいなぁ。俺も明日行こうかな? どうせ暇だし」
「「駄目!!」だ!! ふざけんなぁぁぁ!!」


静雄と二人、揃ってハモル羽目になった。
この兄弟、勘弁してくれ。

作品名:ふざけんなぁ!! 6 作家名:みかる