輪廻の果て2章
三話
小さいころから不思議な夢をよく見た。見たこともない部屋でいくつもの視線を一心に浴びながら、布団に横たわっている自分。
隣で必死に誰かが何かを叫び続けていて、その人がぽろぽろ涙を零している。
顔は良く見えなくて。でも、自分はどうしてもその人の涙を見たくなかった。たとえ腹から例えようもない痛みが襲ってきていたとしても。
だから、笑った。笑って見せた。そして、どうしてもその人が泣き続けるというののなら、どうか。
『私を・・・・わすれ、て・・・』
「っ」
帝人はがばっと身体を布団から起こすと、汗でびっしょりと濡れた額を拭った。心の底から深いため息を吐くと、パジャマを脱ぎだし制服に着替え出す。
幼いときから見てきた夢。それがこのごろ特に酷く思い出される。あの夢を見た後はどうしてだか胸が切ないような焦燥を味わうのだ。
帝人はネクタイを結びながら、夢を見ずとも思い出せる情景について考える。そしていつも同じ結論に思いつく。
「ありえない」
朝食をそこそこ、制服のジャケットを着て鞄を持ち学校へと向かった。親友が待っているであろう待ち合わせ場所まで早歩きで急ぐ。
小さいころから日常にとても飽いている自分がいた。非日常を望む自分がいた。だから幼いころはこの夢が何か非日常の知らせかとも思ったものだ。
けれど、そんなわけがあるわけもなく。変わることのない日常は過ぎていくばかり。
そんな時、親友からの非日常への誘いがあった。帝人はすぐにその言葉に食いつき、今現在この東京の中心池袋に来ている。
池袋に来たところでそうそう非日常に会えるわけではないことは最近知った。だんだんと慣れつつあるこの都会。
そんな都会にダラーズというチームが存在している。現実にあるはずのない架空のチーム。
カラーギャングでありながら色を持たない、言い換えれば無色透明の自由なチームだった。今までは。
それがこの頃、危ない方面に動き出している、という噂が帝人の耳に入った。帝人は慌ててネットの網を遣いその真意を探り出した。
歩きながら段々と沈んでいく視界に、とうとう足下が映し出される。
(僕のチームだったのに・・・)
どこで間違ってしまったのだろう、と視界と共に沈んでいく思考に帝人は唇を噛み締める。
ダラーズは帝人が池袋に来る前に作り上げたネット上だけのチームだった。どうにかしてあの田舎から非日常を味わおうとした結果の産物。
そのダラーズがいつの間にか一人歩きを初めて、今や池袋でダラーズのことを知らない人間はいない。
(・・・僕が、軌道を直す・・・それが僕に出来る事のはずだ・・・)
ダラーズが帝人の手の届かないところへ行ってしまいそうで、それがとても怖かった。
今ならまだ間に合うのではないか。丁度良い手頃なコマも手に入れた。少し気を抜けば足下を掬われかねないが、それでも使えることに越したことはない。
暗い考えに囚われていると急に視界が暗くなり、思いっきり首に衝撃が加わった。
「こぉ~ら帝人!なーに暗い顔しちゃってるんだ?ん?」
「ま、まさおみっギブっぎぶッ」
「俺様が何度も帝人と呼んでいるのに気が付かなかったお前への罰だと思え~!ほ~れ!!」
「苦しっ苦しいって正臣!ごめっごめんったら!」
帝人的には本当に苦しかったのだが、正臣はその髪色に負けないほどの笑顔で笑い声をたてながらぎりぎり首を絞めてくる。
青い制服を着た学生2人がじゃれ合っている姿に池袋の人達は大して気にする様子もなくその隣を歩き去っていった。
その雑踏の中から足音を感じさせない足取りで近づいてくる女子が1人。
「おはようございます。紀田君、竜ヶ峰君」
「お!杏里おはー!」
「お、おはよう・・・園原さん」
正臣はあっさり帝人の首を離すと、優雅に手をはらって腰を折って見せた。帝人と杏里は苦笑すると、正臣も笑顔を見せる。
「流石にその挨拶はないでしょ正臣」
「なんだとー!女の子に英国女子の気分を味わってもらう!これこそ男の醍醐味だろ!!」
「意味わかんないよ」
くすくす笑い合う2人を見て杏里も笑う。そして3人でまた笑う。
「そろそろ学校へ行きましょうか。遅刻してしまいます」
「そうだなー!よーし、今日も張り切ってナンパするぞー!」
「ハハハ√3点」
「辛辣帝人来た!?」
「ふふ」
笑い合いながら、帝人達は学校へと向かっていった。
続く・・・