ずぶぬれ
その声は急にか細くなった。泣いていることを察しられるのは嫌だったけれど、ワケの分からない気持ちはそのまま、涙にならずに胸の内に静かに残っていたらしい。太子の胸に顔をうずめてしまった。そして、決心したように顔を上げて、しかしそれは弱々しいものとなったが、僕は泣き顔のまま太子に向かって叫んだ。
「ぼっ、僕も……太子の事、好きですっ、好き……好きっ……っずぎっ……!!」
太子は少しおどおどしていた。自分の胸の中に泣き声が振動していたとしたら、誰だってそうなるものなんだろうか。やがては、力の抜けた僕をしっかりと抱きしめてくれたんだけれど。
こうして僕らは仕事柄の出会いと旅によってお互いの気持ちを通じ合ってから、もう早速付き合うことになってしまったのだ。
***
やがて雨は止み、僕はからからに晴れた翌日の朝、目が覚めた。
船は水浸しで、太子はあのまま雨に濡れていたはずが、少しも疲れた顔を見せはしなかった。
「あっ!! いーもこっ!! やっと起きたっっ!!」
僕は太子に顔を覗き込まれ、やっと我に返った。
「あっあああああーーーーっ!!」
昨日の一連を思い出して僕は思いっきり叫んでしまった。
「ちっちちち違うんですよ太子!! 昨日はちょっと疲れてただけでっ!!」
「えっ何が?私にギュってされて、泣いちゃったこととか?」
「わぁーーっ!! 言うなぁーーっ!!」
「好きだよっ妹子っ!! 妹子も言ったからには責任を取れよっ!!」
「うっ……」
僕はこれは直接聞かないことにした。意識がもうろうとしてきたその時、太子が僕のジャージのファスナーを上げたり下げたり繰り返していたこと。今思い出してみればこの人、結構気が早いのかもしれない。
「すっ、好きな人を守りたいなんて思うことは当たり前じゃないですか!!」
なんてセリフは、いくらワケの分からなくなった僕でも口にはしなかった。
……この際言ってしまうと、これが本心だったり。
でも、そんなこと恥ずかしくて絶対言えないから、
ただ、あの時は太子の熱に頭だけイカされていたから、そういうことにしておこう。
おわり