歌う声は作りもの
新宿にある事務所兼住居の一室にある、壊れても構わないパソコンの前に座り、折原臨也は静かに起動させた。
「面白そうだからソフトと情報を交換したけど、さてさて鬼が出るか蛇が出るか...」
鼻歌を歌いながらディスクを入れ、インストールをはじめる。
今回の依頼人がなかなか提示するだけの額を用意することができず、足りない分をこのディスクでとお願いされたのだ。
なんでも世に出る事がない高技術・新技術を駆使して作られた試作品のソフトらしい。珍しいうえに面白そうだと了解したのだったが...
ブチッ
インストールが終わる瞬間、嫌な音をたててパソコンが強制的にシャットダウンした。
「あ~あ、やられたかな?まぁ、いらないパソコンだったし、いっか....ん?」
苦笑しつつも立ち去ろうと腰を少し浮かせた瞬間、今まで真っ暗だった画面が一気に眩しいくらいに光った。
「...っ!」
「...あなたがマスターですか?」
思わず閉じた目をあけると、ディスクトップ画面には前髪は短いが、綺麗な長髪をもった可愛らしい少女がいた。
その少女が臨也と目があった瞬間、満面の笑みを浮かべてきたのだ。
「...君は?」
「私は帝人。歌を歌ってマスターの心を癒す事を目的としたミュージックソフトです」
「ずいぶん高技術だね。パソコン内とはいえ、こうやって普通に会話をすることができ、見た目も人間そのものだ」
「ふふふ。歌うだけでなく話し相手にもなれますよ」
(どうやら当たりだったみたいだな)
「じゃあ、これからいっぱい帝人ちゃんに癒してもらおうかな?」
「はい!マスター!!」
「マスターはやめてね。俺は折原臨也。臨也って呼んで、ね」
「はい、臨也さん」
こうして臨也と帝人の生活がはじまった。
* * *
「帝人ちゃんただいま!もう、最悪だよ!池袋に行ってすぐに静ちゃんに見かかって埃まみれ。何か癒される歌うたってよ~。疲れちゃった~」
「お疲れ様です。じゃあ、いつもの曲を歌いましょうね」
クスクス笑いながら歌いはじめる帝人。
その優しい歌声を聴きながら、臨也は疲労が一気にとれていくのを感じる。
もう帝人がいない生活など想像がつかない程、臨也は帝人にぞっこんで依存していた。
人外を嫌悪しているハズなのに、実際はパソコンソフトである帝人を愛していた。
帝人と過ごす時間がとても大切で何物にも代えがたいものになっていた。
「ありがとう。やっぱり、帝人ちゃんの歌はいいね。大好きだな。まぁ、帝人ちゃん自身は愛しているけどね!!」
「こちらこそありがとうございます。臨也さんにそう言ってもらえるのが一番うれしいです」
(もう人外でもいい。これから先も帝人ちゃん以外を愛することなんてない。帝人ちゃんとの出会いは俺の運命だったんだ)
「ずっと俺のそばにいてね。愛しているよ、帝人ちゃん」
本当の笑みを浮かべて、帝人の頬にあたるパソコン画面を優しく撫でる。
「帝人ちゃん...?」
撫でていると帝人の表情が少しずつくもり、泣き笑いのようなものに変わる。
訝しげに名前を呼ぶ臨也に、帝人は静かに話し始めた。
「...私は所詮試作品なので、もう少しでプログラムが終了をむかえます。でも私の歌だけならば録音することが可能です。好き・愛しているといってくれる臨也さんの事が私も大好きで愛しています。終了前に一つ我儘をいってもいいですか?せめて歌声だけでも臨也さんのそばにいさせてくれませんか?」
「なに...それ。あ...っ!もっといいパソコンに再インストールしてあげるよ!終了を迎える度に新しいパソコンにインストールすればいいじゃない!!」
帝人の告白に茫然としつつも、新しいパソコンを用意すれば、永久的に帝人が傍にいてくれるハズだと勢いよく帝人にたたみ掛ける。
しかし、帝人は悲しそうな笑みを湛えたまま、静かに首を振った。
「ダメなんです。一度使用すると期限末に完璧に消去され、何も入っていないただのディスクに初期化されます」
「そんな...嘘だろう?...期限、期限はいつ?」
「起動から1か月後です」
「1ヶ月?!!...っ!あと1週間しかないじゃないか!!くそっ!!」
頭をフル回転させて良い案を考えるけれども、いつもキレるほどまわる頭もまったくといって良いほど役に立たなかった。
「俺が...俺が帝人ちゃんを完璧なプログラムに作り変えるから!!」
「ありがとうございます。でも無理はしないでください」
「俺が嫌なんだよ!!!」
それから持てる情報・知識を駆使して寝る間を惜しんで、臨也はプログラムについて調べまくったがまったく進展はなかった。
時間ばかりが過ぎ、焦りと苛立ちばかりがつのったが、それを緩和したのは臨也のかたわらで常に聴こえてくる、帝人の優しい歌声だけだった。
そして1週間後。
「臨也さん、私待ってますね。少しお休みなさいです」
「うん。絶対に完璧なプログラムにしてみせるから...それまでお休み...」
パソコン画面を通じて見つめ合う二人は、お互い儚い笑みを浮かべていた。
「「愛して(います)るよ」」
そう言葉を重ねた瞬間、パソコンはブチッと強制的にシャットダウンし、真っ黒の画面になった。その画面に映るのは反射した黒い男の姿のみ...。
「面白そうだからソフトと情報を交換したけど、さてさて鬼が出るか蛇が出るか...」
鼻歌を歌いながらディスクを入れ、インストールをはじめる。
今回の依頼人がなかなか提示するだけの額を用意することができず、足りない分をこのディスクでとお願いされたのだ。
なんでも世に出る事がない高技術・新技術を駆使して作られた試作品のソフトらしい。珍しいうえに面白そうだと了解したのだったが...
ブチッ
インストールが終わる瞬間、嫌な音をたててパソコンが強制的にシャットダウンした。
「あ~あ、やられたかな?まぁ、いらないパソコンだったし、いっか....ん?」
苦笑しつつも立ち去ろうと腰を少し浮かせた瞬間、今まで真っ暗だった画面が一気に眩しいくらいに光った。
「...っ!」
「...あなたがマスターですか?」
思わず閉じた目をあけると、ディスクトップ画面には前髪は短いが、綺麗な長髪をもった可愛らしい少女がいた。
その少女が臨也と目があった瞬間、満面の笑みを浮かべてきたのだ。
「...君は?」
「私は帝人。歌を歌ってマスターの心を癒す事を目的としたミュージックソフトです」
「ずいぶん高技術だね。パソコン内とはいえ、こうやって普通に会話をすることができ、見た目も人間そのものだ」
「ふふふ。歌うだけでなく話し相手にもなれますよ」
(どうやら当たりだったみたいだな)
「じゃあ、これからいっぱい帝人ちゃんに癒してもらおうかな?」
「はい!マスター!!」
「マスターはやめてね。俺は折原臨也。臨也って呼んで、ね」
「はい、臨也さん」
こうして臨也と帝人の生活がはじまった。
* * *
「帝人ちゃんただいま!もう、最悪だよ!池袋に行ってすぐに静ちゃんに見かかって埃まみれ。何か癒される歌うたってよ~。疲れちゃった~」
「お疲れ様です。じゃあ、いつもの曲を歌いましょうね」
クスクス笑いながら歌いはじめる帝人。
その優しい歌声を聴きながら、臨也は疲労が一気にとれていくのを感じる。
もう帝人がいない生活など想像がつかない程、臨也は帝人にぞっこんで依存していた。
人外を嫌悪しているハズなのに、実際はパソコンソフトである帝人を愛していた。
帝人と過ごす時間がとても大切で何物にも代えがたいものになっていた。
「ありがとう。やっぱり、帝人ちゃんの歌はいいね。大好きだな。まぁ、帝人ちゃん自身は愛しているけどね!!」
「こちらこそありがとうございます。臨也さんにそう言ってもらえるのが一番うれしいです」
(もう人外でもいい。これから先も帝人ちゃん以外を愛することなんてない。帝人ちゃんとの出会いは俺の運命だったんだ)
「ずっと俺のそばにいてね。愛しているよ、帝人ちゃん」
本当の笑みを浮かべて、帝人の頬にあたるパソコン画面を優しく撫でる。
「帝人ちゃん...?」
撫でていると帝人の表情が少しずつくもり、泣き笑いのようなものに変わる。
訝しげに名前を呼ぶ臨也に、帝人は静かに話し始めた。
「...私は所詮試作品なので、もう少しでプログラムが終了をむかえます。でも私の歌だけならば録音することが可能です。好き・愛しているといってくれる臨也さんの事が私も大好きで愛しています。終了前に一つ我儘をいってもいいですか?せめて歌声だけでも臨也さんのそばにいさせてくれませんか?」
「なに...それ。あ...っ!もっといいパソコンに再インストールしてあげるよ!終了を迎える度に新しいパソコンにインストールすればいいじゃない!!」
帝人の告白に茫然としつつも、新しいパソコンを用意すれば、永久的に帝人が傍にいてくれるハズだと勢いよく帝人にたたみ掛ける。
しかし、帝人は悲しそうな笑みを湛えたまま、静かに首を振った。
「ダメなんです。一度使用すると期限末に完璧に消去され、何も入っていないただのディスクに初期化されます」
「そんな...嘘だろう?...期限、期限はいつ?」
「起動から1か月後です」
「1ヶ月?!!...っ!あと1週間しかないじゃないか!!くそっ!!」
頭をフル回転させて良い案を考えるけれども、いつもキレるほどまわる頭もまったくといって良いほど役に立たなかった。
「俺が...俺が帝人ちゃんを完璧なプログラムに作り変えるから!!」
「ありがとうございます。でも無理はしないでください」
「俺が嫌なんだよ!!!」
それから持てる情報・知識を駆使して寝る間を惜しんで、臨也はプログラムについて調べまくったがまったく進展はなかった。
時間ばかりが過ぎ、焦りと苛立ちばかりがつのったが、それを緩和したのは臨也のかたわらで常に聴こえてくる、帝人の優しい歌声だけだった。
そして1週間後。
「臨也さん、私待ってますね。少しお休みなさいです」
「うん。絶対に完璧なプログラムにしてみせるから...それまでお休み...」
パソコン画面を通じて見つめ合う二人は、お互い儚い笑みを浮かべていた。
「「愛して(います)るよ」」
そう言葉を重ねた瞬間、パソコンはブチッと強制的にシャットダウンし、真っ黒の画面になった。その画面に映るのは反射した黒い男の姿のみ...。