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鉄の棺 石の骸9

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 2.

 試行錯誤を重ねながらも、自分の満足するレベルのコピーがようやく完成した。
 右利きの人間をコピーしたら左利きになっていたという予想外の出来事もあったが、それを除けばかつての仲間そのもののコピーができたのだ。
 長かった。ここまで来るのに何度挫けそうになったことか。
 コピー制作中に見た夢など、酷いものだった。身の回りの家電製品に、何故か仲間たちの人格データがコピーされてしまっているという酷い夢だ。
 仲間の声で洗濯機に『洗濯は任せろ』なんて言われた時には、思わずスリープを解いて(人間で言うなら飛び起きて)、コピー途中のロボットを急いで確認しに行ったくらいだ。
 この世にたった一人という現実は、想像よりも相当精神に来ていたらしい。仲間が蘇るならば、もうこんな姿でもいいかと一瞬でも思ってしまう程度には。
 だから、仲間のコピーが完成した時、Z-oneの喜びもひとしおだった。
 これで、もう自分は一人ではないのだ、と。

『Z-one』
 三人は三様にZ-oneを呼ぶ。
 三人とも若返ってはいるが、呼びかけ方や込められた思いは、Z-oneの記憶そのままだ。
 死んでしまった大好きな仲間たちが、Z-oneのいるこの世に戻って来たのだ。

「もっと私を呼んで……お願い、もっと……」

 自分のものではない声で呼びかけられる。
 一人になって狂いそうだった心が、彼らの声だけで鎮まっていくのが分かる。
 願わくば、このままずっと四人で過ごしたかった。使命も何もせず、時間が許す限り永遠に。
 しかし、Z-oneたちには、過去を変えて現在を救済する大事な使命がある。一時の私情に流されて、仲間たちの最期の思いを無駄にする訳にはいかない。仲間がコピーロボットになってまでこの世に舞い戻って来たのは、果たしきれなかった使命を全うする為なのだから。
 Z-oneは、仲間を一人ずつ順番に過去に送り出していった。最初にパラドックス。次にアンチノミー、最後にアポリアの分身体、三皇帝を。
 三皇帝を送り出した後、Z-oneは再び長期のスリープに入った。今度からのスリープはかなり長くなる。過去に送った仲間から時間改変などの要請でもない限り、Z-oneは延々とスリープし続ける。邪魔が入らなければ、それこそ年単位になってしまうだろう。
 もったいぶった理由をつけては、延々とスリープを繰り返す。その本当の理由については、Z-oneはあえて知らない振りをしていた。
 スリープ中の殻の中では、発作の時と同じような記憶の騒乱が嵐のように巻き起こる。これまでと違うのは、嵐の間に飛んでくる人格データの破片をこの手で受け止めようとしていることだった。
 データの破片を受け止める度に、破片に宿る記憶がZ-oneの中で再生される。
 Z-oneの知っている記憶。知っているが捨ててしまった記憶。Z-oneのものではない、「彼」の記憶……。
 かつてZ-oneや仲間を傷つけ苦しめてきた記憶は、殻の中で夢のように再生されてはZ-oneに取り込まれていく。


 仲間たちを送り出して以降、Z-oneが迎え入れでもしなければ、このアーククレイドルにZ-one以外の人間が入って来ることはまずない。
 唯一の例外が、不動遊星が《Z-ONE》のカードの力でアーククレイドルにまで転送された時のことだ。
 まさか、あの時点であの時代の不動遊星がアーククレイドルに入り込むとは思いもしなかった。しかも、お供にアンチノミーとシェリーまで連れて。
 出会った時にスキャンした遊星のデータを検分し直しながら、Z-oneはため息をついた。
 アンチノミーが遊星たちに無事近づけたことは、三皇帝経由で伝わってきた情報から分かっていた。だが、まさか「アクセルシンクロ」の使命まで忘れ去ってしまっていたとは。情報がなかなか伝わらなかったのはそのせいか。
 遊星に関係を疑われる危険性を冒してでも、三皇帝にアンチノミーの顔くらいは教えておくべきだったか。三皇帝、と言うよりアポリアは、元々アンチノミーの若き日の姿を知らないのだ。
「――時期が来たら、こちらから呼びかけることにしましょうか?」
 遊星を守るという彼の任務は、彼自身が遊星の仲間となることで確実に果たされている。後は、使命を思い出させるタイミングだけだ。
 それさえ果たせば、アンチノミーも使命がやりやすくなるだろう。存在に理由ができれば、行動に不安がついて回らない分結構違ってくる。

 本当は、もっとゆっくり計画を実行したかった。
 現在の不動遊星を始めとするこの世界の人々に、モーメントとシンクロ召喚の危険性を訴える。彼らがZ-oneの警告を聞き入れてくれたなら、Z-oneが経験したよりも早い段階で、時間の枝の方向を変えることができる。破滅の瞬間から人類を逃れさせることができるのだ。
 だが、Z-oneには悠長に計画を実施する時間は、既に残されていなかった。
 Z-one自体の寿命が、すぐ傍まで忍び寄っていたのだ。
 寿命問題は、スリープしてまで知らない振りをしていたつもりだった。だが、時折生命維持装置が止まりそうになるこのごろ、もう見て見ぬ振りはできなくなった。本来なら仲間と同じ時期に死んでいたはずの人間なのだ、Z-oneは。
 生命維持装置の働きが弱まるたびに、今まで従順にしていたZ-oneの身体が、ところどころ反乱を起こし始める。細胞が壊死を始め、内臓が不愉快に波打ち、血の巡りが滞っていく。この反乱にZ-oneが制圧されてしまうのも時間の問題だ。
 散々迷った挙句、Z-oneはアーククレイドル落としを計画のメインに据えることにした。
 アーククレイドルをネオドミノシティにぶつけ、シティを地球上から抹殺する。シティの巻き添えを食う人間も出るだろうが、計画の為なら仕方がない。Z-oneとしてはその日の避難誘導の手際がいいことを願う他ない。
 計画の方向性が定まった後も、Z-oneはずっと迷い続けていた。
――このままシティを滅ぼしてしまっていいのか。それよりも、遊星たちの可能性に全てを賭けるべきではないのか、と。 

作品名:鉄の棺 石の骸9 作家名:うるら