ふざけんなぁ!! 6
「おい帝人、いい加減俺だって黙ってねーからな。羽島絡めて、平和島の兄弟二人が、自宅に連れ込んだ少女を、好き放題虐待やりやがってるってさ、マスコミにリークすればどうなるか判るよな? 簡単に社会的に抹殺してやれる」
「そんな怖い捏造は止めて」
「今ならマスコミの食いつきもいいだろうし」
「まさおみぃぃぃぃぃ!! そんな事したら絶交だからね!!」
「お前が俺を? できる訳ねーだろ。俺達は【Dの運命共同体】なんだからさ」
「ううううううっ」
帝人はがっくりと肩を落とした。
杏里の手前、頭文字だけだったが【D】こと【ダラーズ】が存在する限り、正臣とは何があったって絶対離れられないだろう。
「でも、でもね。静雄さんって、本当に力加減が判らないだけの、優しくて落ち込みやすい良い人なの。できれば嫌わないであげて欲しいなって」
「「無理」です」
正臣も杏里も、帝人の包帯が増えるのに比例し、日に日に平和島静雄を嫌っている。
大切な人達が、大事な恋人を拒絶するのは切なかった。
「それよりさ、暑いし早く正臣の家に行こう♪ 今日のお昼は手作りピザとコーンポタージュスープなんだ♪」
話の転換を図ってみたら、流石育ち盛りの高校生だ。
腹ペコらしい正臣の食いつきが良かった。
「聞いてくれよ杏里。こいつ今朝いきなりやって来たかと思うと、俺をベッドから蹴り落とした上、勝手にカーテンあけて窓辺の日なたにボールにラップしたピザ生地を寝かせるんだぜ」
「いいでしょ。美味しい物が食べたかったら、それなりの手間隙と努力が必要なの」
預かっていた合鍵を、初めて使ってみた。
今日のような雲一つない快晴に、夏の日差しの暑さと高気温。
今頃、さぞかし生地の発酵が進んでいるだろう♪
楽しみだ♪♪
「でも、手作りしてしまうなんて凄いです。私ならきっと、スーパーの冷凍物を買うか、宅配にお願いしちゃいます」
「駄目駄目勿体無い。ピザ生地の材料なんて、水と強力粉とドライイーストと塩だけなんだよ。手作りなら一人分100円ぐらいのコストでできるのにさ、宅配に頼んだら、直ぐに2000円ぐらい軽く超えちゃうもん。贅沢は敵♪♪」
ダラーズを作っておいたお陰で、掲示板の広告から毎月微々たるアフォリ収入が入るが、それだって今後も確実に得られる保証がない。
ダラーズのメンバー任せの収入ではなく、やっぱり堅実に地に足をつけて稼ぐには、スキル不足な高校生にとって、ファーストフードのアルバイトは魅力的に思えた。
「二学期になったら、絶対正臣の所を紹介してね♪」
「おう、任せとけ♪ いっそ杏里も来るか? 土日シフトもある忙しいマックだけど、皆で一緒ならきっと楽しいぜ♪」
「私は構いませんが、竜ヶ峰さんはそれまでに平和島さんから逃げ延びて、健康になってくださいね。一人省けはつまらないですから」
「はぁい」
でも、揃ってファースト・フードの店員さんなんて、部活みたいで楽しそうだ。
制服も結構可愛いし、ワクワクする。
「みっかどー。俺、今日のトッピングは、ベーコンとアスパラとコーンと……」
「残念正臣。今日は園原先生のリクエストのみ受け付けます♪」
「ノォォォォォォォォ!!」
「竜ヶ峰さん。私、好き嫌いあんまりないですし。だから紀田君のリクエスト通りでいいですから」
「杏里ぃぃぃぃぃ♪ お前は何てエロ可愛いんだぁぁぁ♪」
「エロは余計だ、馬鹿臣!!」
幼馴染の両頬を引っつかみ、むにむに引っ張るととても良く伸びる。
帝人はがくりと肩を落とし、大きく溜息を吐いた。
「何? その痛ましい者を見るような目?」
「うん、昔さ、『ここの皮が良く伸びる男はスケベだから、気をつけるようにね』って、お婆ちゃんが言ってたんだよね。お気に入りの正臣が見事に超エッチに成長しましたなんて言ったらさ、お婆ちゃんきっと悲しむだろうなぁって」
「断言?! 断言なのか? 酷っ、大体それ何の迷信だ!! 帝人、信じるなよ。お前、人を勝手に残念な男にするなぁぁぁぁ!!」
「じゃ、私、ちょっとこのプリントを提出してきますね。5分ぐらいで戻ってきますから」
「はーい、行ってらっしゃい♪♪」
書類を抱えて職員室へ行く彼女を、ふりふり手を振って見送り、窓の外を見る。
明日は七夕ともなると、もう夏日同然で暑い。
蒸れて汗まみれな気持ち悪いコルセットも、もう直ぐ取れると新羅先生も言っていたし、ぎりぎり実家に帰るまでには間に合いそうだ。
憂鬱な期末テストを乗り切れば、嬉しく楽しい40日の夏休みである。
「ねぇ正臣、夏はどうする? バイト休めるならさ、うちの田舎に一緒に来ない?」
彼を猫っ可愛がりしている、父母と祖父母も大層喜ぶだろう。
「あ、悪い。俺、今年は無理だわ。親の所に顔出す約束してるし。一ヶ月あっちへ行ってきた後、残りはマックのバイトが埋まってる」
という事はアメリカ行きか。
いいなぁ、マサチューセッツ。
憧れのシリコンバレー。
彼は社交的な上英語も堪能だし、とっても充実した休みを過ごせそうだ。
「いってらっしゃ~い」
はふっと溜息をつくと、正臣がにまにまっと笑った。
「あ、もしかして、俺がそのままあっちに行っちゃったらって心配?」
「ううんまさか」
ダラーズの創始者(アダム)の地位は、現在正臣が引き継いでいる。
彼は外見こそちゃらけているが、結構昔気質で責任感も強い。
中学三年になった春、義理の父の転勤で一緒に渡米をと言い渡されたが、黄巾賊のリーダーの責任を果たす為、高校受験を理由に断固付いていくのを断った過去の実績がある。
「帝人は夏休み中、ずっと埼玉にいるのか?」
「ううん。二、三日だけの予定だよ。ほら、あんまり家を空けると、静雄さんの生活が超心配だし。お爺ちゃんとお婆ちゃん、がっかりするかな?」
「うおおおおお、俺、それより今、マジ恐ろしい事思い浮かんだんだけど。静雄の奴、お前の実家にくっついてったらどうする? いきなり『お嬢さんをください』って土下座とかやらかしやがんじゃねーの?」
「……あははは、まさかそこまで。私まだ15歳だし……」
「んじゃ、さっきの進路志望用紙は何?」
「うううううう」
でっかく赤バッテンつけられたあの紙を見る限り、完全否定できそうにないのが悲しい。
虚ろな目で教室の窓から池袋の街を眺める。
ここは七階もある建物で、極たまにだけど静雄が放り投げる自動販売機を目撃する事があるからだ。
でも今日は、蝉の鳴き声がちらほら聞こえる最中、パトカーのサイレン音が耳に届いた。
昼間から、随分と物騒な事だ。
「……あー、また切り裂き魔かな?……帝人ぉ、お前ドンくさいからさ、夏休み中あんまり一人で行動するなよ」
「うん、ありがとう」
ここ数日、池袋では、通り魔が刃物で人を切りつける事件が横行していた。
しかも単独犯ではなく複数で、被害者もそれこそ下は小学生から上は90歳を越えた老人までと手当たり次第なのだ。
「いっそ夏休みの間中、実家に帰っててくれよ。そしたら俺も安心だし」
「やだよ。夏休み中、無給でこきつかわれる」
「俺の居ないうちに、静雄の野郎がお前をまた傷つけたらどうすんだよ。俺、マジで心配で心配で……」
作品名:ふざけんなぁ!! 6 作家名:みかる