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24時間の恋

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「…で、どうしたらいいと思う?」



もうそろそろ夏だなぁ。まだ正午を過ぎたばかり、雲一つない青空を学舎からの帰路に見上げる。
学舎と言うからには当然学業を目的としている訳で、確かに学業外の例えば人間関係、社会を学ぶという主旨も不文律として在るのかもしれないがそれはそれ、進学校でも無い僕の高校では普段それ程に意識しない学生の本分を強制的に思い出させてくれる優しくも厳しいシステム、つまり今日から定期テストだった。
公に早々に解放され少々浮足立ちそうになるが、そのまま飛んで遊興に耽れば明日の墜落は想像に難くない。
ナンパ行こうぜ!満面の笑顔で爽やかに言い放った親友を思い出しその明日を思いクリスチャンでも無いのに胸で小さく十字をきった。アーメン。

行けないとなると余計に魅惑的に思える街に目を向ければ、ぽつぽつと植えられた街路樹の新緑が池袋を香り立つほどに生命力の強い色鮮やかな季節、夏色に染め始めていた。
蝉はまだ鳴いていないがきっと気づいた時にはもう聞き飽きているんだろうあの命の合奏を思い出しながら試練の先の希望、夏休みに思いを馳せる。今年は何をしようかな、昨年は何をしたんだっけ?
帰省して母の小言をBGMとして聞き流しつつ手料理に舌鼓を打つのもいいし、都会で思いきり自由な時間を満喫するのもいい。でも年々進む温暖化を思えばやはり実家に帰って文明の利器に熱中症から護ってもらおうか、

「はいストップ。現実逃避したところで問題の先伸ばしにはなっても解決はしない、どころか場合によっていや往々にして悪化するよ。」

悪化してもいいなら今の俺は構わないけどね。

歩く僕の思考と視界を遮る為に僕の顔前にぬっと掌を差し出し、同時に降らせた正に今日の空の如く清涼な声の持ち主は、相も変わらず皮肉という字を顔に張り付けた笑顔で無慈悲にそう言い放った。前が見えない。

「…手を退けてくれませんか、折原さん。」
「臨也でいいよ。」

そんな話はしていない。この人と話していると明日も見えなくなりそうだ、精神的な疲労を感じながらも前に進もうと身体を少々横にずらすとそれに合わせて彼も少々横にずれた。
成程これは所謂、かの有名な、通せんぼをされているらしい。
通せんぼ、可愛いらしい単語だがそれをするのがこの人というだけで、こんなにも不気味に思えるなんて。

「…折原さん?」

何のつもりだ、怪訝な視線を送ると彼は満面の笑顔でもう一度、今度はよりゆっくりはっきりと、臨也でいいよ、と繰り返した。臨也と呼べと言われている気がする。臨也と呼ばないと通さないと言われている気がする。
臨也でいいよ、許可に見せかけた命令だったのか何故そんな事を命令されなければならないのだろうか何故同じ笑顔の筈なのに先程より恐ろしく思えるのだろうか。自然と頬が引き攣るのが自分でもわかった。

「…通してくれませんか?」
「…」

敢えて姓も名も呼ばずに要望だけを伝えてみる。駄目で元々ではあったが返事すらしてもらえずに挙げ句、ジリリ、距離を数歩縮められ状況が悪化した事を知る。
教訓一、思いつきで得体の知れない相手に下手な真似をするものでは無い。
教訓二、変わらない笑顔で近寄られるのは思いの外、怖い。

「…っ」

だけど呼びたくない。確かに怖い、呼ばなければ一体どうなってしまうのか池袋最強と呼ばれるあの人と渡り合うこの人の笑顔に底知れない恐怖を感じる、だけどそう簡単に恐怖に屈してしまっていいのか竜ヶ峰帝人。
僕だって男だ、確かに分をわきまえ強者に従うのは生き残る上で大切だとは思うが弱者とはいえ時に強い意思を示さなければただ他者の言いなりの人生に、

「…いや、そんなに真剣に悩むところ?」

呼び名一つで強情に苦悩する僕に呆れたのか飽きたのか、彼は緊張感と表情を緩めて道を開けてくれた。
一応口には出していないのだが、そんなに僕の考えている事は分かり易いだろうか。
しかしやった、僕はやった、よし強気でいこう。
彼には見えない腰元で小さく拳を握り決意を固めたが、ふと目に入った斜め前を歩く彼の横顔が無表情で、常々胡散臭い笑顔だと思ってはいたが無くなるとそれはそれで怖い。
怒ってるのかな怒ってたらどうしよう取りあえず謝ろう、決意は脆くも早々に崩れ去った。

不安に包まれ怯えているとこちらを見ないまま帝人くん、不意に名を呼ばれ、

「っふぁい?」
「…」

声が上擦ってしまった。フ、と鼻で笑われて気恥ずかしいが、彼の口元に笑みが戻ったので少しホッとした。

「何かこだわりでもある訳?」
「…こだわりとかでは、無いですけど。幼馴染みですらまだ呼んだ事無いのに…」

ピクリ、彼の眉が少し動いた気がするが、形状記憶の如くすぐにいつもの顔に戻る。

「…あぁ、紀田くんね。まだ?いつかは呼ぶつもりなんだ?」
「…悪いですか?」
「別に悪くは無いよ、ただ妬けるなと思って。」
「…」

そうくるか。やはり先程と笑顔自体は変わらない筈なのに今度は喜色満面に見えるのが不思議だ。
誰かに不快な思いをさせている時の彼は常にこうなのだろうと容易に想像出来て、改めて今の状況に困惑し空を見上げ溜め息を吐いた。あの青空が憎い。

「…おかしいですよ、こんなの。」
「俺もそう思うよ。だからお互いの為に一緒に解決策を考えよう、って話をずっとしてるんだけど。」
「…」

何で一緒になんだろう、客観的に見てどんな場合でも僕がこの人の足を引っ張る事は有っても力になんかなれないと思う。大体僕に責任は欠片も無いと思うし、独りで解決してくれないかな貴方には独りがよくお似合いです僕は明日もテストなんです消えて下さい。なんて怖くて言える訳も無し、どうか心を読まれていませんように。

「何で一緒にって思ってる?」
「…」

願いも虚しく即座に胸中を言い当てられたが最後までは読まれていない様子で一安心、笑顔の中の喜色は消えていない、しかし心臓に悪い。そして喜色が消えていないという事はつまり彼は僕の嫌がる事を、



「一秒でも長く君と一緒に居たいからだよ。」



「…っわかりました、協力します協力しますからソレ、やめて下さい…!」
「…アッハ!」

耐えかねて懇願すればこちらを指差し、顔真っ赤、君もしかして俺の事好きだったの?等とほざいてゲラゲラと喜色どころか涙目で爆笑するはあの折原臨也、勝算は無いとわかっているのに何故だろう今無性にボールペンが恋しい。人を指で差すな。

彼が一通り笑い終えるのを多少距離を取り他人の素振りで待ちながら、帰宅途中に待ち伏せていた彼の衝撃的な台詞から今までの経緯を脳内で復習する。
協力すると決まったならば迅速な解決の為に微力ながら尽力しなければ、一緒に過ごす時間が長引く程に復習より復讐をしたくなってしまいそうだ、まずは状況の整理から始めよう。

作品名:24時間の恋 作家名:湯鳥