こらぼでほすと アッシー6
歌姫を狙う相手に、元ザフトレッドの二人が護衛に増えたという情報が伝われば、こちらが警戒していることも伝わる。襲撃に慎重さが出て、下手な相手は諦めるし、本格的なテロリストも慎重になって回数は減るだろうというのも、イザークたちの計算には入っている。イザークとディアッカは、プラント側の高官の息子だ。それなりの地位は知られているから、これも有効だ。プラント側も本腰を入れて歌姫様を警護していると見せ付けることになる。
「なるほど。わかりました。・・・シン、行こう。」
「オッケー。」
「おまえら、ここを片付けていけ。それから、イザーク、おやつはまだだと思うぞ。さっき、メイリンが、今から取り掛かると連絡してきたからな。」
「では、作業の見学をしてくる。」
本日、イザークがリクエストしたお菓子を、歌姫様と親猫で製作する。それが楽しみで、うろうろしているのだ。
「おやつ? えーーーなに? なに? イザーク。」
おやつの言葉で、シンの目がキラリンと輝いた。ここにも、甘いもの好きがいる。
「白玉あんみつをリクエストしたんだ。」
「うぉーそれ、嬉しいっっ。」
「食べたいなら、仕事をさっさと終わらせろ。人数が増えたことは伝えておいてやる。」
そりゃ急がないと、と、シンはバタバタと走り去った。そして、後片付けをしているのは、レイだ。猪突猛進な相棒には慣れている。
「レイ、ちゃんとしつけないと、キラのように、何もしなくなるぞ? 」
老婆心から、イザークはそう言っているが、実は、イザークもディアッカにいろいろと押し付けている迷惑な人ではある。虎は内心で、おまえが言うか? と、ツッコミはしている。
「別に、俺は構いません。あちらをシンがやっているのだから、労力としては同じです。」
「まあ、そういう考え方もあるか。」
「おまえ、人間が丸くなったというか、忍耐力がついたというか・・・」
「以前から、シンのフォローは俺の仕事ですよ、虎さん。イザーク、引き継ぎ事項はありませんか? 」
「アスランがいるから、あちらで聞いてくれ。今のところは、大きな動きはない。」
ハイネからの情報を解析しているが、それも、さほど重要ではない。あの部隊が動いているところでは、ほぼ同様のことが起こっているから、チェックするだけだ。
午後のおやつに間に合うように、ということになると、午前中に製作しないと間に合わない。というか、親猫が午後から午睡するから、午前中しか参加できないからだ。
「寒天は、色粉を入れて固めで作ります。それから、牛皮と漉し餡は午後から届きます。」
あんみつの作り方を、携帯端末のパネルに表示しつつ、作り方を歌姫様がレクチャーする。今日は、メイリンも参加だ。ちなみにキラは、台所は出入り禁止だから、居間でオンラインゲームを楽しんでいる。
「蜜は、リキュールで匂いもつけたらどうだ? 」
「何にいたします? ママ。私くしとしては、桃のリキュールとマデラ酒少々というのがお勧めです。」
「なら、それでいいんじゃないか? 俺は食ったことしかないからさ。メイリンは、何をやる? 」
「え? 」
親猫が何気なく尋ねたら、困った顔で誤魔化し笑いだ。メイリンも軍人だったから、あまり料理は得意ではない。
「じゃあ、フルーツ切ってくれるか? それと、白玉を捏ねてくれ。 」
誰でも出来そうなところを、親猫は指示する。フルーツといっても、この場合、缶詰のものだから、細分化するだけだから問題はないだろう。
そこへ、イザークも顔を出した。こちらは、手伝わせるのは不可能だから見物人扱いということになる。
「まだ早いぞ? イザーク。」
「製作過程の見学に来た。お茶を頼む、ロックオン。ジャスミンだ。」
人を使うことに慣れているから、イザークは、いつもこんな調子だ。ロックオンも、はいはいと用意してやる。
「ラクス様、人数が増えたんだが? 」
「多めに用意しておりますから問題ありません。シンたちですか? 」
用意されたお茶を前にして、イザークは手近の椅子を引き寄せて、そこへ腰を下ろした。
「ああ、あいつらも食べたいんだそうだ。」
「シンは甘いものが好きですからね。」
「それから、ロックオン、刹那は近日中に戻るぞ? 体調はどうなんだ? 」
「まあいいんじゃないか? 食事も摂れるようになったからな。」
「それはよかった。・・・おい、メイリン、その切り方は・・・・」
白桃をざくざくと切っているメイリンに、イザークは視線を移した。かなり大雑把だ。
「え? ダメですか? 」
「あんみつだぞ? もう少し細かくしないと・・・おいっっ。」
すると、今度は細かすぎた。それじゃあ、屑だ、と、イザークが叱る。
「待て、イザーク。メイリン、とりあえず、いろいろと切ってみてくれ。再利用するから問題はないんだ。」
慣れていないのは、ナイフの扱いで解るから、ロックオンがフォローするつもりだ。細かすぎるものは、ゼリーで固めてしまえばいいから気にするな、と、宥めて作業をさせる。
「さすが、ママニャンだな? 子供の扱いに長けている。」
「お褒めに預かり光栄だ。最初は、誰だってわかんないんだからさ。まずは、ナイフに慣れるとこからだよ。」
「イザーク、一息つかれたら、団子を捏ねてくださいな。それに、白餡を包んで蒸します。」
他の誰が言ってもやらないが、さすがに、天下の歌姫様に命じられたら、イザークも立ち上がる。
「ラクス、昼のメニューは考えたのか? 」
「ええ、ごく普通の和食にいたします。キンピラと白菜(しろな)とウスあげの煮物に、サワラの西京漬けを焼いて、じゃがいもとワカメの味噌汁でいかがです? 」
シンたちも来ているから、どうせ、食べたいというだろう。量を用意するなら和食のほうが手っ取り早いから、そういうメニューにした。
「じゃあ、ごぼうのササガキとジャガイモは切っておこうか? 」
同時進行で下ごしらえもやってしまうことにした。あんみつは、それほど手間がかからないから、四人でやるほどのことではない。
「白菜(しろな)の煮物もお願いいたします。」
「はいはい、了解。」
甘いものは、ラクスが責任者でやれば大丈夫だろうと、親猫のほうは昼のほうの段取りをする。何日も一緒にやっていると、お互いの力量もわかるから、何も言わなくても配分できる。下ごしらえをしつつ、メイリンの相手も忘れない。白桃が終わったら、次は、ゼラチンを溶かして、そこに水あめと缶詰のシロップを投入して少し煮詰めるように指示する。屑のように小さくなった白桃は、そこに入れて固めるためだ。イザークのほうは、歌姫に頼まれた団子粉をお湯で練って、丸い玉に纏めている。歌姫のほうは、三色の寒天を作り、バットに薄く流し込んで冷ましている。それぞれが、作業しつつ、雑談して笑っているのどかな光景だ。
作品名:こらぼでほすと アッシー6 作家名:篠義