こらぼでほすと アッシー4
「まあ、連邦へ参加したい派が騒いでいるからな。そこの折衝が厳しいみたいだが、こればかりは認めるわけにはいかないだろう。」
オーヴも一枚岩ではない。年若い国家元首に楯を突くのは山ほど居る。連邦からの参加要請を蹴ったことで揉めている最中で、カガリもゆっくりしている暇はないだろう。あの連邦に参加してしまったら、また、以前の二の舞になると、カガリは断固拒否の体制だ。全ての国に参加要請がされない連邦など、ただの一部国家群の集まりでしかない。ほいほいと参加すれば、オーヴは技術提供という名目で、自国の独占開発している技術を提供させられることになる。技術立国の国で、そんなことになったら優位性が失われてしまうのは、自明の理というものだ。その技術力があるから、経済封鎖などの制裁を受けないのも分かっているから、無理強いされることもない。
「こっちからも、仕掛けて援護はしているから大丈夫だと思う。カガリも強いからね。クリスマス前には戻るから待っててね? ラクス。」
「はい、楽しみにしております。」
ラクスの休暇の最後辺りに、キラたちも戻って合流する予定だ。そこから、新年までは、どちらも忙しくなるから、ここで逢っておかないといけない。そうでないと、歌姫様の暗黒オーラが大量発生して瘴気となって周囲を恐怖に陥れるからだ。
「キラ、クリスマスプレゼントのリクエストはございます? 」
「ラクスとお揃いの白のコートが欲しいな。それで、新年に初詣に行こうよ。ラクスは? 」
「そうですねぇー青いバラとキラが欲しいです。」
「それは生? それとも、剥製みたいなヤツ? 」
「バラもキラも生でお願いします。それから、アスラン、もうハロはいりませんので贈り物は結構です。」
「わかってるよ。ハロは、もう贈らない。今度は、ハムスターみたいなマイクロユニットはどうかな? 」
この機械オタクは、どうしてもマイクロユニットから離れられないらしい。ラクスの許には、そうやって集まったなんちゃって動物が大量にいるのだが、まだ、贈るつもりなのがすごい。
「アスラン、贈り物は結構ですから、キラのことをお願いしますね。ちゃんと飾り付けて贈ってくださいな? 」
「一日限定で貸し出すさ。ちゃんと、綺麗に飾り付けてあげるよ。そういや、刹那のトリィのメンテナンスをしないといけないな。」
刹那にキラが用意した青いトリィは、現在、本宅のラクスの私室に置かれている。いろいろとあって、そのまま放置されているのだ。長く動かしていないから、メンテナンスして動かさないと錆びて使い物にならなくなることを、アスランは思い出した。
「そうですね。年末に、刹那が戻ったら渡してあげてください。」
組織に戻ったり世界放浪の旅に出たりで、刹那が落ち着かないから預かっていたのだが、あれは、一人の時に慰めてくれる存在だから、次の出発には持っていけばいいだろうと、歌姫も頷いた。
「じゃあ、来週ね? 」
「はい、お待ち申し上げております。」
キラと歌姫が、そう挨拶しあうと、通信は切れた。どちらもやることはあるので、長々と喋っている場合ではない。さて、こちらも仕事をしなければ、と、背後のメイリンに声をかける。
「メイリン、昨日、頼んでおいた書類は届いてますか? 」
「はい、届いてます。」
「では、確認して作業を再会しましょう。虎さん、二時間したら散歩しますから、周囲の警戒レベルは上げてください。それから、イザーク、プラントのほうに、何かしらの打診はなかったのですか?」
「技術提供のオファーはあったようだが、議長が突っぱねている。うちのMSのシステムが欲しかったようだな。」
プラントのほうにも、連邦はちょっかいはかけている様子だが、表立っては無茶はしないだろう。敗退して、少し国力は落ちているが、それも昨今、元の水準に近いところまで回復してきている。武力で押しかけるには怖い相手だ。一時的とはいえ、地球全域へ支配の手を伸ばした武力は健在だからだ。まだ、宇宙のほうは、配備が完了していないので、問題はない、と、イザークが断言した。
「ハイネは、中東ですか。しばらくは、私くしがママの相手をしますから、こき使ってくださいね、虎さん。」
「ああ、そのつもりで偵察に走らせている。なんだか、とんでもないぞ、独立治安維持部隊っていうのは。」
抵抗する国家に対しては容赦がない。大量殺戮も、すんなりとやっている。その情報が、ヴェーダで統制されて流れないようにしているから、世界では知られていない。見ているだけで気分の悪くなる映像が送られてきて、虎もげんなりした。
「今のところ、俺たちには手出しができる状況じゃないが、いずれ、何がしかのことはやることになりそうだ。」
「刹那たちが再始動すれば、そちらは忙しくなりますね。」
こちらに敵意を向けられているわけではないから、こちらから仕掛けるのはタブーだ。だが、罪のない人間が、どんどん殺されている事実は辛いものがある。
今は、まだ、こちらも準備段階だ。動くわけにはいかない。刹那たちの生命の危険ということで、いずれ、こちらも動くことになるとは、誰もが予想している。
現実は甘くない。歌姫様だって、わかっている。自分たちは動かない。それは、自分たちが決めた約束だ。
「キラを暴走させないでください。」
「それは、アスランが止めるから心配ない。オーナーも、今までより警護は増やしたほうがいいだろう。今のところ、オーナーは連邦のほうに繋がっていると思われているからな。」
「ええ、今は、それでよいと思っております。」
平和の使節として、連邦主催の会議やイベントにも招聘されているから、歌姫は、連邦に賛成しているのだと思われている。今のところは、それが安全だ。じっと待つしかない時間は、焦れるものだが、乗り越えなければならないものだ。
「ラクス様、俺とディアッカも警護に就こう。そのつもりで、母のところには休職届けを出してきた。」
「ありがとうございます、イザーク。お願いしますわ。ディアッカも。」
それだけにリスクも高くなる。それを下げるには、警備を増やして万難を排除する方向で動かなければならない。こんなふうに厳しい現実があっても、以前より強く居られると、歌姫は微笑む。それは、何も知らないママが、その存在で和らげてくれるからだ。
「メイリン、まいりましょう。では、お願いいたします。」
前を向いて、歌姫様は優雅に微笑む。負けるわけにも、捻じ伏せられるわけにもいかない。そんなことになったら、キラと自分の作り上げた小さな居場所がなくなってしまう。それだけはやらせない、と、意思も新たに歩き出した。
作品名:こらぼでほすと アッシー4 作家名:篠義