こらぼでほすと アッシー5
午後からやってきたドクターとラボの医療ルームへ行き、そちらで、いろいろと検査された。少し状態は上向いてるから、このまま生活しなさい、と、命じられる。
「ドクター、ひとつだけお願いがあるんですが? 」
「なんだろう? 」
「ハイネを俺の看護から外してください。あいつ、処置が下手で、こんなことになってんですよ。」
かなり色は落ち着いているが、それでも二の腕の関節辺りの柔らかい内部分は、あっちこっち紫色に変色している。あーと納得したようにドクターも頷く。
「いい練習台になったらしいね? ロックオン。ハイネは、資格はあっても実習したのは、何年かぶりだと言ってたからなあ。」
「やっぱり。おかしいと思ったんですよ。」
実務経験ということなら、ロックオンのほうがマシだった。つい一年とちょっと前まで、実習していたから、自分の血管を探るなら、自分のほうがわかるほどだ。ハイネが、バシバシと腕を叩いて血管を浮き上がらせても失敗するから、おかしいとは思っていたのだ。
「まあ、諦めてくれ。しばらくは、ハイネが担当だ。」
「いっそのこと、自分でやっちゃダメですか? 」
「資格はないんだろ? ロックオン。先に資格を取ってからだな。」
公けの見解としてはドクターが正しい。テロリストに資格云々なんてあるわけはない。
「じゃあ、資格習得用の資料をください。」
「まだ、それは無理だ。読み物になりそうなのは貸してあげるよ。まあ、いいじゃないか。誰だって経験して上手くなるんだからね。きみが、それをやられないように回復すればいいだけだ。」
クスリの処方箋を書きつつ、ドクターは大笑いする。誰だって最初はある。それに、こういう処置は経験がモノを言うのも事実だ。
「いつ頃、俺はハイネの練習台を卒業できるんですか? 」
「この調子ならクリスマス前には開放されるんじゃないかな? 」
まだ、一週間ばかりかかるらしい。げっそりという表情で、ロックオンが肩を落とす。今のところ、ハイネは外のバイトで留守だが、一週間もしないうちに戻ってくるだろう。そう考えると、また痛い目に遭わされる。
「店の手伝いが入ると思うけど、連日は無理だ。私からもアスラン君に連絡はしておくが、自分でも疲れたと思ったら休むこと。」
それがわかれば苦労しないと、ロックオンは内心で溜息をつく。当人には、どれくらいが限界なのかよくわからない。ドクターのほうも、その模範回答は考えていた。
「身体が重いな、とか、眠ったのにダルイな、とか、いうのが自覚症状だろうね。」
「それ、感じただけで、ですか? ドクター。」
「ああ、そうだよ。きみの体力というのは、そのぐらい落ちているんだ。現役マイスターの時の感覚で考えるから、わからないんだ。」
マイスター現役の時は、ちょっとぐらいの疲れなら、そのまま押し通しても、どうにかなっていたし、何時間か泥のように眠れば回復もしていた。その感覚で言うと、ドクターの言う自覚症状なんてものは、まだまだ気力で保たせられる範囲のことになる。
「だから、今まで何時間かの休息で回復していたことが、何日間かになっているんだ。」
「・・あ・・そういうことか・・・」
「それに、催眠導入剤というのはね、強制的に身体を休ませているだけだから、それほど回復しないんだよ。・・・・できれば、このクスリを飲まなくて済むようになって欲しいよ? 」
どうしても、アレルヤたちのことが気になって、クスリなしには眠れない。頭では解っているが、なかなか気持ちは理解しないのだ。
「運動したら疲れて眠れると思うんですが、トレーニングを許可してもらえませんか? 」
「許可すると無茶するから却下。確かに眠れるだろうけど、疲れが溜まるだろ? 翌日、ナマケモノモードでいてくれればいいけど・・・」
きみの場合、それができないからな、と、ドクターに叱られる。だから、今はトレーニングルームへ勝手に入れない。ロックオンの認証コードでは扉が開かないようにされている。
「じゃあ、ドクター、クリスマス前に寺へ帰れるんですよね? 」
「寺? うーん、そこはトダカさんと相談してからだ。トダカさんは、自分のほうへ戻らせるつもりみたいだから。」
とりあえず、ナマケモノモードでいてくれ、と、ドクターは命じて帰ってしまった。どうあっても寺へは戻れないらしい。だが、年末に人手が入用なのは寺のほうだ。大掃除やら年末年始の食事やら、そういう用件があるのが寺なのだ。
診察が終わってから、大きな居間で、どう段取りしようかと考えていたら、ラクスが秘書のメイリンと通りかかった。仕事の話をしているらしいが、先にメイリンが気付いて軽く会釈した。続いて、ラクスも気付いて、近寄ってくる。
「お暇なら、ティータイムにいたしましょうか? 」
「いや、仕事の最中なんだろ? 先に片付けろよ、ラクス。それから、今晩はメシ作るのか? 」
「ええ、今日は、中華に挑戦してみようかと思っておりますの。手伝ってくださいます? 」
中華と聞いて思い出すのは、お寺のおサルさんだ。一番手をかけているから、気になって口から出た。
「・・・中華か・・・悟空は元気か? 」
「元気です。お会いになりたいですか? 」
「いや、それはいいんだけど・・・・」
「休日なら来てくれると思います。今、私くしがママを独占したくて遠慮してもらっていたんです。」
「ああ? そうなのか? 独占って・・・何がやりたいんだよ? おまえさん。」
「ママと親交をより深くしてみようと試みております。私くしだけ逢う機会が極端に少ないのは事実です。ですから、この機会を逃す手はありません。」
「ちょっと待て。それってことは、ドクターもグルか? 」
いきなり、別荘へ軟禁された、そもそもの理由がそれなら叱るべきだろうと思ったのだが、実際は違っていた。ラクスとしては、ちゃんと説明して一緒に過ごすつもりだったのだ。だが、先にドクターがキレたらしい。
「騙すつもりはありませんでした。ドクターは、本当に怒っておられたんですよ? ママ。ちゃんと謝罪なさいました? 」
「え? ・・・いや・・・それ、謝るところか?」
謝るも何も、ドクターからは、くどくどと叱られたが、今日、来た時は、いつも通りだったから、謝罪も何もしていない。
「ママのことを心配しているから叱られたんですよ? 謝るべきです。」
「おまえさんは厳しいなあ。・・・わかったよ、今度、こっちに来たら謝る。」
「そうしてくださいな。メイリン、喉が渇きました。少し休憩いたしましょう。」
「いや、仕事の途中なら、それやってからにしろ。俺は、部屋で横になるから、夕方に起こしてくれ。」
それだけ言うと、ロックオンのほうは、歌姫様の頭をポンと軽く叩いて、居間から出ていく。その一連のやりとりを終始見ていたメイリンには驚きだ。歌姫様の頭を叩くこともさることながら、歌姫様も、年上の相手にポンポンとモノを言っている。いつもは、どんな相手にも敬語で丁寧に喋る人だ。断定的な物言いなんて、あまりしない。それが、かなりラフな話し方だった。
「うふふふふ・・・メイリン、今日は泊まりますか? 私とママの合作を召し上がりませんか? 」
作品名:こらぼでほすと アッシー5 作家名:篠義