無いものねだり
視線を少しだけ持ち上げると、怯えるような白石の目。
「ごめんね」
付けたばかりの歯形を癒すようにそっと舌を這わせる。
ほんの少し血の味がした。ちょっときつく噛みすぎたかもしれない。
顔を上げてもう一度白石の顔を見てごめん、と謝って目尻にひとつキスを落とした。
でもこんな傷、きっとすぐ消えてしまう。痕になんか残らない。
この内出血だってすぐに吸収されて無くなってしまう。
俺だってひとつくらい、白石に何かを残したかったのに。
「蔵、ごめん」
小さく囁いて今度は唇を重ねた。
だからせめてこれくらいのことは許して、白石。