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こらぼでほすと アッシー5

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その夜、互いの寝室に引き取ったものの、なんだか気分が落ち込んで眠れそうにない歌姫様は、ガウンを羽織って、親猫の部屋に出向いた。そろそろ寝ているかもしれない時間だが、まだ灯りが漏れていた。ノックして入ると、雑誌をパラパラと捲っている親猫がいた。
「どうした? 」
「なんだか眠くなりませんので、ママの安眠妨害にまいりました。」
 そう切り出したら、相手は大笑いして起き上がった。ちょっと待ってな、と、スタスタと部屋を出て行こうとする。
「どこへ行かれるつもりです? 」
「キッチンだよ。そういう時は、ホットミルクにはちみつってーのが、うちの定番なんだ。仕事のしすぎで頭が冴えてるんだろ? 」
 そう言ってスタスタと出て行った親猫に、歌姫は慌てた。建物の中は、一応、使っている部屋は暖房しているが、今の時間だと、それも止まっている。それに、何より慌てる理由は、部屋履きの中は裸足だったし、ガウンも着ずに、パジャマのまんま出て行ったからだ。置いてあるガウンを手にして、歌姫も走り出す。なんと無頓着なのだろうと呆れてしまう。
 途中で追いついて、ガウンを差し出したら笑われた。大袈裟だと言うのだから、いくら温厚な歌姫様でも怒鳴りたくなる。
「俺の住んでたとこは、もっと寒いから、これぐらいなら寒くないんだよ。だいたい、おまえさんこそ、そんな格好でフラフラして風邪を引いたら、どうすんだ? 戻ってろ。」
「・・・ママ・・・お忘れのようですから、今一度、申し上げますが、私はコーディネーターという人種で、宇宙の劣悪な環境に対応するように遺伝子操作されています。あなたより頑丈にできているんです。」
「でも、女の子には違いない。女の子ってーのは、身体を冷やすといけないらしいぞ? 」
「あなたも、身体を冷やしてはいけないはずです。」
「なら、さっさと作って戻るとするか? 」
 ほら、急ぐぞ、と、親猫は、またスタスタと小走りに歩き出す。ああ、余計なことを言った、と、歌姫様は後悔したが、もう遅い。



 ミルクパンで、牛乳を温めて、そこにハチミツとブランデーを垂らした極上のホットミルクを、さくさくと作ると、ふたつのマグカップに容れて、ひとつを歌姫様に手渡す。零さないように、ゆっくりと歩いて、部屋に戻って、マイスター組の部屋のほうの居間に落ち着いた。
「ちょうどいい適温になってるだろ? ただし、これ、飲んだら歯磨きをし直せよ? ラクス。」
「眠くないんですか? 」
 いつもなら、すでに寝ている時間だ。だのに、親猫はぴんしゃんしている。
「まだ、寝る前のクスリを飲んでなかったんだ。ちょっとおもしろい記事を見つけてさ。それを読んでから寝たかったんでな。」
「なるほど、理由はよくわかりました。ママは歯磨きとクスリですわね。」
 ふたりして、湯気のあがっているマグカップに口をつける。そろそろ深夜枠の時間帯だから物音ひとつしない静かな時間だ。こんな時間は気張らなくていいから、歌姫も温かいミルクで気持ちが鎮まっていく。そして、親猫は何も言わない。黙って、ぼんやりとホットミルクを眺めているだけだ。それが、とても心地よいと思う。そして、つい、ぽろりと言葉が零れてしまった。
「・・・人間は愚かです・・・・」
「え? 」
「なぜ、人は戦うことを止めないんでしょうね。」
「本能なんだろう。・・・何か起こっているのか? 」
「連邦が小国の弾圧を行なっています。私くしたちには、それを止める手立てがありません。静観するべきだと分かっていても、心は晴れません。」
「そりゃ、そうだろう。」
 ぽつりと漏らしたことは、あまり親猫の耳に入れてはいけない事柄だ。だから、オブラートに包むようにして、歌姫も告げている。でも、言いたくなった。胸につかえたものが、大きくて裡で処理できなかったのだ。
「俺たちだって、罪のない人間を大量に殺してきた。それで、次の世代が戦わなければいいという大義名分はあっても、殺す事実は変らない。だがな、ラクス。そうしないと、もっと人間は死んでいくんだ。割り切れとは言わないが、そこは理解したほうがいい。」
 眠れない理由を察した親猫が、そう告げる。それをやってきた当人が言うのだから、真実味はある。連邦が、そういう理由でやっているなら、人的被害には目を瞑るしかないのだ。それで、連邦が平和を維持できるなら、その殺人は肯定される。全ての人間に平等に平和を与えるのは、今の人間には困難なことだから、ある程度の取捨選択は発生する。
「・・・わかっております。ただの愚痴です。」
「なら、好きなだけ吐き出せばいい。」
 『吉祥富貴』を率いている歌姫様は、あまり愚痴も吐けないだろう。そういう捌け口としてなら役に立てる。こういう時は、ただ聞いてやればいい。真面目腐った助言や正論が必要な訳ではない。ただ、聞いてやればいいのだ。組織でも、スメラギの愚痴を聞くのは、ロックオンの役目だった。だから、これは慣れているといえば、そうだ。
「互いに少しずつ譲れば平和に暮らせます。それなのに、譲らないばかりか相手を消さなければ気が済まない。人間のエゴは奥深いですね。・・・・私くしも、たぶん、他人からすれば、そう見えているのだと思います。それもわかっています。でも、無力な人たちは、逃げ惑うばかりで何もできないのです。」
「・・・うん・・・」
「武器があっても、物量では敵わない。わかっていても、やめない。やめれば、せめて命だけは助かるというのに。いえ、負けろと言っているのではありません。負けたフリで力を蓄えることもできるのだとわかってくだされば・・・」
「・・そうだな・・・」
「私くしの歌や言葉では、少しも伝わらない。それが、とても悔しいのです。」
「・・・うん・・・・」
「もう、キラの寂しそうな笑顔なんて見たくないのに、何度も見なければならない。いっそのこと、プラントへ移ろうかと何度も考えました。ですが、こちらには、キラのご両親とカガリがいらっしゃいます。プラントからでは、オーヴに何かあっても駆けつけるには時間がかかりすぎるのです。」
 滔々と、いつも思って胸に仕舞い込んでいることが、いくつも零れた。だんだん、興奮して泣けてきても、親猫は黙って相槌を打つだけだ。そっと、歌姫の手からマグカップを、取り上げて机に置いた。

・・・・まだ、二十歳越えたとこだもんなあ。カリスマの塊って言ったって、不安定になることもあるよな。・・・・・

 嗚咽している歌姫の頭を撫でて、ふうと息を吐き出した。二度の大戦を潜ってきた歌姫様は、まだ若いのだ。表には出さないが悩むこともあるんだろうと思うと、年相応に見えてくる。キラたちだって、そうだ。まあ、キラには虎や鷹、トダカといったじじいーずが背後に控えているから、歌姫ほどのことはないだろう。『吉祥富貴』を維持するというのは、生半可の覚悟ではできない。世界との関係を調整しつつ、自らを護らなければならない。
 もうちょっとブランデーを垂らせばよかったと、微笑んだ。こういう時は、組織の戦術予報士のように、強い酒でも飲んで、勢いで吐き出して眠るほうが健全だ。
「酒でも飲むか? 」
「え? 」