東方無風伝 1
シュンシュンとヤカンが沸く音で目が覚める。
「……あ?」
此処は?
周囲を見渡す。其処は見知らぬ部屋の中。
暖かなベッドに埋まった身体を起こし部屋を観察する。木造の部屋に様々な雑貨。火が灯されたストーブに、その上の湯が沸いたヤカン。
何より気になるのは、沢山の人形。部屋の雑貨よりも明らかに多い数の人形。和風なもの。洋風なもの。中華風なもの。ロシア風なもの。
一つ手に取って見る。
「……良いのか?」
それは、俺が元居た世界の某ランドの某黒ネズミ。
多分、ネタでも小説的には色々危ない。
「メメタァ」
と、ふと頭に浮かんだ意味の無い言葉を呟いてみる。
あれから、俺が倒れてからどれ程の時間が経ったのか気になり、時計を探してみるが、視界にはそれは映らなかった。
仕方がないから窓から外を見る。空は曇り、冷たく柔らかい氷が降り注いでいた。
……どうやらかなりの時間が経ったようだ。
「あら、起きたのね」
ガチャリと部屋の扉が開き、そこから一人の少女が入ってきた。
金髪にカチューシャ。その顔立ちは人形のように整っている。本人もそれを意識しているのか、その服装も人形のようだった。
「君が、助けてくれたのか?」
「私はただ介抱しただけ。見つけたのは魔理沙よ。感謝するなら魔理沙にしてちょうだい」
そう言い放つ少女。
どうやら俺は、寒さで倒れたところを魔理沙と言う者に拾われ、たまたま近かった少女の家に運ばれたそうだ。
「紹介が遅れたわね。私はアリス。アリス・マーガトロイドよ」
「ん。アリスか。……俺は風間と言う。助けてくれて感謝する」
「さっきも言ったでしょ?感謝するなら魔理沙にしてちょうだい」
「アリス。君も俺を助けてくれた。そのことに変わりは無いだろ?」
「……勝手にしなさい」
何を言っても無駄だと思ったのかアリスはその顔を俺から背ける。
顔が赤くなっているように見えるのは俺の気のせいかね?