二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

非日常は身近にあり

INDEX|3ページ/3ページ|

前のページ
 

 揶揄する口調は疑問形だったが間違いなく断定していた。その通り、と言うしかない。
 どういったところで最後には自分を守るために手をこまねくつもりはない。それゆえの先の事件、事態の終結だった。好奇心もあったことは否定しないが。
 何もかも見透かして、それでいて自分から言葉を引き出そうとしている臨也の姿にひとつ溜息をついて覚悟を決めた。
「……予想、ついてるんでしょう」
「うん。でもね、予想とは違うかもしれないしね。人間は俺の予想通りに動くこともあれば外れることもあるし。だからこそ人が愛しくて愛しくてたまらないんだけどね」
 いつぞやのように人、ラブ!!などと叫ばないだけいいのかと思いながら息をつく。ソファの背もたれに体重をかければ抗議のように軋んだ。申し訳なく思いながらも意を決する。ただし視線は合わせないままに。
「嫌いじゃない、からですよ。臨也さんのこと」
「うーん惜しい。もう一声!」
 ぼそぼそと告げた告白にそんな軽口。どのくちで言いやがると向いた先には、にやにやと軽薄な笑みを浮かべる臨也の姿。正直静雄ではないが怒りで血管が浮きそうだ。
「興味があります好奇心です嫌ってはいません! これでいいですか!!」
「はいそれらを総称すると?」
「――帰ります」
「あははごめん遊び過ぎたよ! じゃあ俺から言おうか。『貴方に惹かれているからです』! どーお? 正解?」
 にやり、と笑みを浮かべる臨也を心底殴りたいと思う。だが現実問題、帝人が殴りかかったところでたやすく返り討ちに逢うだろう。むしろ遊ばれる公算が高い。
 怒りをなんとかおしこめて、帝人は臨也をきっと睨む。抑えきれない衝動が目に現れているのだろう。にやにやと笑みを零す臨也が心底憎たらしい。
「あはは怖いな! でもさ、同居に了承するくらいは俺に興味があるってことだよね」
「……今はすぐさま帰ろうと思ってますけど」
「だーめ。逃がさない。ってか逃げられないでしょ」
 逃げ道を全て潰したように臨也が笑う。ああ、そうだろう。この場に来た時点でそれはもはや確定になっているのだろうと、怒りが冷めやらぬ頭で思う。しかしここまで言われたら逃げたくなるのもまた人情だと思わなくもない。
 物騒な方へと傾く思考を嘲笑うように、臨也はにやりと口の端を上げた。「いい忘れてたんだけどさぁ」と、わざとらしく前置きして。
「君のことはひろみさんからも頼まれてるし、帰すわけにはいかないんだよね」
 まあ強行突破しようとも俺は全然かまわないけど。
 続けられた言葉ではなく、口に上った名前に帝人は怒りも吹き飛んだ頭で愕然とした。
「…………なんで、母さんの名前」
「そりゃ本人から頼まれたから」
 さらりと流す臨也に混乱はますます深まる。臨也ならば帝人の個人情報くらい手に入れていてもおかしくないが、それにしたってなぜ、実家の母と連絡を取り合う必要がある?
 楽しく観察していた臨也は、帝人が混乱の極致に到達しようかというところで「はいはい、そこまで」と肩を引き寄せた。
 バランスを崩し、ソファに、というより臨也の膝の上に頭を置く形、俗に言う膝枕になって慌てるが、起き上がろうとするのを抑え込まれる。文句を言おうかと思うが、それら全てを封殺するように覗き込んだ臨也の目が愉悦と期待に輝いているのに気圧される。
 息を呑む帝人の頭上で、彼は楽しそうに告げた。

「昔はお兄ちゃんって慕ってくれてたのに。もう忘れたの?」

 たっぷり三拍の沈黙の後、帝人の脳が正常に臨也の発言を受け止め、理解した瞬間口から出たのはありきたりな疑問の声でしかなかった。
「…………お、おにいちゃん?」
「そう。昔はよく遊んであげたもんだけど」
「ま、まさか」
 脳裏に過ぎるのは幼稚園や小学校低学年の頃の自分の姿。あの頃、自宅には親戚の一家が時折遊びに来ていた。その家の年の離れた長男に遊んでもらった覚えは、ある。
 まさかまさかまさか。青ざめる帝人とは反対に、臨也はこれ以上なく美しく上機嫌に微笑んだ。

「いざ、にい?」
「正解」

 震えた声で問いかければ、よくできましたと顕わになった額に口づけられる。額に触れた感触に懐かしいような感覚が蘇って今度こそ眩暈がした。回った視界の中で男が愉しそうに笑っている。
 これから暫くよろしくね、みーくん。
 幼いころの愛称で囁く臨也にこれからの波乱を思って帝人は深く息を吐いた。とりあえずは正臣への説明が大変だ、とさしあたっての大問題を思いやって。
 
 
作品名:非日常は身近にあり 作家名:ひな