滑稽な光のその先に
ぱかんと意味がわからない顔をする染岡と土門。
一之瀬は拳を握りしめ、叫んだ。
「俺たちが連れ戻すんだよ!円堂は俺たちなら…俺たちなら自分を連れ戻せるって信じてたから!だから俺たちを残したんだよ!」
唖然とした。
けれど涙を流しながらそう叫んだ一之瀬を見た彼らには、その想いが伝わった。
信じているんだ。
円堂があんな風になったのにはきっと理由がある。
でも円堂は望んでいる筈だ。
闇から連れ戻されることを望んでいる筈だ。
だから俺たちを連れていかなかった。
最後の希望に、俺たちを選んだんだ。
「そう…かもな」
「染岡?」
「あいつらはきっと耐えられないんだろう」
「そうだ。俺たちは円堂を取り戻さないといけない」
染岡は再び空を見た。
いつの間にか霧は晴れて気持ちのいい朝だった。
悪夢はきっと現実で、円堂の泣いている理由が知りたかった。
それがたぶん、円堂の抱えているものだろうから。
「俺たちがやらないといけないんだ。こんなところで迷ってる暇なんてなかったな」
ニッと染岡はいつものように笑った。
それを見て、一之瀬と土門が頷いた。
「練習しよう」
「ああ、サッカーで、目を覚まさせてやるんだ」
「結局いつも通りかよ」
苦笑しながら土門がそう言ったのを、そうだなと笑った。
「あ、染岡さーん!」
校門を振り返ると、壁山や栗松、一年生たちに加えて立向居、綱海、塔子が走ってくるのが見えた。
「お、お前ら!」
立向居たちが来ていることに驚いた染岡が声を上げると、近寄ってきた彼らが笑った。
「来ちゃいました!俺、あんな円堂さん放っておけないです!」
「俺も信じられなかったけどな…やっぱここに来るのが一番だろ」
「あたしも!みんなで円堂を迎えに行こう!」
かつての仲間たちが集まったことを、恥ずかしくも嬉しそうに、一之瀬と土門は笑った。
その後からダーリンー!と叫ぶ声まで聞こえ、一之瀬の動きが一瞬固まる。
車の止まる音がしたと思うと、その中からマネージャーたちが出てきた。
「あら、こんなに早くから練習?気合い十分ってわけね」
「みんな!立向居くんたちまで!」
「引っ張るなってやめろよ!」
「さっき小暮くんを拾って…ってみんな揃ってどうしたんですか!」
ついでに小暮も。
どうやら一足遅く来たのを音無に見つかったらしい。
「これで揃ったな」
「え?」
「チームメイトが全員そろったってことさ。円堂を迎えに行くな」
「染岡さん!」
「いいこと言うじゃないか、染岡」
一之瀬が片腕で染岡を押しやる。
ちなみに何故片腕なのかと言うと、もう片方の腕は既にリカによって塞がれていたからだ。
「当たり前だろ!さあ練習だ!そんで円堂を取り返すぞ!」
「オー!!!」
グラウンドを駆け、染岡が勢いよくボールを上空へと飛ばす。
それを仲間たちが追いかけていく中、土門は真顔で立ち止まり、苦笑している一之瀬へと尋ねた。
「なあ」
「うん?」
「取り返すって…誰からだ?」
「え?」
弾んだボールが闇へと飲み込まれる。
二人は汗を流し、見つめ合い、呟いた。
「誰かいる…のか?」
円堂を闇に引き込んだものが。
そうと気付かぬ限り、彼らにその存在はわからない。
その筈だった。
そして彼らにその存在を明かす日は来ないのである。
だからこそそれこそ最後まで、彼らにその存在を認識できる筈がなかった。
「へぇ…」
気がついたか。
「だけど目的に気がついたわけじゃない」
皮肉にも純白の羽根の舞う中で、彼は言った。
「それじゃあ駄目だね」
ちょっと面白くなってきたかもと思ったのに。
また羽根を散らしてそうでもないかと思いなおしてそれは消えた。