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春の青

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次の日、臨也はランドセルを背負いながらクラスへと向かう廊下を軽い足取りで歩いていた。
クラスの前にさしかかると、異様にクラスの中が騒がしかった。しかもどういうわけか自分の名字が呼ばれている。
またクラスの馬鹿な男子が騒いでいるのかと、ため息を吐きながらクラスの扉を開けた。
次の瞬間、臨也の目は今にも泣き出しそうな帝人の顔に釘付けとなる。そして、目の前が真っ赤に染まり頭の中がかっと熱くなったかと思うと、背負っていたランドセルを煩い男子へと投げつけた。
女子の悲鳴が響き、帝人が臨也を見つめる。臨也は怒鳴りつけたい気持ちを抑えて拳を硬く握った。

「何?そんなに俺が帝人君から教科書見せてもらったのが可笑しいの?低レベルだね。結婚って意味分かってる?
 分からない言葉を連呼するのがどれほど間抜けで浅はかで見苦しいのか、その陳腐な頭で考えても分からないのかな」

臨也はクラスの入り口で子供らしからぬ笑みを浮かべると、クラスの誰もが口を閉ざす。
ランドセルと当てられた男子は一瞬だけ呆けていたが、すぐに目に涙を浮かべて教室から飛び出してしまう。
一緒にちゃかしていた男子もおろおろとしていたが、臨也が一睨みされるとひぃっと悲鳴を出して先程の男子を追って教室から出て行ってしまった。
帝人は臨也のランドセルと持って彼へと近づく。

「ありがとう・・・」

「いいよ、別に」

臨也は帝人からランドセルをもらうと、ニタリと笑ってクラス中に響くように声を上げた。

「良いからとっとと席に座ったら?あいつらと同じようにちゃかし出したら俺、容赦しないよ?」

その途端、クラス中の生徒がざわめきと共にいつもと同じ生活に戻る。女子は固まってしゃべり出し、男子はクラスや廊下を走り出した。
少し脅せば大抵の奴らは同じ動きをする。帝人をちゃかして泣かしていた男子も気にくわないし、それを止められなかった女子も同罪だ。
臨也は心の中でクラス中の連中を嗤うと、帝人からランドセルを受け取った。

「帝人君もこんな低俗な奴ら気にしなくて良いんだからね。気にしている方が疲れちゃうよ?」

「あ、今僕の名前・・・」

「え?・・あ!い、いやだった?」

しまったと心の中で思う。隣の席になってからも、ずっと竜ヶ峰君と呼んでいたのに、急に下の名前で呼んでしまった。

(警戒・・・しちゃった?)

もし帝人に警戒されてしまったかと思うと、腹の中に鉛が溜っていくような気分が襲う。
己の軽率さに、臨也は苦笑しながら小首を傾げる。帝人は勢いよく首を横に振った。
臨也は、ほっとして無意識のうちによかった、とはにかみながら笑った。その時、帝人が笑いかけてくれて臨也の心にまた温かい何かが生まれる。

「ぼ、僕も・・・臨也君って呼んで良い?」

「もちろんだよ帝人君!」

臨也はふわりと笑うと帝人の手を引いて席へと着いた。


作品名:春の青 作家名:霜月(しー)