ふざけんなぁ!! 6
「シズシズ、悪い事言わないから、絶対止した方がいいわよ」
「うんうん、家庭崩壊のカウントダウンっすね」
「……っつー事は、お前らも何か知ってんだな。殴ったら吐くか?……」
直ぐに門田が二人を己の背後に匿いやがる。
「静雄、こいつらに手出ししたら、絶対許さねーからな」
イライラを納めようと、ポケットから煙草の箱を取り出し一本口に咥えると、何故か紙箱の底がカラコロと鳴った。
「……ん? 何だこりゃ……?」
気になって手の平にひっくり返して見ると、サイコロみたいに小さくて、銀紙に包まれた飴が五粒転がり出てきた。
一緒に小さい付箋サイズのピンク色したメモも入っていて、読めば『静雄さん、暑い中お仕事お疲れ様です♪ 塩飴で塩分補給して、脱水症状をノックアウトしましょう♪』とあった。
「はは……、帝人か。サンキュ」
「何だ、また可愛いプレゼントか」
「静雄、お前本当に愛されてるよなぁ」
トムと門田の生暖かな注目を浴びて、頬がほんのり赤みをおび、苦笑が零れた。
だが、ヒューヒューと、狩沢と遊馬崎に軽くやじられると、恥ずかしさにイラッが混ざってしまい、照れ隠しに近場にあった自販機をついつい持ち上げてしまった。
勿論ぶん投げる気は毛頭無かったが、三人は脱兎で消えた。
でも一人残った上司のにまにま笑いは健在で。
「ほんと、帝人ちゃんはいい嫁さんになるなぁ」
恋人が上司に褒められれば、やっぱり嬉しくて。
「トムさんもどうぞ」
そう二粒を彼に差し出した後、残り三つを一度に口に放り込み、カラコロと転がす。
塩のしょっぱさと飴の甘さが良い塩梅で。
もっともっと気分が浮上し、もう一つ上司に告げなければならない用件を思い出した。
「あ、そうだトムさん。俺、明日午後から休み貰えませんかね? 急すぎましたか?」
「構わんさ。お前が居ないんなら会社で溜まってる事務仕事片付けとくし。そういや、お前有給かなり余ってっから理由次第じゃ使えるべ。冠婚葬祭、法事、人間ドック、さぁどれだ?」
「無理じゃないっすか? 来良から呼び出しっす。帝人の三者面談とかで、彼女の親御さんの代役です」
途端、上司の双瞳は、逆さカマボコのような、にまにまの弓月になった。
「ほー、そうかそうか。じゃ、俺が適当に申請しておいてやるから、まぁゆっくり二人で遊んで来るべ」
「トムさん、俺、そんなつもりないっす」
「面談なんかどうせ、三十分とかからんだろうが。弟と同居続きじゃさ、お前達だってお互い気を使いすぎて、恋人同士の甘い生活なんてあったもんじゃないだろうし」
「まぁ、そりゃそうですけど」
でも昨夜、帝人の迷惑を顧みず、ベットに引っ張り込んで抱きしめながら寝て、青痣だらけにしてしまった。
もともと我慢や辛抱なんてできない性格だ。
だから結構好き放題して、帝人にばかり負担をかけてるのが、今の現実だろう。
(ああ、マジですまねぇ、帝人)
「いつも家事を頑張ってくれる帝人ちゃんを、たまにはべたべたに甘やかしてやれ。平日の午後に制服デートっつーのも新鮮だろ、な」
本当に話の判る良い上司だ。
「じゃ、お言葉に甘えて、そうさせて貰います」
「うんうん。まぁ、一応言っておくが、服もさ、きちんとしたスーツで行けよ。間違ってもバーテン服なんかで学校に乗り込むんじゃねーぞ。平和島静雄がさ、学校に殴りこみをかけに来たかとか、勘違いする教師が出てくるかもしれないからな」
そんな忠告今更されても。
静雄はこくりと小首を傾げた。
「俺、実は帝人の入学式も、バーテン服で行きましたが」
「はぁ!? パニックにならなかったか!?」
「あー、そういや、何かパトカーが数台、運動場に乗り込んでて、拳銃持った警察官も何十人かいたような。それから、校長が心臓抑えて倒れたし」
「おいおいおい、それ絶対、お前が原因だべ」
「……そうっすかね?……」
違うと言い切れない自覚がある上、この上司の言葉にはほぼ間違えはない。
静雄はしょんぼりと肩を落とした。
「……まぁ、過ぎた事はもういい。問題は明日だ。着てくスーツぐらいあるよな?」
「はぁ、まぁそりゃニ~三着はありますが。手入れしてないままクローゼットに適当に吊るしてるし、襟とかの汗染みとかがちょっとやべぇかもしれないっす。後、防虫剤もカビ対策もしてねぇから、虫に食われた穴とかも心配だし、着れるもんがあるかどうか」
「あほかぁぁぁぁ!!」
途端、上司の大ブーイングが飛び交った。
「んじゃ、今から買いに行くべ。お前が変な格好で行ったら、帝人ちゃんが恥をかくと思え!!」
トムに、がしっと腕を引っ掴まれ、勢い良くぐいぐいと引っ張られた。
まるで不良を連行する、熱血教師のノリである。
「待ってください、その前に……、俺、まだ学校に返事があるっす……!
静雄は急いで携帯を弄くって、昨日転送されてきたメール経由で、来良へと出席の返事を返しておいた。
上司の許可を貰ってからと思っていたので、連絡がぎりぎりになってしまったが、出さないよりマシだろう。
だが、その平和島静雄からのメールを、職員室のパソコンで読んだ帝人の担任……、通称『お爺ちゃん先生』はというと。
直後に心臓を抑えて倒れたのだった。
アーメン。
作品名:ふざけんなぁ!! 6 作家名:みかる