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鉄の棺 石の骸9

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 3.
 
 復活した仲間たちは、それぞれに二度目の死を迎えた。
 パラドックスは、一所に集まった歴代の最強決闘者三人に倒された。一度はペガサスを抹殺できたはずが、相手方に先回りされて阻止された。
 アンチノミーは、二つ目の使命を思い出した。使命のまま不動遊星に敵対し、ブラックホールに巻き込まれて消滅した。
 そして、アポリア。ボロボロな姿で歯向かってきた彼を、今しがたZ-oneは自らの手で葬り去ったところだ。
 彼は、仲間内でも大きな絶望に心を囚われていた人だった。モーメントにもシンクロ召喚にも否定的な立場を取っていた。シンクロ召喚を用いるパラドックスとアンチノミーとは異なり、あえてシンクロを使わず、相手のシンクロモンスターを取り上げる戦法を使っていたくらいだ。
 それほどに、「三つの絶望」はアポリアにとって重大な出来事だったのだろう。
 そんな彼が、チーム・5Dsとの戦いの末に、とうとう彼自身の希望を取り戻した。イリアステルという立場上、何度も何度も不動遊星やチーム・5Dsと戦ってきた彼。彼らとの戦いの積み重ねは、アポリアに心変わりさせるほどの力を呼び起こしたらしい。
 アポリアは、Z-oneに「希望を取り戻して欲しい」と訴えかけた。Z-oneがアンチノミーの記憶を消してまで遊星の元に送りこんだのは何故か、最初の理由を思い出して欲しいのだと。
 希望を取り戻したアポリアを、Z-oneは容赦なく葬り去った。それも、彼に大きな絶望を与える方法で。
 しかし、それでもアポリアに宿った希望が失われることはなかった。
「繋がったのだな……未来への、希望は……」
 Z-oneの目の前で、アポリアは機能を停止してしまった。最後の希望として、遊星のD-ホイールに飛行能力を与えて。
 遊星たちの前にどこまでも立ちふさがり続けた彼の、最初で最後の彼らへのプレゼントだった。
 チーム・5Dsの小さな男の子が、涙交じりにZ-oneに訴える。
「何でだよ! 何もここまでしなくても! アポリアはお前の仲間だったんだろ!」
「仲間? 何か誤解しているようですね」
 それに、努めて冷酷に答えるZ-one。
「今のアポリアは、私が造り上げた、記憶を持ったコピー。彼やアンチノミーも君たちに関わりすぎ、感化されすぎたようです」
 だから、Z-oneはともかくチーム・5Dsが悲しむべきことではないはずなのだが。
「Z-one! 少なくともブルーノやアポリアは、お前のことを真の友だと思っていた! それを単なるコピーだと切り捨てるのか!」
 遊星は、アポリアのみならず、アンチノミーの件についても相当怒っているらしい。不思議なことを言う人だ、とZ-oneは思った。
 敵方と味方、遊星への関わり方に違いはあった。だが、元を正せば、両者ともZ-oneの仲間で遊星の敵になるべき者だ。
 そんな彼らについて、何故遊星が怒り悲しまなければならないのだろうか。

――彼らは確かに、私の仲間のコピーでした。
――私自ら相応しい身体を作り、生前の人格と記憶そのままを与えました。
――私が孤独の中で生み出した、大切な仲間たちのコピーです。

――だから、どうか教えてください。
――私には分からないのです。
――何が、「彼ら」にそうさせたというのですか?


 チーム・5Dsの思いとシティの命運は、全て不動遊星に託された。
 Z-oneの白いホイールに続き、一羽の紅い鳥と化した遊星のD-ホイールが、空へと飛び立った。
 今まで彼が踏み込めなかったシティ上空というフィールドで、懸命に羽ばたきながら、Z-oneの後を追う。その様子を遊星の仲間や、シティの人間たちが見守っている。 
 Z-oneは、「不動遊星」の人格データを自らと連動させ、決闘に挑んだ。決闘の戦略が息をするより自然にZ-oneの頭に思い浮かび、カードの説明や宣言が、Z-oneの口から流れるように飛び出していく。
 一部とはいえ情報アドバンテージを得た成果は、遊星にとっては大きい。そのまま挑めば、確実にアポリアと同じ結末になっていた彼は、情報を得てから短時間で時械神に対抗する手段を編み出した。
 ブラック・ローズ・ドラゴンの破壊効果を逆手に取った戦略は、Z-oneに確実な大ダメージを与えてきた。Z-oneは、ホイールごと吹き飛ばされてビルの遺跡に突っ込む。
 不可能と思われたZ-oneへの反撃に、避難中のシティ住民から歓声が上がる。希望を含んだ遊星コールが、あちらこちらからこだまする。
《不動遊星! 君こそが、ネオドミノシティの救世主だ!》
 途中から何故か決闘に加わった実況アナウンスが、遊星の快挙を煽るように叫んだ。
 救世主。そう、不動遊星はいつだって救世主なのだ。
 Z-oneのいた未来でも。……この時代のこの瞬間においても。
 救世主。そう、
「……救世主ですか?」
 Z-oneの口から、おかしげな笑いと一緒に皮肉めいた言葉が飛び出した。これは「どちら側」が投げかけた言葉なのか、心の有り様がごた混ぜすぎてZ-oneには自分でもよく分からなくなった。
 パキパキと、何かにヒビが入る音が聞こえた。Z-oneに取り付けられていた鉄の仮面が、アーククレイドルのビル遺跡にぶつかった衝撃で壊れてしまったのだ。フライング・ホイールは衝撃に備えて頑丈に作ってはあるが、仮面の耐久度はそれほどでもない。
 仮面は更に音を立てながら、左半分に大きくヒビを走らせる。とうとうヒビは仮面を砕き、Z-oneの顔を表に曝け出してしまった。
 Z-oneの顔の左半分、特徴的なマーカーと青い瞳の見える個所が、誰の目にも明らかにされる。

 Z-oneが閉じこもっていた鉄の棺は、たった今暴かれたのだ。
 他の誰の手でもなく、不動遊星自身の手で。

 久しぶりに顔に当たる外の風の向こう側。遊星が愕然としているのが、Z-oneからも見て取れた。


(END)


2011/3/10
作品名:鉄の棺 石の骸9 作家名:うるら