こらぼでほすと アッシー4
という具合に、どちらもわからない分野について教えあうということになっている。クリスマスに刹那が戻ったら、食べさせてやりたいと思ったので、ロックオンはケーキを習うことにした。パンケーキやカップケーキなんてものぐらいなら作れるのだが、ちゃんとしたケーキは作ったことがない。覚えて損はないし、フェルトたちと一緒に作るのも楽しそうだ、と、説明したら、歌姫様はコロコロと笑っている。
「けどさ、ラクス。せっかくの休みなら、街へ繰り出してくればどうなんだ? 時間制限なしなら、楽しめるだろ? 」
「いえ、さすがに、護衛なしで外出するわけにはまいりません。万が一のことがあったら、スタッフにも迷惑がかかりますし、私くしが外出の予定を入れると、ヒルダさんたちが戻ってまいります。それでは、休暇になりません。」
護衛陣が独りずつ、ローテーションで休むことはあっても三人一緒というのは、こういう時だけだ。別荘に居る限りは、歌姫様に危害を加えられる心配はないから休んでいる。
「一年に一度くらいは、三人でのんびりして欲しいですから。」
「ああ、そういうことなのか。大変だなあ、おまえさんも。」
ただのアイドルなら、そこまでの警備はしなくていいが、宇宙規模の平和の使節であるかぎりテロの対象になる。だから、ラクスも自重する。自分だけの問題ではない。『吉祥富貴』は、歌姫とキラがいるから存在する。どちらかがいなくなったら、維持が難しくなる。だから、キラも無茶はしない。必ず、アスランと行動を共にしているし、歌姫もヒルダたちに警護されている。
洗い終えた食器を拭いて、鍋やフライパンを食洗機に放り込むと、今度は、お茶の用意をする。数日、一緒にやっていると、どちらも相手の動きが分かるようになるから、上手い具合の連携になってくる。茶器と茶葉を用意する歌姫と、ヤカンを火にかける親猫は、別に、それを一々、相手に指示していない。
「有名税ですわ、ママ。」
「そうなんだろうけど・・・・なんか切ない気分になる。」
まだ若い歌姫なら、やりたいこともたくさんあるだろう。ショッピングしたりスイーツ巡りをしたりという普通の娘たちがやっていることを、歌姫もやりたいはずだ。フェルトが降りて来た時は、それを存分にやっていた。とても楽しそうだったのは覚えている。だから、自由に動けない歌姫のことを、切ない気分で見てしまう。
「ママは優しいです。私くしが好きでやっていることですから、お気になさらないでください。」
「わかるけど、俺は庶民だからさ。そういう不自由には耐えられそうにないんだよ。だから、気になるんだ。」
マイスターになった時に、かなり拘束時間は長くなったが、適度に地上でリフレッシュ休暇というものを貰っていた。その時には、好きなことをしていたし、好きな場所へも移動していた。それで気分転換をしていたのだから、それがままならないなんてのは苦しいと思うのだ。
紅茶を淹れて、居間へ運ぶと、ふたりして座り込んだ。飲んでほっとする間は、無言だ。どちらも、のんびりと窓の外の景色を眺めていたりする。前の庭は針緑樹が多く、季節の変化はない。一年とちょっと前に、刹那が破壊したので、大木といわれるほどの大きな木がない。まだ、十数年クラスの木が植わっている。そこより、奥は、かなり大きな木があるので、緑だらけの景色で、目には優しい。
「こうやってのんびりとママと過ごすのは楽しいですわ。そろそろ部屋に引き上げましょうか? お昼寝の時間です。」
親猫の目がぽやんとしてくるのを見て、歌姫が立ち上がって手を差し出す。食後の日課の昼寝に付き合っているので、歌姫も慣れたものだ。食後二時間くらい寝ないと体力が保たない。
「勝手に戻るからいいんだぞ? 」
差し出された手に手を出して、親猫は笑う。そこまで具合が悪いわけではない。部屋まで帰るぐらいで付き添いはいらない、と、毎日、言う。
「ですが、どこかで力尽きて寝てしまわれたら、途端に風邪をひきますでしょ? それに、ちゃんと寝たのかも確認しないといけませんしね。」
「それはないと思うんだけどなあ。」
「いえいえ、用心はしないといけません。ママは何をするかわかりません。」
「まあ、いいけどさ。・・・ありがとうな、ラクス。おまえさんが居てくれると楽しいよ。」
なんだかんだと一緒にやっていると、落ち込む暇も、子猫たちの心配をする暇もない。だから、体調は徐々に良くなっている。
「私くしも楽しいです。ママは、私のことを子猫ちゃんたちと同じようにしてくださいますから、本当にママがいるみたいに感じます。」
歌姫のことも、普通に心配するし、叱りもする。他のスタッフは、そんなことはない。だから、それが新鮮だと思うし、嬉しいとも思う。刹那が、「俺のおかんだから触るな。」 と、威嚇する意味がよくわかる。甘えたいのだ。他のものにはできなくても、それを無意識に与えてくれる親猫には、刹那も無意識に甘えている。その居場所を奪われるのはイヤなのだろう。
「いや、おまえさんが、俺をママって呼ぶからだ。」
「だって、私くしも刹那と同じ天涯孤独の身の上ですもの。ママは欲しいです。」
「じゃあ、それでいいんじゃないか? 俺は、今のところ、それぐらいしかできないんだし。」
「はい、大歓迎ですわ。」
部屋まで、手を握ったまま辿りつくと、ベッドまで案内される。パジャマにカーディガンという姿のロックオンは、そのままベッドに腰を落ち着けて、カーディガンを脱ぐ。その間に、歌姫のほうはクスリと水を準備して、飲ませる。監視していないと、忘れたフリをするので、飲むまで目は離さない。そこまで信用ないか? と、親猫は苦笑しつつクスリを飲んで横になる。甲斐甲斐しく歌姫が、上掛けを親猫の肩が隠れるまで引き上げて、その端に座り込む。年上の男と二人きりという状況なのだが、どちらも、そんな気分はない。
「午後から、少し歩きましょうか? 」
「いいのか? 外へ出ても。」
「ええ、ここでなら大丈夫です。周囲にセキュリティーを完全配備してありますので、侵入されれば、すぐに判ります。・・・・ナナカマドという木がございますの。もう紅くなっているばすですわ。」
「葉っぱが? 」
「いえ、実です。なかなか綺麗なんです。この庭には四季の草木を配置しておりますから、季節ごとに見所があるんですよ? 」
そりゃ知らなかった、と、親猫は呟いて目を閉じる。クスリが効いてくるから、すぐに眠りが訪れる。それを確認してから、歌姫も部屋を出た。
「オーヴのほうはどうですか? キラ。」
「うん、問題はないみたい。ある程度の技術漏洩は想定内だからね。そこのところは見逃しているよ。」
ラボへ出向いた歌姫は、そちらでキラとパネル越しに話をする。キラは、オーヴへお里帰りしているが、それだけではない。SフリーダムとIジャスティスのメンテナンスや、オーヴ側への連邦からの干渉などの確認もしている。あちらの技術工廠で、そちらのスタッフと作業しているのだ。もちろん、実家に泊まっているから九時五時勤務にはなっている。
「ママは、どうなんだ? ラクス。」
「少しずつ回復はしておられますわ、アスラン。カガリのほうは、忙しいのではありませんか? 」
作品名:こらぼでほすと アッシー4 作家名:篠義