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非日常は身近にあり

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 臨也がこう言うからには、帝人も知っている人間ということだ。誰だろう。頭の中に池袋で出会った人たちがぐるぐると回る。
 セルティに新羅に門田たち。帝人が出会った中でも年上と思える人たちの顔が思い浮かぶが、結局相手はわからない。考えているうちに混乱してくる。
 そんな帝人に含み笑いを零して、臨也は急に立ち止まった。池袋の外れ、住宅地が立ち並ぶ一角に聳え立つマンション。周囲には同じような建物もあり、それはさして珍しいものではない、のだが。
「……豪華、じゃないですか、これ……」
「そう? これくらいのセキュリティは普通でしょ」
 さらりと流して手を引かれる臨也のなすがままに、帝人は唖然としながらエントランスに入る。扉の横にあるキーで臨也が暗証番号を押すと自動で開き、エレベーターもあるがそれもまた解除コードが必要だった。帝人からしてみれば場違いなほどの危機管理だ。
「なんだか腑に落ちないって顔してるけど、むしろ君のアパートの方がありえないから」
 そう言われればぐうの音も出ない。帝人とてあのアパートが最低辺なことは自覚している。それでも選んだのは自分だし、後悔はしていないがここまであからさまに呆れられると流石に羞恥がこみ上げる。
 なにも言えずに詰まっているとエレベーターが到着を告げた。足取りも軽く機嫌も良く、臨也は軽いステップを踏みながらエレベーターを降りる。当然、帝人の手は掴まれたままだから一緒に。
「だぁいじょうぶだって」
 まるで幼子を宥めるような声。猫撫で声と言うのはこういうのなんだろうな、なんて逃避めいたことを帝人は思う。
「そんなに心配することはなんにもないよ? 衣食住、ほぼ全てが保証されて対価はちゃんとある。これに何を不安がるのさ?」
「あまりにもローリスクハイリターンだからですよ。もちろん、臨也さんの言葉が全てだったとしたら、ですけど」
「言うなあ帝人くん。でもそのくらいの警戒心は持ってた方がいいけどね」
 くくっと喉の奥で笑い、臨也は廊下を進む。カツカツと小気味よく靴の音が反響する。白を基調とした廊下は整然としており、塵一つない。このレベルのマンションだ、清掃業者も入っているんだろうと思いを巡らせながら歩いていると、手を引いていた臨也が止まる。
「はい到着。ここだよ」
 懐から出したカードキーで解錠。当たり前だが何故臨也がこの部屋の鍵を持っているんだろう。今更ながらに浮かんだ疑問は顔にも出ていたのだろう。「なんで俺がこの部屋の鍵、持ってるかって?」面白そうに呟いた臨也の瞳が愉悦と歓喜に輝いた。
「言ってもいいけどさぁ、廊下で立ち話もなんだし、中入ってからね」
 入った入ったと押されるがままに足を進めれば、まるでモデルルームのような室内がそこにはある。デザイナーズマンションとでも言うのかとうろ覚えの知識を脳内でめくれば、そんなことに一切興味を持たないだろう臨也はさっさとリビングのソファに腰を下ろした。
 完璧にくつろぎの態勢に入った臨也に呆れながら、ひょいひょいと手招かれるままに帝人も彼の横に落ち着く。
「じゃあ、聞かせてください。なんで臨也さんがここの鍵持ってるんですか」
「早速だなぁ。ま、いいか。それは簡単」
 くす、と笑って臨也は面白そうに目を細めた。
「俺が自分の部屋の鍵を持ってても、なんら不思議じゃないだろう」
 さも当然と告げられた言葉に、帝人もまた頷く。が、首を傾げた。
「それは分かりました。でもなんで臨也さんのマンションに、僕は連れ込まれてるんでしょう」
 心底不可解だ。これが正臣やセルティと言った面々ならまだ分かるが相手は臨也だ。
 新宿の情報屋はそれこそ忙しいはずだ。まあ、池袋で天敵の喧嘩人形と戦争している光景も多々あるのだが、基本的には多忙のはずだ。それなのに一介の高校生にここまで何故構うのか。ダラーズの創始者だから? いや、それだとしてもネットでだって会話しているし。確かに秘密を共有しているという意味では多少親しい間柄だが。
「手元に置いておきたいからですか?」
 裏表なく純粋な疑問で問いかけた内容に臨也は心底呆れたとばかりに溜息をついて天を仰ぎ、大きく深呼吸したあと、ようやっと帝人に視線を向けた。
「……あのさ、例え冗談としても俺が君を心配して、とか思わないわけ?」
「臨也さんがなんの見返りも無く動くとは思いませんし……そうなると、やっぱり僕がダラーズの創始者だから、とかですか?」
「いや、うん。正直君の動向には興味を持ってるけどさ、今回のはまぁ……それもあるけど別だから。俺だって人を案じることぐらいあるんだよ」
「そうですかすみません。で、賃貸料は如何ほどですか?」
 さめざめと嘆く情報屋をばっさりと切り捨てて、帝人は交渉に入る。正直なんやかんや勘ぐるが居場所があることはありがたい。それが例え臨也だとしてもだ。
 最早毒を食らうならば皿までと言った心境で多少は妥協しようと問いかければ、「帝人くん冷たい」だのぶつくさ呟く臨也は向けられる視線に口元だけで弧を描く。
「言っただろう? 対価は家事だ。付け加えて言うならば、俺の観察対象になれってことかな。俺は人間が好きだ。愛している。人の行動を、思考を知りたいと望んでいる。その上で一人の人間を徹底的に観察できるのはなかなかの娯楽なんだよ」
「悪趣味ですね」
 きっぱりと切って捨てる。だが納得した。
「わかりました。そういうことなら、遠慮なくお世話になります」
 ぺこりと頭を下げれば僅かに臨也の目が見開かれる。だがそれも一瞬。あっさりと次の瞬間にはいつもの笑みを浮かべている。
「うん、よろしくね。とりあえず君の荷物はあとで業者に運ばせるから」
「お手数をおかけします」
「いやいや。こちらこそ」
 早速案内するよ。部屋はこっちでいいかな。使ってなかったけど、日常生活に必要なものはあるから云々。
 臨也の説明を聞きながら、とりあえず持ち込んだ必要最低限のものを部屋に置くと家主は至極楽しそうな笑みを浮かべてリビングのソファに陣取っている。おいでと手招きされたのでなんとなく近づけば、臨也は極上の笑みを湛えて帝人を見る。
 歓喜、愉悦、期待、逡巡、期待期待期待。彼が浮かべる笑みは様々な感情を混ぜ込んで帝人に向けられる。流石に感情に疎い自分でもそれくらいは察せられて、頷いたのは早かったかななんてそんなことを考えた。
「ねぇ、帝人くん、何で頷いたの?」
 楽しそうに問いかける大人に呆れる。自分で引きずりこんでおいて何を。
 情報屋を名乗る彼ならばそれこそこちらの経済事情なんて知っているだろうに、わざわざ問いかける辺り性質が悪い。
「僕の経済事情なんて把握してると思うんですけど」
「はは、そりゃ確かにね! あんなアパート住居に選ぶ時点でおおよそわかるけどさ、でも――」
 きらりと褐色の瞳が危うい光を浮かべる。抱く感情と相まって、それは酷く妖艶な色を伴っていた。揺らぐように退廃的な、それでいて、確固とした欲望を抱いている。
「本当に嫌なら君は幾らでも手段はあったはずだよね。嫌だと口で言っていても君は最後には手段を選ばないはずだ。使えるものは全て使うのが君のスタンスだと思っていたんだけどな?」
作品名:非日常は身近にあり 作家名:ひな