掌の上で
「好きです。」
僕がそう言った時、臨也さんは一瞬キョトンとしてから「ふぅん?」と言って唇の端を上げた。
「意外だったなぁ。」
「…何がですか?」
「俺が受け入れるわけないとわかってるのに、ちゃんと告白するんだ。」
「…。」
「君って、そういう無駄なことはしない子かと思ってたよ。」
「帝人くーん、あーけーて。」
時計の針はすでに夜中の2時を指している。
深夜とは思えないハイテンションに僕は一つため息を吐いた。
こんな時間に突然来て、追い返してやってもいいくらいなのに、僕がそのドアを開けてしまうのはきっと惚れた弱みという奴だ。
「みっかどくーん、会いたかったよ。」
開けた瞬間酒臭いその人はぎゅむっと僕に抱きついた。
酒の匂いの中に女性用の香水の香りもばっちり漂わせてる。
途端に高くなる心音と、ツキンと痛む心臓のどちらも厄介だ。
「臨也さん、離して下さい。」
「冷たいよね、君って。」
子供の様に唇を尖らせて僕から離れた臨也さんは、そのまますぐにするりと身体を滑り込ませ僕の部屋の中に勝手にお邪魔する。
「相変わらず狭い部屋だね、此処は。」
「毎回失礼ですよね、臨也さんは。」
「でも、この部屋安心するんだよ。」
にっこり、と、人好きするその笑みが薄暗い部屋の中、月明かりのせいで一際よく見えてしまう。
僕は俯いて、「そうですか、光栄です。」と答えた。
赤くなった頬が臨也さんに見えていないことを祈りながら。
臨也さんは酷い人だ。
僕の好意を知ってて利用する。
もちろん告白なんてしてしまった僕が悪いのは百も承知だけど、きっと告白なんぞしなくても臨也さんはお見通しだっただろう。
僕を好きになる気なんてさらさらないくせに、嫌いでもないから適当に傍に置いてくれる。
そんなもの、こっちにとっては傍迷惑以外の何物でもない。
いっそ僕を心底嫌って、厭って、距離を置いてくれたら良かった。
そうすれば最初は辛くてもいつかは忘れられる希望も持てるのに。
今日の様に突然来て、顔を見せられたら忘れられるわけもない。
ましてや
いかにも女性と会ってきましたって証拠を残されたら。
香水の香りや、いわゆるキスマーク、言動や行動の中にも鈍い僕に悟らせるように証拠を突きつける。
『君は、そういう対象じゃないんだよ。』
その証拠たちが毎回僕にそう優しく語りかけてくる。
そんなことはわかってる、と、思いながら僕はいつも苦しめられている。
「帝人くん。」
僕がさっきまで寝ていた出しっぱなしにされた布団の上で臨也さんは胡坐をかいて僕を呼んだ。
「肩が凝ってるんだよね。」
「…おじさんじゃないですか。」
「酷いなーっ、帝人くんだってもう、すぐだよ、肩凝るようになるの。」
「臨也さんみたいにパソコンばっかり見てなければ平気です。」
「だって仕事だもの、仕方ないでしょ。ね、揉んで?」
「は?」
「肩、揉んでよ。」
さも当然のように言われ、なんで僕が、と思いながら臨也さんの後ろに回る。
「首は締めないでねー。」
笑いながらそういう臨也さんに、いっそ締めてやろうかと軽い殺意を覚えつつ肩を揉んだ。
頭を下げて髪の毛で隠れていた臨也さんの項が露わになると、そこに、一つ、キスマークが残っているのに気が付いた。
また、手の甲にくすぐったく触れる臨也さんの髪の先が微妙に濡れてることにも気が付いた。
髪の毛からは明らかにシャンプーの香りもする。
何処かの誰かが、臨也さんの項にキスして、
何処かの誰かの、部屋でシャワーを浴びたんだろう。
ただそれだけだ。
なのに、じりじりと胸が焦げる。
自分でも醜いし情けないと思う嫉妬心。
「どうしたの?」
臨也さんが手を止めた僕を不審がってくるりと首を回しこっちを見た。
至近距離で目が合った臨也さんは柔和に頬見ながら目を細める。
そこからは、何の感情も読みとれない。
けど、僕のこの嫉妬心を見透かしてるとしか思えなかった。
そう、いつだって僕はこの人の掌の上だ。
僕がそう言った時、臨也さんは一瞬キョトンとしてから「ふぅん?」と言って唇の端を上げた。
「意外だったなぁ。」
「…何がですか?」
「俺が受け入れるわけないとわかってるのに、ちゃんと告白するんだ。」
「…。」
「君って、そういう無駄なことはしない子かと思ってたよ。」
「帝人くーん、あーけーて。」
時計の針はすでに夜中の2時を指している。
深夜とは思えないハイテンションに僕は一つため息を吐いた。
こんな時間に突然来て、追い返してやってもいいくらいなのに、僕がそのドアを開けてしまうのはきっと惚れた弱みという奴だ。
「みっかどくーん、会いたかったよ。」
開けた瞬間酒臭いその人はぎゅむっと僕に抱きついた。
酒の匂いの中に女性用の香水の香りもばっちり漂わせてる。
途端に高くなる心音と、ツキンと痛む心臓のどちらも厄介だ。
「臨也さん、離して下さい。」
「冷たいよね、君って。」
子供の様に唇を尖らせて僕から離れた臨也さんは、そのまますぐにするりと身体を滑り込ませ僕の部屋の中に勝手にお邪魔する。
「相変わらず狭い部屋だね、此処は。」
「毎回失礼ですよね、臨也さんは。」
「でも、この部屋安心するんだよ。」
にっこり、と、人好きするその笑みが薄暗い部屋の中、月明かりのせいで一際よく見えてしまう。
僕は俯いて、「そうですか、光栄です。」と答えた。
赤くなった頬が臨也さんに見えていないことを祈りながら。
臨也さんは酷い人だ。
僕の好意を知ってて利用する。
もちろん告白なんてしてしまった僕が悪いのは百も承知だけど、きっと告白なんぞしなくても臨也さんはお見通しだっただろう。
僕を好きになる気なんてさらさらないくせに、嫌いでもないから適当に傍に置いてくれる。
そんなもの、こっちにとっては傍迷惑以外の何物でもない。
いっそ僕を心底嫌って、厭って、距離を置いてくれたら良かった。
そうすれば最初は辛くてもいつかは忘れられる希望も持てるのに。
今日の様に突然来て、顔を見せられたら忘れられるわけもない。
ましてや
いかにも女性と会ってきましたって証拠を残されたら。
香水の香りや、いわゆるキスマーク、言動や行動の中にも鈍い僕に悟らせるように証拠を突きつける。
『君は、そういう対象じゃないんだよ。』
その証拠たちが毎回僕にそう優しく語りかけてくる。
そんなことはわかってる、と、思いながら僕はいつも苦しめられている。
「帝人くん。」
僕がさっきまで寝ていた出しっぱなしにされた布団の上で臨也さんは胡坐をかいて僕を呼んだ。
「肩が凝ってるんだよね。」
「…おじさんじゃないですか。」
「酷いなーっ、帝人くんだってもう、すぐだよ、肩凝るようになるの。」
「臨也さんみたいにパソコンばっかり見てなければ平気です。」
「だって仕事だもの、仕方ないでしょ。ね、揉んで?」
「は?」
「肩、揉んでよ。」
さも当然のように言われ、なんで僕が、と思いながら臨也さんの後ろに回る。
「首は締めないでねー。」
笑いながらそういう臨也さんに、いっそ締めてやろうかと軽い殺意を覚えつつ肩を揉んだ。
頭を下げて髪の毛で隠れていた臨也さんの項が露わになると、そこに、一つ、キスマークが残っているのに気が付いた。
また、手の甲にくすぐったく触れる臨也さんの髪の先が微妙に濡れてることにも気が付いた。
髪の毛からは明らかにシャンプーの香りもする。
何処かの誰かが、臨也さんの項にキスして、
何処かの誰かの、部屋でシャワーを浴びたんだろう。
ただそれだけだ。
なのに、じりじりと胸が焦げる。
自分でも醜いし情けないと思う嫉妬心。
「どうしたの?」
臨也さんが手を止めた僕を不審がってくるりと首を回しこっちを見た。
至近距離で目が合った臨也さんは柔和に頬見ながら目を細める。
そこからは、何の感情も読みとれない。
けど、僕のこの嫉妬心を見透かしてるとしか思えなかった。
そう、いつだって僕はこの人の掌の上だ。