こらぼでほすと アッシー10
一月七日、『吉祥富貴』の新年初開店の日は、夕方には、スタッフが集まってくる。本日は、この地域の正装にて、お客様をお出迎えするからだ。つまり、着物という民族衣装だ。さすがに、着付けはできないから、専門の人間が着物と共にスタンバイしている。
トダカたちから始まり、いつもの順番でやってくるスタッフも、彼らの名前が貼られた衣装を着付けされていく。厨房担当の爾燕ですら、一週間は、着物で作業させられる。動きづらいと不興だが、店表にも顔を出すから強制的に、それになるという厳しさだ。
「これ、面倒なんだよなあ。特に、この下駄。」
下駄と足袋だと、動きが限定されてしまうから、ぶつくさと悟空は文句を言いつつ、事務室でおやつを食べる。
「でも温かいだろ? ごくー。僕のより楽なんだよ? 袖が長いから踏んじゃうんだよねー。」
もぐもぐと、ゴマ団子を食べているキラは、明らかに女性用の総絞りの振袖で、色は青と紫で藍色で花が描かれている派手なものだ。悟空は、ごく普通の男性用の着物で羽織を着ている。色は、こげ茶色で、少し変わった色だ。
「だって、それ、歌姫さんとお揃だろ? 」
キラのは毎年、歌姫と対になるような振袖で、頭にも大きな生花の牡丹が飾られている。どっからどう見ても、女の子といった感じだ。
「毎年、思うんだけどな、アスラン。この衣装、金髪には似合わないと思わないか? 」
白っぽい着物の鷹は、ぼりぼりと頭を掻きつつ、事務室にある姿身で、自分を写して苦笑している。
「そうじゃなくて着慣れないからでしょ? ムウさんは。三蔵さんは、きっちり着こなしてるじゃありませんか。」
対して、宵闇色の髪をしているアスランは、それと似たような色合いの着物で、しっくりしている。ちなみに、坊主は普段から着物だから、別段、いつも通りに自分で着て、すでにカウンターでトダカと飲んでいたりする。
事務室へ、ようやく着付けの終わった刹那とロックオンがやってきて、周囲の着物を眺めてから、キラの前にやってくる。
「キラ、これ、女物だよな? 」
ロックオンは孔雀色を基調とした訪問着で、帯は遊び心のある変わり結びにされていた。髪は後ろで纏められて、生花まで飾られている。
「うん。だって、男物って色が地味なんだもん。だから、半分は女物なんだ。」
「刹那は? 」
刹那は、女物の振袖を着せられている。キラとは違って、水色に御所車という古代柄の着物に、帯が銀、頭には薄い色のバラが飾られているという女の子仕様だ。
「えーっと、ママのおまけ? 」
「夫夫の女房役は女物って決まってるんだよ、ママ。うちのも、ほら。」
悟浄が、まあまあと宥めている。地味な色合いばかりでは面白くないということで、この店では、半分くらいが、中性的あるいは女性モノを着ることに決まっているので、悟浄の女房も大正柄の着物に細帯で片方を垂らしているという粋な着物だ。
「ロックオン、あなた、三蔵の女房なんだから、それは決定です。最初、帯が苦しいでしょうが、そのうち慣れますから。」
毎年やっている八戒は慣れたものだ。いつも、八戒たちの地域の民族衣装を着ているから、なんだか雰囲気が変わる。
「歩きづらいんですが。」
「ゆっくりでいいです。歩くのは、最初だけです。オーナーが、キラくんとあなたを指名してますから、今日は座っててください。」
「しかし、なかなか、このうなじはそそられるな。」
事務椅子に座ったロックオンの背後に鷹は近寄り、その襟足から覗くうなじあたりを眺めて、にんまりと笑う。
「セクハラだぜ? 鷹さん。」
ロックオンの背中と鷹の間に、ハイネが割り込む。ハイネも和装だが、こちらは女性の訪問着を角帯で着ている。下手をすると演歌歌手だが、顔が派手だから釣り合いはとれていて、どちらかといえば中性的な着こなしになっている。
「おや、間男じゃないか。今日は、恋人がエスコートするから、おまえはいらないな。」
「マリューおねーさまが予約入れてたんじゃないのか? 」
「マリューのご指名は、せつニャンだ。」
毎日のように見られる鷹なんぞより、滅多に出て来ない黒子猫のほうが、マリューには貴重だ。だから、指名も、もちろん、刹那だ。
「シン、レイ、今日は、刹那のエスコートよろしくね。」
キラは、着替えてきたシンとレイに声をかける。こちらは、白と青の紋付袴という正装だ。
「了解。」
「へぇーこういうのもあるのか。」
「これが、男性の最礼装なんだそうです。ロックオン。」
レイが、感心する親猫に説明する。レイは白の着物に紋付も白、そして、袴は白と黒の縦縞だ。
「これのほうが動きやすいんだ。足捌きが楽でさ。」
対して、シンは、青の着物と紋付に、白黒縦縞の袴だ。どちらも似合っている。刹那が動きにくい格好だから、シンとレイで移動なんかはサポートすることになっている。
「さあ、そろそろ、オーナーが到着する。みんな、スタンバイしてくれ。」
事務室で、和やかに雑談している面々に、アスランが声をかける。最初にやってくるお客様は、オーナーの歌姫様と毎年、決まっている。
全員がエントランスに並ぶと、ほどなく、扉が開いた。まずは、ディアッカが先導している。こちらも、黒の紋付袴だ。そして、オーナーがイザークにサポートされて入ってくる。イザークは銀糸のふんだんに使われた白の紋付袴だ。オーナーは、桃色と紅色の総絞りに、臙脂で花が描かれたキラと対になっている豪華な着物だ。こちらも、大きな牡丹の生花が髪に飾られている。
ホールまで全員が移動して整列すると、オーナーが挨拶をする。
「新年あけましておめでとうございます。今年も、無事に一年過ごされるようにお願いいたします。・・・・他の方もご存知とは思いますが、イザークとディアッカが、私くしのガードについてくださいますので、ホストのほうは、あまり出てきていただけないと思います。イザークたちのお客様のフォローはお願いいたしますね。」
すらすらと挨拶すると、オーナーはホールの一番大きなソファ席へと移動する。そこに落ち着くと、今度はキラが挨拶だ。
「ラクス、あけましておめでとう。今年も、一番に来店してくれてありがとう。」
「うふふふ・・・オーナーとして、キラの上得意としては基本ですわ。」
「今日は、どうするの? 」
「とりあえず、冷たいものを。刹那、ご指名があるまで、こちらにいらっしゃい。ロックオンは、私くしの隣に。」
お仕事中は、おかんと呼ぶな、と、言ってあるので、歌姫のほうも、そういう呼び方をする。ご指名ありがとうございます、と、挨拶して刹那と共に、その席にロックオンたちも着く。振袖ばかりだと、かなりきらびやかになる。そのソファの背後に、シンとレイ、ハイネが立っている。
「刹那、工廠のほうから連絡がありました。あと一週間で完了するそうです。」
「わかった。」
エクシアの整備を、オーヴの技術工廠に依頼しているから、それが仕上がれば、刹那は、また旅に出る。それはわかっていることだが、聞いてしまうと、ロックオンは寂しい気分になる。今度は北へ。自分の身内に逢うために、そちらへ出向くことになる。
「ほら、仕事の顔が外れてるぜ? ママニャン。」
トダカたちから始まり、いつもの順番でやってくるスタッフも、彼らの名前が貼られた衣装を着付けされていく。厨房担当の爾燕ですら、一週間は、着物で作業させられる。動きづらいと不興だが、店表にも顔を出すから強制的に、それになるという厳しさだ。
「これ、面倒なんだよなあ。特に、この下駄。」
下駄と足袋だと、動きが限定されてしまうから、ぶつくさと悟空は文句を言いつつ、事務室でおやつを食べる。
「でも温かいだろ? ごくー。僕のより楽なんだよ? 袖が長いから踏んじゃうんだよねー。」
もぐもぐと、ゴマ団子を食べているキラは、明らかに女性用の総絞りの振袖で、色は青と紫で藍色で花が描かれている派手なものだ。悟空は、ごく普通の男性用の着物で羽織を着ている。色は、こげ茶色で、少し変わった色だ。
「だって、それ、歌姫さんとお揃だろ? 」
キラのは毎年、歌姫と対になるような振袖で、頭にも大きな生花の牡丹が飾られている。どっからどう見ても、女の子といった感じだ。
「毎年、思うんだけどな、アスラン。この衣装、金髪には似合わないと思わないか? 」
白っぽい着物の鷹は、ぼりぼりと頭を掻きつつ、事務室にある姿身で、自分を写して苦笑している。
「そうじゃなくて着慣れないからでしょ? ムウさんは。三蔵さんは、きっちり着こなしてるじゃありませんか。」
対して、宵闇色の髪をしているアスランは、それと似たような色合いの着物で、しっくりしている。ちなみに、坊主は普段から着物だから、別段、いつも通りに自分で着て、すでにカウンターでトダカと飲んでいたりする。
事務室へ、ようやく着付けの終わった刹那とロックオンがやってきて、周囲の着物を眺めてから、キラの前にやってくる。
「キラ、これ、女物だよな? 」
ロックオンは孔雀色を基調とした訪問着で、帯は遊び心のある変わり結びにされていた。髪は後ろで纏められて、生花まで飾られている。
「うん。だって、男物って色が地味なんだもん。だから、半分は女物なんだ。」
「刹那は? 」
刹那は、女物の振袖を着せられている。キラとは違って、水色に御所車という古代柄の着物に、帯が銀、頭には薄い色のバラが飾られているという女の子仕様だ。
「えーっと、ママのおまけ? 」
「夫夫の女房役は女物って決まってるんだよ、ママ。うちのも、ほら。」
悟浄が、まあまあと宥めている。地味な色合いばかりでは面白くないということで、この店では、半分くらいが、中性的あるいは女性モノを着ることに決まっているので、悟浄の女房も大正柄の着物に細帯で片方を垂らしているという粋な着物だ。
「ロックオン、あなた、三蔵の女房なんだから、それは決定です。最初、帯が苦しいでしょうが、そのうち慣れますから。」
毎年やっている八戒は慣れたものだ。いつも、八戒たちの地域の民族衣装を着ているから、なんだか雰囲気が変わる。
「歩きづらいんですが。」
「ゆっくりでいいです。歩くのは、最初だけです。オーナーが、キラくんとあなたを指名してますから、今日は座っててください。」
「しかし、なかなか、このうなじはそそられるな。」
事務椅子に座ったロックオンの背後に鷹は近寄り、その襟足から覗くうなじあたりを眺めて、にんまりと笑う。
「セクハラだぜ? 鷹さん。」
ロックオンの背中と鷹の間に、ハイネが割り込む。ハイネも和装だが、こちらは女性の訪問着を角帯で着ている。下手をすると演歌歌手だが、顔が派手だから釣り合いはとれていて、どちらかといえば中性的な着こなしになっている。
「おや、間男じゃないか。今日は、恋人がエスコートするから、おまえはいらないな。」
「マリューおねーさまが予約入れてたんじゃないのか? 」
「マリューのご指名は、せつニャンだ。」
毎日のように見られる鷹なんぞより、滅多に出て来ない黒子猫のほうが、マリューには貴重だ。だから、指名も、もちろん、刹那だ。
「シン、レイ、今日は、刹那のエスコートよろしくね。」
キラは、着替えてきたシンとレイに声をかける。こちらは、白と青の紋付袴という正装だ。
「了解。」
「へぇーこういうのもあるのか。」
「これが、男性の最礼装なんだそうです。ロックオン。」
レイが、感心する親猫に説明する。レイは白の着物に紋付も白、そして、袴は白と黒の縦縞だ。
「これのほうが動きやすいんだ。足捌きが楽でさ。」
対して、シンは、青の着物と紋付に、白黒縦縞の袴だ。どちらも似合っている。刹那が動きにくい格好だから、シンとレイで移動なんかはサポートすることになっている。
「さあ、そろそろ、オーナーが到着する。みんな、スタンバイしてくれ。」
事務室で、和やかに雑談している面々に、アスランが声をかける。最初にやってくるお客様は、オーナーの歌姫様と毎年、決まっている。
全員がエントランスに並ぶと、ほどなく、扉が開いた。まずは、ディアッカが先導している。こちらも、黒の紋付袴だ。そして、オーナーがイザークにサポートされて入ってくる。イザークは銀糸のふんだんに使われた白の紋付袴だ。オーナーは、桃色と紅色の総絞りに、臙脂で花が描かれたキラと対になっている豪華な着物だ。こちらも、大きな牡丹の生花が髪に飾られている。
ホールまで全員が移動して整列すると、オーナーが挨拶をする。
「新年あけましておめでとうございます。今年も、無事に一年過ごされるようにお願いいたします。・・・・他の方もご存知とは思いますが、イザークとディアッカが、私くしのガードについてくださいますので、ホストのほうは、あまり出てきていただけないと思います。イザークたちのお客様のフォローはお願いいたしますね。」
すらすらと挨拶すると、オーナーはホールの一番大きなソファ席へと移動する。そこに落ち着くと、今度はキラが挨拶だ。
「ラクス、あけましておめでとう。今年も、一番に来店してくれてありがとう。」
「うふふふ・・・オーナーとして、キラの上得意としては基本ですわ。」
「今日は、どうするの? 」
「とりあえず、冷たいものを。刹那、ご指名があるまで、こちらにいらっしゃい。ロックオンは、私くしの隣に。」
お仕事中は、おかんと呼ぶな、と、言ってあるので、歌姫のほうも、そういう呼び方をする。ご指名ありがとうございます、と、挨拶して刹那と共に、その席にロックオンたちも着く。振袖ばかりだと、かなりきらびやかになる。そのソファの背後に、シンとレイ、ハイネが立っている。
「刹那、工廠のほうから連絡がありました。あと一週間で完了するそうです。」
「わかった。」
エクシアの整備を、オーヴの技術工廠に依頼しているから、それが仕上がれば、刹那は、また旅に出る。それはわかっていることだが、聞いてしまうと、ロックオンは寂しい気分になる。今度は北へ。自分の身内に逢うために、そちらへ出向くことになる。
「ほら、仕事の顔が外れてるぜ? ママニャン。」
作品名:こらぼでほすと アッシー10 作家名:篠義