こらぼでほすと アッシー6
ランデブーポイントは、アフリカ大陸から、少し離れた無人島だった。ハイネが先に着いたので、MSを島影に隠すように降ろして、隠蔽皮膜を被せる。やれやれと海岸線で背伸びして、軽くストレッチしていたら、上空からエクシアが現れた。隠蔽皮膜を被っているが、そのエンジン音は隠せない。そちらも島の影になりそうなところへエクシアを降ろして、エンジンを止めた。
「よおう、せつニャン。」
現れた刹那は、ちょっと薄汚れていたが、そんなことは想定内だ。親猫がいないと、黒子猫はモノグサさんになるらしい。
「ロックオンは、元気か? 」
「おまえさん、挨拶の前にそれか? ああ、元気にしてる。」
「クルジスの現状を確認したい。独立治安維持部隊の活動は、南米大陸でも偵察したが、こちらは、どうなんだ? 」
あっちこっちに、独立治安維持部隊は展開している。刹那が放浪していた南米にも、彼らはやってきて、小さな国に圧力をかけていた。それについては、報告は送った。
「似たようなもんだな。・・・・中東は弾圧するつもりなんだろう。見せしめに、小国一個を崩壊させやがった。」
「そうか。」
「クルジスは、確認していないが、あそこには国連が手を出していただろ? だから、見せしめの順番からすると、後半戦だと思う。お姫様が、どうにか踏ん張ってるが、なかなか大変そうだ。」
クルジスを併合しているアザディスタンは、弱小国だ。弾圧なんて簡単だから、今のところは放置されている。刹那の故郷だから、現状を確認したいというのはわかる。どうやって潜り込むかが問題だ。
「どうするつもりだ? 」
「海側から入って、エクシアを隠してからクルジスへはジープで潜入する。」
「わかった。じゃあ、エクシアは、ここに置いとけ。こっちの機体で送り届けてやる。」
クルジスまで陸路で往復しても、それほどかからない。ハイネが、送り迎えをしてやれば、エクシアが発見されることはない。ストライクなら発見されても、訓練していたと言えば、どうにでもなる。
「通信は届くのか? 」
「そこまで潜航しない。どっか人目のない海岸線で待機してる。ヤバかったら、即応援に駆けつけてやるからな。エマジェンシーコールよろしく。」
刹那がケガなんぞしたら、キラと悟空のダブルアタックに、ママニャンからのきつい一発が待っている。そんなもの、絶対に受けくたくないから、ハイネは近くで待機するつもりだ。
「ただし、一週間以内に戻ってくれ。クリスマスまでに戻らないと、ママニャンが心配して具合を悪くする。」
「了解した。五日で往復する。」
刹那も、親猫のことを言われたら素直に従う。心配させて具合が悪くなったら、それだけで落ち込むからだ。アレルヤロストも告げずに出たから、それについても叱られるだろうに、さらに叱られたくなんかない。
でも、どうしても故郷がどうなっているのか知りたかった。いろいろな情報は掴んでいるが、実際に、その目で確かめたかった。できたら、お姫様に生きていることも伝えたかったのだが、エクシアが使えないと王宮には潜入が難しいから、今回は、そちらは諦めた。
「カッカするんじゃないぞ? せつニャン。」
「わかっている。水と保存食料がエクシアにあるから、それを、おまえのところへ移せ。」
「いや、こっちにも、まだあるさ。じゃあ、ちょっくらお里帰りと洒落込むか? 」
予定を考えたら、早く移動させるべきだ。だから、休ませずに刹那を、ストライクに追い立てる。近くに熱帯低気圧はないから、島影に隠しているだけで問題ないだろう。
「そういや、南米はどうだった? 」
「人間のいない場所は綺麗だった。」
「世界遺産は? 」
「古そうだった。」
「他に感想は? 」
「ない。」
「おまえさんさ・・・もうちょっと、こう・・なんていうか・・・ママニャンに説明する時は、もう少し長く喋れよ? それ、あんまりだぞ。」
「これで通じるから問題ない。それより、早く発進しろ。」
無口無愛想なのは、いつものことだが、感想が、それだけって・・・と、ハイネは呆れる。コミュニケーション能力というものがないんかい、と、ツッコミたいところだから、睨んだ。すると、刹那は、ふにゃと笑って、「僕、知らないところばかりで、緊張しました。でも、どこも景色は綺麗でしたよ? ハイネさん。・・・・・・これでいいか? 」 と、テロリストお得意の擬似人格を発揮してくれたので、もう何も言うまい、と、MSを発進させた。
・・・・つまり、人間の居た場所は、とんでもなかったってことだよな?・・・
刹那の言葉は判り辛いが、含みがいくつかある。刹那たちの組織が武力介入して世界は変革を促された。しかし、それは、様々な可能性への変革である。正しいと思う方向に変革されていたら、刹那は、そう言わない。
「南米でも、独立治安維持部隊は動いていたか? 」
中東の海岸線へ向けて、潜航しつつ、ハイネが尋ねた。
「世界は、違う方向に歪んでいる。武力介入で変えたのは、俺たちだ。これは、俺たちの責任だ。」
「まあ、そういうことだな。おまえさんたちは、詰めが甘かった。変革された後の流れまでは作らなかったからな。どっかの誰かさんが、その一番おいしいとこをやったわけだ。自分たちの都合のいい変革ってやつをな。」
南米は、まだ被害が少ない地域だが、経済関係では打撃を受けている。組織に介入されてはいないものの、他所での介入で、輸出入のバランスは崩した。それに伴い景気も降下しているはずだ。経済というものは、最下層から影響が始まる。たぶん、刹那は、それを目にしたのだろう。
「その報告は、ママニャンにすんなよ。」
「わかっている。」
世界の紛争を根絶するという理念は、壮大な計画で、すぐに達成されるものではない。地球上の人類が、何パーセントか消滅しても、それで紛争がなくなれば、平和とは言える。その過渡期である現在は、まだ結果が見えない時期だ。まあ、あんまりよくはないだろうけどな、と、ハイネは気付いている。ヴェーダを組織から取り上げた相手は、強制的な平和を造ろうとしている。動物園の檻に動物を収めるようなタイプの平和だ。
これは、過去、プラントが提唱した平和だが、キラたちは、それを良しとしなかった。キラと似た考え方の刹那も、良しとはしないだろう。つまり、戦端はいつか開かれることを意味している。
作品名:こらぼでほすと アッシー6 作家名:篠義