春の青
放課後、臨也は職員室でこってりと叱られた。クラスの子達の証言で、ちゃした男子も怒られたが先に手を出した方が悪いと大人達は言う。
馬鹿馬鹿しいと思った。身体を傷つけることよりも、心を傷つける方が数倍も悪いというのに。
臨也は暗くなりつつある廊下を出て下駄箱へと向かった。ちらりと帝人の下駄箱を見ると上履きが置いてある。
「帰っちゃったよね・・・」
どうして帝人が先に帰ったことをこんなにも哀しいと思うのだろう。
臨也は自分の気持ちをもてあましながらため息を吐き、靴を履いて外に出た。夕日が沈みそうなそんな時刻。
校門に向かってあるといていると誰かが門を背に佇んでいるのが見える。臨也は瞠目してはや歩きになりながら門の所へ向かった。
(嘘・・・うそ・・でもそんなっ・・・)
一端足を止め、息を整えてからゆっくりと待っている人へと回り込んだ。臨也はやはり、と言う気持ちとどうしてという驚きがあふれ出す。
「帝人君・・・?」
「臨也君・・・」
「ずっと、待っててくれたの?」
帝人は俯いたままこくりと頷いた。そして臨也の服の裾を掴む。そんな帝人の動作に臨也の心臓がドクンと跳ねた。
「臨也君・・・あ、あのね・・・」
「ん?」
「ありがとう・・・」
途端に臨也の頬に熱が灯る。ぎゅっと臨也の袖を掴んでいた手を、臨也の手がほどき逆に握られた。
臨也の手の温かさに帝人は顔を上げる。そこには恥ずかしそうに笑う臨也の顔があった。
(君には敵わないなぁ・・・帝人君)
「一緒に帰ろう帝人君」
「っ」
帝人の顔が一瞬泣き出そうに歪んだが、すぐに満面の笑みを浮かべて頷いてくれた。
「うん!臨也君」
そうして2人は手を繋いでしずみゆく夕日に向かって歩き出した。