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こた@ついった
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二月の恋人

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 赤い花束、メッセージカード、ケーキ、チョコレート、ハグ、キス・・・何十年も毎年この日が近付くと今年は何にしようか、と悩む。
 ある年、日本に勧められ手作りのチョコレートをプレゼントし、それから数年間、毎年違う種類のものを作った。またある年は何日もかけて絵を描いた。今まで一度も同じものを送ったことはなかったのだ。毎年変わらないものもあった。


 頭の中でリフレインし続ける「メタモルポーセース」が最初の二月十四日を思い出させた。あの時もらった、変わった形の指輪は結局つけられなかったが、今でも大事に仕舞ってある。
「やがて彼女は草花に変化してしまいました」
 ソファに埋もれたまま、特に何の考えも無く神話の一節を口にした。
 ヘリオトロープ。
 なんて哀しい切ない花なのだろう。「永遠の愛」という花言葉を持つその花は弱々しくとても小さいが、しかし紫という熾烈でも冷淡でもないひたむきで一途な色をして美しく咲くその様は強壮な輝きをはなっている。愛や恋といった言葉の似合う花だ。
 ヘリオトロープはあの日以来もらっていない。彼は、ドイツは毎年綺麗なカードにメッセージを書いて手製の菓子と一緒に包んだものを、イタリアが渡した次に照れたような顔で取り出す。その瞬間が大好きで、イタリアはいつもプレゼントを手に微笑んでキスをねだった。
「愛していて、愛されていて。お二人はとても幸せそうに見えます」
 何かと協力してくれる日本にそう言われた。その日は日本の誕生日で、ドイツも駆けつけていた。後三日で十四日がくるというのを意識してか、目が合う度にくすぐったいような気持ちになった。まるでラズベリーみたいだ、とイタリアは甘酸っぱい味を連想させる恋を思って笑った。ヘリオトロープの様に健気でラズベリーのように純な恋、とは素敵な響きだ。
「ラズベリーか〜。・・・っ!」
 イタリアの中で星がキラリと煌いた。
「ラズベリーチョコ!」


  *  *  *  *  *  *  


 今年は何を作ろうか。執務室で、ドイツは上等なペンを走らせながら考えていた。
 仕事中に私情にふけるなど自分らしくない、そうは思ってもこの日だけは止められそうになかった。それも全てあいつが悪い。包装された箱を受け取ったときの、イタリアの今にも泣き出しそうな「ハグして」と言った声色、胸がいっぱいになる、優しすぎる微笑み。どうしようもない恋慕にドイツは、切ないくらいの愛しさを感じる。本当に、ほんとのほんとに、イタリアは自分を好きでいてくれている。イタリアの心が自分に向いている。そう思わずにはいられない。だから、毎年、こうして熟慮してしまうのだろう。あの微笑みをみたいから。
「我侭な男だな、俺は」
 コトリ、とペンを机に置き、ドイツは自嘲気味に笑った。何を作るかは既に決まっていた。
 花を使ったリースだ。相変わらずプレゼントに関しては女々しいと思ったが、受け取った際のイタリアの笑顔が浮かび、それに決定した。
 一番最初の二月十四日とその後の一週間、そしてイタリアに渡した花を思い出した。あの時は今の「恋人」という関係には至っておらず、あの一週間は夢のように思えた。思い出すと気恥ずかしくなって記憶の缶に蓋を閉めたくなってしまう。しかし今思うと、あの一週間があったからこそ、恋仲になれたのかもしれない。きっかけ、だったのだ、きっと。そうドイツは考え、徐に腰を上げた。
 数時間座り続けていたオフィスチェアから立ち上がると、ドイツは執務室を出ようとしたが、本棚におさまる一冊の本に足を止められた。
 それはギリシア神話の本で、イタリアの気に入りのものだ。
 あのとき渡した花、というのはこの神話に出てくるヘリオトロープの花で、その花言葉を知ったときは思い切り赤面した。渡した当時は知らなかったのだ。もし無意識のうちに「永遠の愛」を捧げていた、と思うとおもはゆい反面、ずっとイタリアに思い焦がれていたのだ、と花を渡せてよかったと思う。
 二月十四日は迫ってきている。自分の持ちうる彼への想いを全てリースに詰め込められればいいのにな、とドイツは神話の本を棚に戻しながら眉根を寄せた。
 リースに詰め込むには、多すぎる。


  *  *  *  *  *  *  


 ラズベリーを使ったチョコレート菓子といったら・・・イタリアは考えた末、ラズベリーチョコクッキーを作ることに決めた。
 凍ったラズベリーと砂糖、そしてラム酒が小鍋で甘い香りを発している。この二十分のうちに、常にキッチンに補充してあるバターを常温に戻し、薄力粉やココアなどといったクッキーの生地になるものを棚からテキパキと取り出し調理台へ置く。
 普段、イタリアは料理を作るが、菓子はドイツが担当というように、イタリアが菓子を作るのは久しぶりだ。
「ベーキングパウダーは・・・」
 棚を探り、ザラザラとした感触の袋を開けた。
 今月初め頃にドイツが持ってきたものだ。休日になるとドイツはイタリアの家を訪れるが、当然イタリアはシエスタを怠らないものだから、その間ドイツは暇で仕方ない。読書してみたり、勝手に掃除してみたり、一緒になって横になってみたり、と模索し、一年ほど前に菓子作りに定着した。イタリアの家には大抵必要なものは揃っていたが、ドイツの手によって調味料や香辛料アラカルトが減っていくので、その度にドイツは自宅から持ってきたものを補充していた。
 イタリアはキッチンに向かっているドイツの後ろ姿が好きだ。いつも眉間に皺の寄っている厳格なムキムキがお菓子作り。そう思うと自然に頬が緩むのだ。それに、ドイツが菓子作りを趣味にしているのを知っているのは自分だけ。大好きな人の秘密を知っているというのは大きな喜びだ。
「起きたら、第一に服を着ろ、うむ、そうだ。トルテを作ったが、食べるか?」
 甘い香りを纏って、ドイツは寝起きのイタリアに言う。フワフワとした意識の中で、ドイツが差し出してくれる手はいつも優しかった。

「いい匂い〜、余ったらパンに塗って食べよう」
 ジャムになったラズベリーの香りを吸い込み、満足気に笑う。粉類は小皿で一つに合わせたので、次は生地作り。
 鼻歌を歌いながらボウルと木ベラを道具棚から出し、流れるように汁気がなくなったラズベリーの小鍋の火を消す。イタリアの料理はいつもこんな風に、のんびりとしている。
 ボウルの中でバター、砂糖、卵黄が混ぜ合わされ淡黄色になっていた。木ベラでずっと、程よい具合になるまで混ぜるのは腕が疲れるが、嫌ではなかった。バターと卵の濃い匂いに混じって、微かに砂糖の匂いがするのが可愛いと感じたし、砂糖のじょりじょり感が溶けるようになくなっていくのを『変身』みたいだ、とも思う。実際、粉がクッキーに変わるのだから、これは変身なのだ、とよく混ざったボウルの中身を見て考えていた。
 薄力粉やらを合わせたものをボウルにふるいいれると、木ベラは役目を終え、今度はゴムベラで中身を切るように混ぜる。綺麗に纏まってきたら、茶色く『変身』した生地を冷蔵庫で寝かせるのだ。一時間強、イタリアはソファでのんびりと待つ事にした。

「もしも俺達が国とかじゃなくって、人間だったらどんな風に生きていたと思う?」
作品名:二月の恋人 作家名:こた@ついった