東方無風伝 1
そうして、俺は落ちていく。恐らくは異世界へと通じている、隙間と呼ばれている断裂した別空間を。
『隙間』
この空間をあの少女は隙間と呼んでいた。
言い得て妙だな。この空間は、元有った空間を引き裂いているように見えた。
隙間と呼ぶのが今のところベストと思って良いだろう。
轟々と唸りを上げている。びゅうびゅうと悲鳴を上げている。
これは本当に『空間』と呼んで良いものなのか。空間と呼ぶには余りに狭く、一方通行な道となしている。
そう、これは『道』だ。後戻りなんて出来やしない。入り口も出口も無い道。壁とも言える部分には異状で気味の悪い『目』が大量に並んでいる。
一体なんだと言うのだ『これ』は。『目』はぎょろぎょろと忙しなく蠢いている。まるで視るべきモノが見付からないと言うように。
早く抜けたい。そんな焦燥感に駆られる。
急ぐ。気分が悪くなってきた。だが、どんなに急ごうとも景色は一向に変わらない。ずっと同じなのだ。目に入るものが。俺は本当に進んでいるのだろうか。不安がのし掛かる。
だが、何事にも終わりと言うものは存在する。
永遠に続くと思われた道に、光が見えた。
出口だ。そう思った。不安が一気に消え去り、希望が吹き出る。
そして、俺は光へと、外へと、出口へと放たれた。
外に出たと同時に襲ってくるのは安堵感。今なら嬉小便を漏らすことも出来ただろう。無論、そんな見っともないことはやらないが。
出口から出ると、其処は果てしなく広かった。先程までの道とは段違いに。だからこそ、より一層安堵感が増すのだろう。窮屈は人を苛立たせる。
道を出た先、一体何処に通じていたのか、辺りを見渡し確認する。
今まで、一度も見たことが無い景色が広がっていた。
神社が有り、森があり、湖が有り、洋館が有り、楼が有り、大きな村が有り、竹林が有り、屋敷が有り、川が有り、大きな湖の傍にまた神社が有る。
実に雄大で、自然に囲まれた世界だった。