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春の青

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初めての席替え。臨也は分かり切っていた番号の場所まで席を移動させた。
そこにはすでに隣になる子供が座っている。臨也は心の中で歓喜の声を上げながら、相手に笑いかけ手を差し出した。

「これから宜しくね、竜ヶ峰君」

「うん!よろしく!」


帝人の嬉しそうな笑顔を見られただけで臨也は胸がいっぱになる。
自分とは違う幼い顔つきにたどたどしい口調。頭もそれほど言い訳でも、運動も出来るわけでもない。
ただ、そこら辺にいる普通の子供。最初はそう思っていた。けれど、入学して3日目、臨也は帝人に心を打たれた。
下校途中の道路に数人クラスの男女が突っ立っていた。その中に帝人もいたのだが、臨也は大して気にも留めずにその集団を通り過ぎようとした。
聞こえてくる声はどれも可哀想、痛そう、という悲痛な声。ちらりとその集団の視線の先を見ると、今にも死にそうな猫がいた。か細い息で助かる見込みもないだろう。
臨也は馬鹿馬鹿しいと鼻で嗤うと、その場を去ろうとする。次の瞬間、小さな声に身体が痺れた。
その声の主の方に顔を向ける。臨也は瞠目した。その声の主そのものに驚く。なぜなら、その子供は笑っていたのだ。
誰しもが悲痛な面持ちをしている中で、唯一恍惚とした笑みを浮かべている。臨也は体中から溢れてくる喜びのままに口元に弧を描いた。
そしてその集団にはもう見向きもせずに帰路の途に付く。

(竜ヶ峰、帝人君・・・ね)

チラリと見た名札に書かれてあった名前は確かに自分と同じクラスの子供の名前。

(面白い子みーつけた・・・!)


それから臨也は帝人を観察し続けた。ただ観察して分かったことは彼が平凡すぎると言うことだけ。
変わったことと言えば少しばかり好奇心が旺盛ということ。臨也は頬杖をつきながら離れている席から帝人を盗み見る。

(・・・隠しているわけじゃないっぽいんだよね)

鉛筆を回しながらあの時の帝人の表情を思い出す。芋づる方式にあの時の歓喜まで呼び覚まされた。
一瞬身体がブルリと震える。臨也は息を吐いて、己の中の欲も吐き出す。
臨也はこれではいけないと考えた。もっともっと帝人のことを知りたい。もっともっと。

(そう言えば、そろそろ席替えだよね・・・)

にたりと子供らしからぬ笑みを浮かべると、さっそく少しだけ動こうと席を立ち、職員室へと足を向けた。
席替えをしてからある日の国語の授業。その日は前日夜更かしをしていたため持ち物が疎かになっていた。

(あ~・・・くっそ・・・教科書がないとか・・・)

国語の時間で教科書が無いのは致命的だ。まだ本の内容を全て暗記していない。教師に指されたときに対応が出来ない。
臨也はがさごそと探していた手を止めて、ため息を吐いたその時。

「折原君・・・どうしたの?」

隣から小声で帝人が話しかけてきた。ビクッと帝人には分らない程度に臨也の肩が跳ねる。
帝人は眉を八の字にしながら、臨也を見つめている。その瞳がどうしてだが臨也は綺麗だな、と思った。

「え・・・っと・・・教科書忘れちゃったみたいで・・・」

何かとても恥ずかしいことを言った気がしてならない。別に忘れたことを恥じているわけではない。それでも何故か赤くなる頬を抑えられなかった。

(なんだ・・・これ)

臨也が下を俯きそうになっていると、控えめに机がガタガタとなり臨也の机にぴったりとくっついた。
帝人が何を考えているのか分らず、臨也は不思議に思いながら帝人を見つめる。
すると帝人は、そのくっつけた机の境目に教科書を置くと、臨也にしか聞こえないほどの小声で話しかけてくる。

「一緒に見よう」

その帝人の言葉に、臨也は驚きを隠せず数度瞬きを繰り返す。心の中に何か温かい光りが灯ったようで恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。
そんなない交ぜの感情に突き動かされるように、臨也は小声でありがとうと呟いた。
その姿を、クラスの男子が見つめていたことなど帝人と臨也は知るよしもなかった。


作品名:春の青 作家名:霜月(しー)