こらぼでほすと アッシー7
歌姫の休暇も終わり、仕事に戻った。キラたちも、そろそろ店のほうが忙しくなったので、別荘からは帰ってしまった。それでも、なんだかんだと誰かがやってくるので、ロックオンのほうは余計なことを考える暇というのはない。
「迎えに来たよーママ。」
週末に現れたのは、悟空で、ドクターからの許可は貰ったから、と、やってきた。寺へ帰れるほどに回復したのか、と、大喜びで戻ったら、寺にはトダカも待っていた。
「ただいま戻りました。・・・あれ? 」
「おかえり、ロックオン。」
一端、旦那に顔を見せておかないと、拗ねるだろ? と、トダカは笑っている。三蔵のほうは、いつも通り、こたつで寝転がって、片手を振っただけだ。
「三蔵さん、ご迷惑をおかけしました。」
「別に迷惑はかかっちゃいねぇーが、酒が不味くなることはやめろ。」
「はい。」
「年明けから、うちには帰って来い。それまで、お里でのんびりしてるといい。サルが寂しがるから、年末までに遊びには来いよ? 」
「ええ、そうさせてもらいます。・・・悟空、おやつ作ろうか? 」
「うんっっ、オムライスしてっっ。」
久しぶりだぁーと、悟空はワキョワキョと踊っている。何ヶ月も留守にしていたから、それを見ると申し訳ない気分になる。ロックオンにとって、悟空は、すでに子猫と同じ扱いだ。
「三蔵さん、今夜は、こっちで食べて帰るよ。何がいい? 買い物してくるから。」
「鍋でいいだろ。サル、おまえ、荷物持ちして来い。」
「オッケーッッ。ママは、その間、ゆっくりしてなよ。俺が準備するからさ。」
「いや、俺も一緒に行くよ、悟空。長いこと外へ出てないから行きたいんだ。」
「ダメダメ、ナマケモノモードでないと、また、ドクターがキレるぜ? ママ。」
冷蔵庫を開けて、材料を吟味しつつ、そう言ったら、悟空に叱られた。ドクターから、悟空にも指示は出ている。なるべく動き回らないように牽制しておいて欲しいと言われているから、悟空も止める。すぐに、刹那が戻ってくるから、そうなったら、元気になる。それまで、ダウンさせるわけにはいかない。
フライパンを取り出して火にかけている親猫は苦笑しつつ、「わかったよ。」と、笑顔で怒鳴りつつ調理を開始している。
おやつを食べると、トダカと悟空は外出した。そこから、三蔵と二人で、こたつに入っている。寝転んでいた坊主は、起き上がってタバコに火をつける。
「お茶。」
「はい。」
これといって、改まって話すこともないから、テレビの音だけだ。自分の分も淹れて、ずずっと飲んだら、ほっとした。何ヶ月も居座っているから、ここが自宅という感覚であるらしい。
「あんまり考え込むな。おまえの悪い癖だ。」
「そうですね。」
スパーッと紫煙を吐き出して三蔵も苦笑する。随分、馴染んだ姿が、ここにあるのは、三蔵だってほっとするものだ。
「年明けしたら、またサルの弁当を作ってだな。」
「はいはい。」
「うちで専業主婦でもやってりゃあいい。悟空が寂しがってたぞ。」
「ええ。」
「ちびが帰ってくるんだろ? 」
「そろそろらしいです。」
「叱るなよ? おまえのために言わないで呑み込んでたんだからな。」
「わかってますよ。」
「トダカさんも心配してたから、お里で、せいぜい親孝行もしとけ。あの人、本当に、おまえのことを娘だと思い込んでるからな。俺にまで、無茶な扱いはするな、と、注意しやがった。」
「すいませんね。デキの悪い女房で。」
「まったくだ。ちょこまかと動いて軟禁されるようなヘマするな。こっちにだって都合ってもんがあるんだ。」
「クリーニングが溜まってます? 」
「ああ、溜まってるぞ。年末は、黒袈裟だからいいが、戻ったら整理してくれ。それと、悟空の靴下に穴が空いてるからな。あれもだ。」
「はいはい。とりあえず、溜めといてください。戻ったらやりますから。」
このぽつぽつとした会話を誰かが聞いていたら、どこの熟年夫婦? と、すかさずツッコミが入っただろう。生憎と、寺に侵入者はいなかった。
「子供がたくさん居て忙しいんだから、余計なことは忘れていろ。今のところ、それは考えても埒があく話じゃない。」
「・・・はい・・・」
「ちょっと横になれ。」
「いや、それほどじゃあ。」
「亭主の命令を拒否するつもりか? ああ?」
ぴきっと亭主のこめかみが動いているので、逆らわずに、女房のほうは横になる。自分の着ていた半纏を肩にかけてやるぐらいの優しさは、坊主にもあるらしい。テレビでは、マラソンの中継をやっている。そのアナウンサーの声だけが聞こえる。こたつというのは、なかなか良い塩梅の暖房器具だと感心する。程よく足元を温めてくれる。
「娘が増えましたよ、三蔵さん。」
「おお、よかったじゃねぇーか。」
それが誰だか、坊主は尋ねなかった。相手が、自分の最も苦手とする暗黒妖怪だとわかったら拒否していたに違いない。
しばらくすると、すうっという寝息が聞こえた。移動で、午睡していない女房は眠ったらしい。風邪をひかせたら大変だから、ぶすぶすっと文句を吐きつつも、客間から毛布を運んできて、三蔵が、その肩にかけていた半纏を引き取って着直した。
「これで、女なら文句ないんだがなあ。」
よく気のつく家事万能な女房なのだが、唯一の欠点は、男だというところだ。昨年の夏に滞在していた時より、明らかにやつれている。年々回復が遅くなると、三蔵も聞いている。一人にしておくと碌な事がないので、こちらに、なるべく滞在させるつもりだ。坊主としては、便利で気の利く家政夫を獲得できるわけだから、否はない。
ここで、年少組に囲まれていれば少しは気も紛れる。別に前を向いていろなんて、坊主は言わない。目の前に茫洋と広がるものを眺めていればいい。全部が終われば、その景色の中に子猫たちが現れるはずだからだ。後ろさえ向かなければ、それでいい。
クリスマス一週間前辺りから、店は繁盛しはじめる。まずは、八戒の施術への予約が殺到する。こうなると、バックヤードの経理の仕事まで手が回らない。いつもは、悟浄が手伝うところだが、今回は、親猫に、その仕事が回された。一人で家に置いておくより、店のほうが目が届くからだ。
「わからないところは、仮の科目を入力しておいてください。後で直します。うちの宿六が、なるべくフォローすると思いますから根は詰めないように。」
ひとまず簡単なレクチャーをして、八戒がパソコンと書類を渡す。毎日の動きを入力するだけなら、それほどの仕事量にはならない。ただ、忙しくて何日か溜まっていたから、そこから処理を頼んだ。
「それと、申し訳ないんですが軽食の用意もお願いします。多めに用意してください。みなさん、適当に摘みますんで。」
「なんでもいいんですか? 」
「ええ、適当で結構です。もし、足りなかったら、そこのコンビニで、おでんでも調達してください。」
これが、それのお金です、と、おやつ専用の財布も渡された。バックヤードの調理担当の爾燕も、さすがに忙しくて、そこまで手が回らない。面倒になったら、近くのマクドやケンタが、どっかり並んでいる日だってあるのだ。
「迎えに来たよーママ。」
週末に現れたのは、悟空で、ドクターからの許可は貰ったから、と、やってきた。寺へ帰れるほどに回復したのか、と、大喜びで戻ったら、寺にはトダカも待っていた。
「ただいま戻りました。・・・あれ? 」
「おかえり、ロックオン。」
一端、旦那に顔を見せておかないと、拗ねるだろ? と、トダカは笑っている。三蔵のほうは、いつも通り、こたつで寝転がって、片手を振っただけだ。
「三蔵さん、ご迷惑をおかけしました。」
「別に迷惑はかかっちゃいねぇーが、酒が不味くなることはやめろ。」
「はい。」
「年明けから、うちには帰って来い。それまで、お里でのんびりしてるといい。サルが寂しがるから、年末までに遊びには来いよ? 」
「ええ、そうさせてもらいます。・・・悟空、おやつ作ろうか? 」
「うんっっ、オムライスしてっっ。」
久しぶりだぁーと、悟空はワキョワキョと踊っている。何ヶ月も留守にしていたから、それを見ると申し訳ない気分になる。ロックオンにとって、悟空は、すでに子猫と同じ扱いだ。
「三蔵さん、今夜は、こっちで食べて帰るよ。何がいい? 買い物してくるから。」
「鍋でいいだろ。サル、おまえ、荷物持ちして来い。」
「オッケーッッ。ママは、その間、ゆっくりしてなよ。俺が準備するからさ。」
「いや、俺も一緒に行くよ、悟空。長いこと外へ出てないから行きたいんだ。」
「ダメダメ、ナマケモノモードでないと、また、ドクターがキレるぜ? ママ。」
冷蔵庫を開けて、材料を吟味しつつ、そう言ったら、悟空に叱られた。ドクターから、悟空にも指示は出ている。なるべく動き回らないように牽制しておいて欲しいと言われているから、悟空も止める。すぐに、刹那が戻ってくるから、そうなったら、元気になる。それまで、ダウンさせるわけにはいかない。
フライパンを取り出して火にかけている親猫は苦笑しつつ、「わかったよ。」と、笑顔で怒鳴りつつ調理を開始している。
おやつを食べると、トダカと悟空は外出した。そこから、三蔵と二人で、こたつに入っている。寝転んでいた坊主は、起き上がってタバコに火をつける。
「お茶。」
「はい。」
これといって、改まって話すこともないから、テレビの音だけだ。自分の分も淹れて、ずずっと飲んだら、ほっとした。何ヶ月も居座っているから、ここが自宅という感覚であるらしい。
「あんまり考え込むな。おまえの悪い癖だ。」
「そうですね。」
スパーッと紫煙を吐き出して三蔵も苦笑する。随分、馴染んだ姿が、ここにあるのは、三蔵だってほっとするものだ。
「年明けしたら、またサルの弁当を作ってだな。」
「はいはい。」
「うちで専業主婦でもやってりゃあいい。悟空が寂しがってたぞ。」
「ええ。」
「ちびが帰ってくるんだろ? 」
「そろそろらしいです。」
「叱るなよ? おまえのために言わないで呑み込んでたんだからな。」
「わかってますよ。」
「トダカさんも心配してたから、お里で、せいぜい親孝行もしとけ。あの人、本当に、おまえのことを娘だと思い込んでるからな。俺にまで、無茶な扱いはするな、と、注意しやがった。」
「すいませんね。デキの悪い女房で。」
「まったくだ。ちょこまかと動いて軟禁されるようなヘマするな。こっちにだって都合ってもんがあるんだ。」
「クリーニングが溜まってます? 」
「ああ、溜まってるぞ。年末は、黒袈裟だからいいが、戻ったら整理してくれ。それと、悟空の靴下に穴が空いてるからな。あれもだ。」
「はいはい。とりあえず、溜めといてください。戻ったらやりますから。」
このぽつぽつとした会話を誰かが聞いていたら、どこの熟年夫婦? と、すかさずツッコミが入っただろう。生憎と、寺に侵入者はいなかった。
「子供がたくさん居て忙しいんだから、余計なことは忘れていろ。今のところ、それは考えても埒があく話じゃない。」
「・・・はい・・・」
「ちょっと横になれ。」
「いや、それほどじゃあ。」
「亭主の命令を拒否するつもりか? ああ?」
ぴきっと亭主のこめかみが動いているので、逆らわずに、女房のほうは横になる。自分の着ていた半纏を肩にかけてやるぐらいの優しさは、坊主にもあるらしい。テレビでは、マラソンの中継をやっている。そのアナウンサーの声だけが聞こえる。こたつというのは、なかなか良い塩梅の暖房器具だと感心する。程よく足元を温めてくれる。
「娘が増えましたよ、三蔵さん。」
「おお、よかったじゃねぇーか。」
それが誰だか、坊主は尋ねなかった。相手が、自分の最も苦手とする暗黒妖怪だとわかったら拒否していたに違いない。
しばらくすると、すうっという寝息が聞こえた。移動で、午睡していない女房は眠ったらしい。風邪をひかせたら大変だから、ぶすぶすっと文句を吐きつつも、客間から毛布を運んできて、三蔵が、その肩にかけていた半纏を引き取って着直した。
「これで、女なら文句ないんだがなあ。」
よく気のつく家事万能な女房なのだが、唯一の欠点は、男だというところだ。昨年の夏に滞在していた時より、明らかにやつれている。年々回復が遅くなると、三蔵も聞いている。一人にしておくと碌な事がないので、こちらに、なるべく滞在させるつもりだ。坊主としては、便利で気の利く家政夫を獲得できるわけだから、否はない。
ここで、年少組に囲まれていれば少しは気も紛れる。別に前を向いていろなんて、坊主は言わない。目の前に茫洋と広がるものを眺めていればいい。全部が終われば、その景色の中に子猫たちが現れるはずだからだ。後ろさえ向かなければ、それでいい。
クリスマス一週間前辺りから、店は繁盛しはじめる。まずは、八戒の施術への予約が殺到する。こうなると、バックヤードの経理の仕事まで手が回らない。いつもは、悟浄が手伝うところだが、今回は、親猫に、その仕事が回された。一人で家に置いておくより、店のほうが目が届くからだ。
「わからないところは、仮の科目を入力しておいてください。後で直します。うちの宿六が、なるべくフォローすると思いますから根は詰めないように。」
ひとまず簡単なレクチャーをして、八戒がパソコンと書類を渡す。毎日の動きを入力するだけなら、それほどの仕事量にはならない。ただ、忙しくて何日か溜まっていたから、そこから処理を頼んだ。
「それと、申し訳ないんですが軽食の用意もお願いします。多めに用意してください。みなさん、適当に摘みますんで。」
「なんでもいいんですか? 」
「ええ、適当で結構です。もし、足りなかったら、そこのコンビニで、おでんでも調達してください。」
これが、それのお金です、と、おやつ専用の財布も渡された。バックヤードの調理担当の爾燕も、さすがに忙しくて、そこまで手が回らない。面倒になったら、近くのマクドやケンタが、どっかり並んでいる日だってあるのだ。
作品名:こらぼでほすと アッシー7 作家名:篠義