こらぼでほすと アッシー5
「・・いっいえ・・・えーっと、予定が・・・ 」
なんとなく、この空間には立ち入らないほうがいいんだろうと、メイリンは思った。たぶん、歌姫様の本当のプライベートな時間なんだろうと思ったからだ。
「遠慮しなくてもよろしいですよ? ママは、子供には優しい方ですから。」
「そうじゃありません。お邪魔だと思います。」
「邪魔? あなたが? 」
「ラクス様が、本当にリラックスされているのなら、仕事の関係者であるあたしが居るのは、リラックスにならないと思います。」
それを聞いて、歌姫様はコロコロと笑う。確かに、親猫の前では、かなり素である自覚はあるが、そういう面もメイリンには知ってもらってもいいと思っている。まるで、女神のように遇してくれるメイリンに、自分も普通の人間だと知らせるのは悪いことではない。
「あなたとは、ずっと一緒に仕事をしていくのですから、私くしのリラックスしている姿というのも、ご覧になっていただきたいだけです。本当に、予定がおありなら、無理強いはいたしません。明日のお昼をご一緒しましょう。」
「いいんですか? 」
「ええ、歓迎いたしますよ。」
二度目の大戦の後で、スカウトしたメイリンは、ちょっとスタッフとは距離を空けている。シンやレイとは親しいのだが、仕事の関係で、そちらとは、なかなか逢えない。大戦を集結させた英雄というイメージが強すぎて、ラクスには親しく話してくれることはない。それが、少し寂しいと思っていた。この機会に、そちらも改善したいと、歌姫は思っていたのだ。
「・・・・じゃあ、泊まろうかなー。」
「ママのところで一緒に寝ます? 」
「え? 」
「ああ、大丈夫です。ママの好みは、年上の巨乳な女性ですから、私くしたちは眼中に入りません。」
いや、それはちょっと・・・と、メイリンが言い辛そうに断ると、また歌姫は笑う。まあ、さすがに、それは無理だろう。ここに滞在して、何回か顔を合わせているが、メイリンにとっては、外見しか伺えていない。中身が貧乏性のおかんだとわかったら、気にしなくなるに違いない。そこまで、親しくなれるのは、もう少し先だろうから、歌姫も強制はしなかった。
「そういうことでしたら、問題はありませんよ、ロックオン。いつも、あそこの大掃除は、僕らが手伝っていますし、食事も年末年始の分は作り置きしておきますから。それより、そちらはどうなんですか? 」
やっぱり、寺のほうが気になって、八戒に連絡したら、そう返事が返って来た。ロックオンが世話になるまでは、毎年、そうだったというのだから、問題はないだろう。
「俺のほうは、随分、楽になりました。食事が、まだ少ししか入りませんが、それ以外は、なんとか。」
「そうですか、それはよかったですね。今回は、お里でゆっくり年越ししてください。マイペースな鬼畜腐れ坊主のほうは、僕らで世話しておきますから。」
「いや、クリスマス前には戻りますから、一度、寺にも顔を出します。」
「あーそうしてもらえると、僕も助かります。性格破綻な鬼畜腐れ坊主は、女房がいなくて拗ねてますんでね。それを宥めていただけると有り難いです。どうも、あのマイノリティー驀進の鬼畜腐れ坊主は、ロックオンが傍にいないと不機嫌なんですよ。ははははは。」
なぜ、一々、『鬼畜腐れ坊主』という長ったらしい名称で呼ぶのだろうと疑問に思っていたら、「うぜぇーんだよっっ、イノブタっっ。」 という当人の声が聞こえてきた。
「もしかして、今、寺ですか? 」
「ええ、今現在、寺です。・・・うるさいですよ? 三蔵。声が聞きたいなら、そう言えば代わりますよ? 」
久しぶりの奥さんの声ですよ? と、優雅な声で八戒は声を張り上げているが、ドガンッッと大きな音がして静かになった。
「あなたの亭主は素直じゃないから逃亡しましたよ、ロックオン。」
「八戒さん? 」
「ああ、大丈夫です。たぶん、パチンコですから。気にはしてるんですけどね。素直じゃないから、ああいう態度になるんです。」
かなり長い付き合いだとは聞いているので、言いたい放題だ。だが、こういうことをストレートで言えるのは、八戒ぐらいだろう。他のものなら、確実にマグナムで撃たれる。
「悟空は元気ですか? 」
「ええ、いつも通りです。ただ、オムライスは、もう僕の作ったのでは満足できないみたいです。戻られたら、お願いします。」
やっぱり、ママのがいい、と、八戒の作ったオムライスを食べながら、悟空は漏らしたそうだ。まあ、おやつは、ここのところロックオンが作っていることが多かった。三ヶ月の不在は、ちょうど夏休みと重なっていて、いつもより長く、三蔵と本山へ戻って過ごしていた。新学期が始まって、親猫が帰ってこなかったから、そういう意味では、悟空も物足りなかったのだろう。居れば至れり尽くせりの世話をされているのだから、そうなるのも当たり前だ。
「戻りたいんですけどね。」
「そろそろトダカさんのところへは帰れますよ。焦らないで、新しいレシピでも開発しておいてください。」
八戒の言葉は穏やかだ。そして、悟空の言葉は解り易くて嬉しいと、ロックオンも思うもので、少し頬が緩んだ。必要とされることがあると、単純に嬉しい。それだけで、肩に入っていた力が抜ける気がした。
作品名:こらぼでほすと アッシー5 作家名:篠義