秘めたシリウス
私から歩いて30分、自転車で12分、バスで行くと実質25分。数年前まで通っていた高校を中心としてちょうど反対側に位置する所にそこはある。自転車で その場所に行こうとすると、谷になっている高校を一旦通らなくてはならないから疲れるし、バスで行くとなると定期が使える路線とは違うものになってしまう から癪でならない。普段はこれもストレッチの一環だと自転車を利用しているのだが、いいアッシーならぬトッシーがやって来たのでミツバ姉には申し訳のいの だが使わせてもらうことにする。
トッシーは元私がお世話(お節介されていたともいえる)家の主である銀ちゃんに用事があったらしい。―― 余談だが、私は高校時代銀ちゃんの家に父親から預けられ2年間そのボロアパートに住んでいた。大学生になって流石に同居も、ということでマンションに引っ 越すことになったのだが、心配性の銀ちゃんと父はアパートの前にあるセキュリティバッチリのマンションに私を住ませ、今でも銀ちゃんのお世話になっている と言っても過言ではないのだが――
トッシーはミツバ姉に選んでもらったため、本人には似合わないクリーム色の軽自動車――しかし、ミツバ姉が隣にいるととてもしっくりくる――の運転席の窓から体を乗り出してきた。
「よう、チャイナ娘じゃねえか。これから総悟の所か。」
「そうアル。てか、何時見てもその車トッシーには可愛すぎるナ。見てて面白い。」
「余計なお世話だ。さっきも銀時の野郎にも言われたよ。流石親子。」
「あんなやる気ない天パと一緒にしないで欲しいネ。親子でもないし。」
一通りの掛け合いが終わるとトッシーは腕時計をチラチラ確認しだす。
確か総悟が昨日の電話で不機嫌そうに、「姉ちゃんが今日は出かけるから、家に来いよ。」と私を誘ったのを思い出す。
「これからミツバ姉とデートで、迎えに行くアルカ?だったら私も向こうの家まで連れてくネ。」
「そうだけど、何で俺が。そう遠い距離でもないだろうが。」
「別にいいダロ。自転車で無駄な労力使うのも嫌だし。」
「わーったよ。ほら、乗ってけ。貸し1だ。」
「わーい。」
「って、乗るの早っ。」
車の中に流れている音楽がとても心地よい。今流れている曲を歌っているのはミツバ姉が好きな歌手だった気がする。トッシーの趣味はこんなバラードではなかった気がする。そんなのいちいち覚えていないが。
車に乗って数分、幹線道路に出たとたん、渋滞にはまってしまった。これだったら自転車で行った方が楽だったかもしれないという野暮なことは考えないことにしよう。
変わらぬ会話を続けているのも飽きてきた。隣をまじまじと見つめていると、ハンドルにもっていっている手にキラリと光るものが見える。
「婚約指輪アルカ。いいなぁ。」
「え?まだおまえ総悟から貰ってなかったのか。」
「そうネ。てか《結婚》のけの字も微塵に感じないアル。」
「お前ら社会人になってもう数年は経ったよな。」
「ほんっとに。いつから付き合ってると思ってるアルカ。高校生ネ。高校生からもう何年・・」
「あー。何かすまん。」
「銀ちゃんは赤ちゃんが出来るって喜んでるし、トッシーも結婚してるんだから一緒に暮らしたいとでもとか思ってんだロ。」
「まあな。」
「総悟はなんなんだヨ、ホント。私は嫌だってカ。」
「そういう訳ではないと思うぞ。総悟の気持ちもわかるし肩を持ってやりたいところだが、いかんせんヘタレすぎるな。」
「う゛ー。」
「泣くなって、俺が怒られる。」
トッシーは少し煙草臭いハンカチを差し出した。車の中は煙草を吸っている気配を感じさせなかったが、ここでボロが出た。
「ハンカチ、煙草の臭いするアルヨ。まだ、禁煙できてなかったアルカ。」
「あー、これはミツバのは内密にお願いします。」
「これで貸しはチャラアルナ。」
そうこうしている間に沖田家に到着したが、20分程経ってしまっていた。
勝手知ったる所であり、総悟には連絡を入れてあるので玄関の鍵は開いているはずだが、お隣りのカップルは違うらしい。というか、開いているのは知っているだろうにそのまま玄関に直行ということはこの片割れはしないようだ。(ミツバ姉もしないだろう)
チャイムをピンポンと鳴らすと心地好い声が流れ「あら、神楽ちゃんいらっしゃい。」と出て来てくれた。
相 変わらず綺麗な玄関(玄関だけと言わずどの部屋も綺麗。ちなみに総悟は綺麗好きで、私の部屋と比べる方が失礼なくらいだ。)には見馴れない賞状が飾られて いた。多分この間「姉ちゃんが賞を取ったんだ。」と言っていた文学賞のそれだろう。そこを抜けたリビングでは総悟がソファーに座り、何か雑誌を読んでい た。こちらに顔を上げてほわわんとした笑顔を向けてくれる。(他の人に言わすと融けきって気持ち悪い顔らしい)
「神楽、来るの遅かったな。って土方も来てたんかい。」
「悪かったな、せっかくの二人の時間をよ。」
「一緒に居るってことは、神楽はこのクソマヨラと一緒に来たってことか?」
「そーよ。丁度いいから車に乗せてってもらったある。」
「てめー、土方ぁぁぁ」
「誤解だって、てか結局被害を色々と被っただけじゃねえか。」
ミツバ、土方カップルはデートに出掛けに行って今は総悟と家に二人っきりだ。
ソファーに座っている総悟の足の間に私もちょこんと座り、後ろから抱きかかえられている。
「さっき何であんなに怒ってたアルカ。トッシーはミツバ姉が好きだし、何の問題もなくないカ?」
「いや、そこは分かれよ。まあ、そんなに怒ってないけど。」
「やっ ぱり不機嫌な顔今もしてるアル。言われないと何にも分かんないネ。本・・とうに・言われないと分かんないネ。私のことどう思ってるアルカ。もうすぐう付き 合って7年になるアル。もう7年ヨ。何にも思わないアルカ。高校の時から結婚を前提にお付き合いっていう風に付き合いだしたわけじゃないけど、7年経つ し、ここで逃したらこんなチャンスが無いってくらいの一抹の不安も覚えるアル。だけど、総悟は何にも言わないし。今のも分かれよって言われても言われない 限り、私はエスパーでも何でもないから分からないアル。」
「え・・・あの・・」
もう目の奥が熱くなって泣きそうになってくるのが分かる。目が充血しだし、いきなり捲し立てた私を見てさぞかし総悟も驚いているだろう。それでも言葉は止まらない。
「うん、ごめん。」
まわされた腕に強く力を入れられた。
「だから、ごめんじゃ分からないアル。」
「あー。ホントはもっとムードがある所っていうか、ちゃんとして言いたかったんだけど。神楽、結婚してくれないか。」
「遅いっ。」
「痛って。別に頬つねるこたぁねえと思うけど。」
「どんだけその言葉を待ってたとおもってんだヨ。」
「うん。」
「姉御はお腹に赤ちゃんがいることが分かったんだって。」
「うん。」
「トッシーはそろそろ一緒に暮らす準備を始めてるんだって。」
「うん、ってそれ聞いてねーぞ。今日のお出かけもその伏線ってか。ちっ。行かせなければよかった・・」
「そうしたら二人っきりになれなかったアル。」
トッシーは元私がお世話(お節介されていたともいえる)家の主である銀ちゃんに用事があったらしい。―― 余談だが、私は高校時代銀ちゃんの家に父親から預けられ2年間そのボロアパートに住んでいた。大学生になって流石に同居も、ということでマンションに引っ 越すことになったのだが、心配性の銀ちゃんと父はアパートの前にあるセキュリティバッチリのマンションに私を住ませ、今でも銀ちゃんのお世話になっている と言っても過言ではないのだが――
トッシーはミツバ姉に選んでもらったため、本人には似合わないクリーム色の軽自動車――しかし、ミツバ姉が隣にいるととてもしっくりくる――の運転席の窓から体を乗り出してきた。
「よう、チャイナ娘じゃねえか。これから総悟の所か。」
「そうアル。てか、何時見てもその車トッシーには可愛すぎるナ。見てて面白い。」
「余計なお世話だ。さっきも銀時の野郎にも言われたよ。流石親子。」
「あんなやる気ない天パと一緒にしないで欲しいネ。親子でもないし。」
一通りの掛け合いが終わるとトッシーは腕時計をチラチラ確認しだす。
確か総悟が昨日の電話で不機嫌そうに、「姉ちゃんが今日は出かけるから、家に来いよ。」と私を誘ったのを思い出す。
「これからミツバ姉とデートで、迎えに行くアルカ?だったら私も向こうの家まで連れてくネ。」
「そうだけど、何で俺が。そう遠い距離でもないだろうが。」
「別にいいダロ。自転車で無駄な労力使うのも嫌だし。」
「わーったよ。ほら、乗ってけ。貸し1だ。」
「わーい。」
「って、乗るの早っ。」
車の中に流れている音楽がとても心地よい。今流れている曲を歌っているのはミツバ姉が好きな歌手だった気がする。トッシーの趣味はこんなバラードではなかった気がする。そんなのいちいち覚えていないが。
車に乗って数分、幹線道路に出たとたん、渋滞にはまってしまった。これだったら自転車で行った方が楽だったかもしれないという野暮なことは考えないことにしよう。
変わらぬ会話を続けているのも飽きてきた。隣をまじまじと見つめていると、ハンドルにもっていっている手にキラリと光るものが見える。
「婚約指輪アルカ。いいなぁ。」
「え?まだおまえ総悟から貰ってなかったのか。」
「そうネ。てか《結婚》のけの字も微塵に感じないアル。」
「お前ら社会人になってもう数年は経ったよな。」
「ほんっとに。いつから付き合ってると思ってるアルカ。高校生ネ。高校生からもう何年・・」
「あー。何かすまん。」
「銀ちゃんは赤ちゃんが出来るって喜んでるし、トッシーも結婚してるんだから一緒に暮らしたいとでもとか思ってんだロ。」
「まあな。」
「総悟はなんなんだヨ、ホント。私は嫌だってカ。」
「そういう訳ではないと思うぞ。総悟の気持ちもわかるし肩を持ってやりたいところだが、いかんせんヘタレすぎるな。」
「う゛ー。」
「泣くなって、俺が怒られる。」
トッシーは少し煙草臭いハンカチを差し出した。車の中は煙草を吸っている気配を感じさせなかったが、ここでボロが出た。
「ハンカチ、煙草の臭いするアルヨ。まだ、禁煙できてなかったアルカ。」
「あー、これはミツバのは内密にお願いします。」
「これで貸しはチャラアルナ。」
そうこうしている間に沖田家に到着したが、20分程経ってしまっていた。
勝手知ったる所であり、総悟には連絡を入れてあるので玄関の鍵は開いているはずだが、お隣りのカップルは違うらしい。というか、開いているのは知っているだろうにそのまま玄関に直行ということはこの片割れはしないようだ。(ミツバ姉もしないだろう)
チャイムをピンポンと鳴らすと心地好い声が流れ「あら、神楽ちゃんいらっしゃい。」と出て来てくれた。
相 変わらず綺麗な玄関(玄関だけと言わずどの部屋も綺麗。ちなみに総悟は綺麗好きで、私の部屋と比べる方が失礼なくらいだ。)には見馴れない賞状が飾られて いた。多分この間「姉ちゃんが賞を取ったんだ。」と言っていた文学賞のそれだろう。そこを抜けたリビングでは総悟がソファーに座り、何か雑誌を読んでい た。こちらに顔を上げてほわわんとした笑顔を向けてくれる。(他の人に言わすと融けきって気持ち悪い顔らしい)
「神楽、来るの遅かったな。って土方も来てたんかい。」
「悪かったな、せっかくの二人の時間をよ。」
「一緒に居るってことは、神楽はこのクソマヨラと一緒に来たってことか?」
「そーよ。丁度いいから車に乗せてってもらったある。」
「てめー、土方ぁぁぁ」
「誤解だって、てか結局被害を色々と被っただけじゃねえか。」
ミツバ、土方カップルはデートに出掛けに行って今は総悟と家に二人っきりだ。
ソファーに座っている総悟の足の間に私もちょこんと座り、後ろから抱きかかえられている。
「さっき何であんなに怒ってたアルカ。トッシーはミツバ姉が好きだし、何の問題もなくないカ?」
「いや、そこは分かれよ。まあ、そんなに怒ってないけど。」
「やっ ぱり不機嫌な顔今もしてるアル。言われないと何にも分かんないネ。本・・とうに・言われないと分かんないネ。私のことどう思ってるアルカ。もうすぐう付き 合って7年になるアル。もう7年ヨ。何にも思わないアルカ。高校の時から結婚を前提にお付き合いっていう風に付き合いだしたわけじゃないけど、7年経つ し、ここで逃したらこんなチャンスが無いってくらいの一抹の不安も覚えるアル。だけど、総悟は何にも言わないし。今のも分かれよって言われても言われない 限り、私はエスパーでも何でもないから分からないアル。」
「え・・・あの・・」
もう目の奥が熱くなって泣きそうになってくるのが分かる。目が充血しだし、いきなり捲し立てた私を見てさぞかし総悟も驚いているだろう。それでも言葉は止まらない。
「うん、ごめん。」
まわされた腕に強く力を入れられた。
「だから、ごめんじゃ分からないアル。」
「あー。ホントはもっとムードがある所っていうか、ちゃんとして言いたかったんだけど。神楽、結婚してくれないか。」
「遅いっ。」
「痛って。別に頬つねるこたぁねえと思うけど。」
「どんだけその言葉を待ってたとおもってんだヨ。」
「うん。」
「姉御はお腹に赤ちゃんがいることが分かったんだって。」
「うん。」
「トッシーはそろそろ一緒に暮らす準備を始めてるんだって。」
「うん、ってそれ聞いてねーぞ。今日のお出かけもその伏線ってか。ちっ。行かせなければよかった・・」
「そうしたら二人っきりになれなかったアル。」