こらぼでほすと アッシー5
「もっと酔っ払って、言いたいこと全部吐き出してしまえば、すっきりする。うちの戦術予報士の十八番だ。ここで吐き出したことは、俺も酒で忘れるから、誰にも伝わらない。だから。」
飲むか? と、尋ねられて、歌姫は、笑い出した。こんなふうに愚痴を吐き出す自分を肯定してくれているのだ。やるなら徹底的に吐き出せ、と、まで勧めてくれている。
「生憎、私は、あまり酔わない体質です。」
「そりゃ難儀だな。それなら、表で思いっきり叫ぶか? 結構すっきりするぞ? 」
「セキュリティーにひっかかって、バレます。」
「ああ、そうか。うーん、他にあったかなあ。」
「ママは、どうされていたんです? 」
「・・・俺?・・・あまり勧めたくない方法で処理してた。大人になると、いろいろと方法は増えるんだけど、それは、おまえさんには、ちと早いだろ? 」
「それは、セックスですか? 」
「まあ、そういうもんだな。それとドラッグってーのもあるが、あれは、バッドトリップする場合もある。他には睡眠薬か安定剤。これも、身体にはよくないだろうな。・・・てか、ラクス。女の子は、簡単にセックスとか言っちゃいけませんっっ。慎みがないっっ。」」
「一応、コーディネーターの基準で申しますと、私は成人しておりますよ? 」
「そういうこっちゃないの。女の子はな、そういう言葉は、口にすると品位が下がるんだ。マリューさんぐらいの年齢になってから口にしなさい。」
「そういうものですか?」
「そういうものです。・・・うーん、やけ食いってのもあるけど? 」
「別に食べたくありませんね。・・・そこまで、切羽詰ってはおりません。」
というか、すでに、かなりすっきりしている気がする。もやもやとした気分を、いつもは一人で呑み込んでしまうのだが、それを少しでも吐き出したのがよかったらしい。温くなったホットミルクを手にして、それを飲むと、意地悪なことを思いついた。
「ママ。」
「ん? 」
「ママと私で、ストレス解消というのはいかがでしょう? 」
「無理。俺の好みは、マリューさんみたいな年上の女性だ。おまえさんじゃない。・・・冗談でも言うな。」
「これでも美少女だと思いますが? お気に召しませんか? 」
「てめぇーの娘に欲情するほど、俺はおかしくないよ。無茶言いなさんな。」
冗談だと解っているから、親猫も笑いながら叱る。だいたい、ラクスはキラが好きなのだ。それを知っていて、そんなことするわけがない。
「難しいですわね。」
コロコロと笑って、首を傾げている歌姫は、いつものような穏やかな表情になっている。
「・・・・少しは眠れる気分になったのか? 」
「お腹が温かくなって落ち着きました。」
「なら、そのまんまベッドに飛び込んで寝ちまえ。」
「じゃあ、歯磨きをしてクスリですわね? 」
この部屋は、マイスター用ではあるが、ゲストルームには違いないので、アメニティも用意されている。とりあえず、歯磨きです、と、歌姫様が、親猫を急かして洗面所へ向かう。二人して歯磨きをして、親猫がクスリを飲むと、歌姫様は、親猫のベッドに転がった。
「こら、ラクス。自分の部屋へ行け。」
「もう面倒です。おやすみなさいませ。」
「おまえね、仮にも男のベッドに飛び込むってのは、問題行動だろ? 襲われてもいいのか? 」
「ほほほほほ・・・・ママは襲わないと、さっきおっしゃいましたわ。灯りを消しますよ? 」
よくよく考えると、フェルトも親猫と一緒に同じ部屋で寝ていたわけで、どのぐらい安全なのか、よくわかる。おまえら、もうちょっと慎みってやつを持てよっっ、と、怒鳴りつつ、親猫も、隣のベッドに潜り込んだ。この部屋には、ベッドは三つ配置されている。ティエリアとアレルヤも、ここで一緒に休んでいたから、そのままにしてあった。
「まあ、憎たらしい。」
「刹那じゃあるまいし、当たり前だ。・・・明日早めに起きて、部屋に帰れよ? 俺は、誰からも誤解なんかされたくないぞ。」
まったく、と、ぶつぶつと文句を言いながら、親猫は背中を向けて沈黙した。たぶん、誰も疑わないだろう、と、歌姫様は思いつつ、灯りを消す。キラと一緒に寝ることはあるが、それ以外で、こんなことはなかった。これはこれでリラックスして眠れそうだから、たまに一緒させていただこうと思ったのは内緒だ。
あんなにもやもやとしていたものは、かなり解消された。本当に、そのまま眠りが訪れる。
親猫は、体力不足なので夜更かしすると、翌日は寝坊する。昼近くまで、ぐーすかぴーと寝ているので、どうなったか知らない。目が覚めたら、なぜか鷹が居て、隣のシングルベッドに転がってテレビ鑑賞をしていた。
「おはよう、ママ。とうとう、オーナーをモノにしたんだって? 」
「はあ? 」
「今朝、オーナーが自分で言ってたぞ。『ママの傍は、よく眠れる。』ってな。」
「え? ラクスが? ・・・だから、早く部屋に戻れって言ったのに・・・」
そんな誤解有り難くない。あれから、ぐっすり今まで寝ていた親猫に、どうこうできるわけはない。というか、襲われたとしても相手ができるわけがないのだ。
「おまえさん、なかなかのプレイボーイだな? うちのマリューにフェルトちゃんにオーナーか。華々しい戦績だねぇ。」
「・・・鷹さん・・・」
鷹もからかっているだけだ。寝る前に催眠導入剤を服用しているような人間に、どうこうできるわけがないのは、端から承知だ。ロックオンのほうもからかわれているのは理解しているから、鷹をじとっと睨んだだけだ。
「いや、さすが、ママだと感心しただけだ。ラクス嬢ちゃんも、いい骨休めになっただろう。」
『吉祥富貴』のオーナーとして、スタッフを率いている歌姫様は、さすがに、スタッフに対して、そういうことはできない性格だ。それが、ロックオンにだけ、そういうことができたのは、甘えていい相手だと、無意識に認識したということで、鷹たちとしては、いいことだと考えている。まだ若い歌姫様には、愚痴ったり我侭を言える年上の相手があるのは望ましいことだ。
「・・・こういうことなら、ミス・スメラギで、俺は慣れてますからね。役に立つことがあってよかった。」
「ああ、スメラギさんのにも付き合ってたな? おまえさん。・・・てか、誰からも男性として意識されないってーのは、ある意味、特技だぞ? 」
「特技ねぇー。いいんだか悪いんだか・・・・」
男性として意識されていないというのは、そういう魅力がないということだから、あまり喜ばしいことではないのだが、そういう接し方を長いこと、組織でもしていたから、そうなっているのだろう。
「襲う気力がないか? 」
「ないですね。」
そういう用件は、ゆきずりで処理していたから、女性に不自由していたわけではない。今は、そういう気分が、まったく湧かないから、歌姫と同じベッドで眠っても大丈夫だろうという悲しい自信もある。
「午後からドクターが診察に来るそうだ。まだ、寺へは戻れないだろうがな。」
「はいはい、もう余計なことは言いません。」
「食事摂れそうか? 」
「・・・少しなら・・・」
わかった、運ばせようと鷹が内線で連絡してくれる。届くまでに、顔だけでも洗っておこうとロックオンも起き上がる。
作品名:こらぼでほすと アッシー5 作家名:篠義