こらぼでほすと アッシー12
悟空が、春休みというには、ちょっと長い休暇に突入した。どうにか必要な単位は取得したので、進級できることになった。まあ、有体に言うと、キラとアスランのお陰だが、教養課程なんてものは真面目にやらなくてもいい、という、ハイネのご託宣で罪悪感なしで、ウキウキだ。
「悟空、おやつ。」
本堂の片付けをしていたら、ロックオンに呼ばれた。おやつを食べると、出勤時間だ。家のほうに戻ると、珍しいものが卓袱台に鎮座していた。
「え? 」
「ごめん、頼みがあるんだ。これ、食べてくれないか?」
果物がふんだんに飾られた生クリームのホールケーキが、そこにはある。もちろん、いつものように軽食や坊主の晩酌セットも載っかっているが、ホールケーキは珍しい。
「なんかあったっけ? 」
「今日、アレルヤたちの誕生日なんだ。だから、代わりに平らげてくれないか?」
作ってみたものの、食べて欲しい相手は、どこかに隠れたままだ。自己満足だと言い訳してみたが、とても自分一人では食べられる代物ではない。だから、悟空に食べてもらおうと思った。それを傍目にしていた坊主は、そのケーキを持ち上げて、「お茶入れて持ってこい。」 と、命じた。悟空のほうは、なんとなく意図がわかって、すかさず、ティーパックの紅茶をマグカップに作り、ロックオンの手を引いて、本堂へとんぼ返りする。
本堂の本尊に供物を捧げる場所に、ケーキは置かれている。そして、悟空が運んできたマグカップも、その横に置かれた。まるで死者への供物じゃないか、と、ロックオンは慌てて止めようとしたが、先に坊主に喋られた。
「三蔵さん、あいつ、死んでませ・・・」
「わかってる。実際には食わせてやれないが、食った気になるように念を送ってやる。こっちでは、行方がわからない人間が、空腹にならないように、こうやって食事を用意する風習ってーのがあるんだ。拝まなくていいから座ってろ。」
「陰膳って言うんだよ、ママ。アレルヤたちが、向うでお腹空かせないように、ごはんの念だけ送ってやるんだ。」
終わったら、俺が食べるから安心して、と、悟空も、ロックオンの隣に座る。仏教というのは、不思議な儀式があるんだな、と、ロックオンも大人しく三蔵の後ろに座る。三蔵の勤行が聞こえ、最後に、「しっかり食っとけ、このバカモノどもっっ。」 と、怒鳴ったのが三蔵らしい送り方だ。
「カゲゼンって、毎日するものなんですか? 」
「いや、気が向いたらでいい。なんか、あいつらの好物を作った時とか、そのぐらいのことだ。」
終わったぞ、と、ケーキを、そこから降ろすと、悟空に渡す。
「ちゃんと俺が食べて、アレルヤたちが戻ったら、味の説明はしてやるぜ。」
「うん、頼むな、悟空。」
何個こうやってケーキを焼くんだろうと思いつつ、三蔵に深々と頭を下げて礼を伝える。
「ありがとうございました。」
「俺はケーキはいらんぞ。」
「はいはい。」
「シフォンケーキぐらいなら食わないことはない。」
「甘くないのにします。」
ちゃっかり自分の誕生日のリクエストもして、坊主も家のほうへ引き返す。本当に、そういう儀式があるのか、よくわからないが、三蔵なりの優しさなんだろうと、ロックオンも引き返す。
・・・・もっと、上手になっとくからさ・・・戻ったら、食べてくれよ?・・・
本尊の仏像に向かって、呟いて踵は返した。
組織でも、その日、ティエリアは、ぼんやりと作業を中断して考え事をしていた。いつもなら、何かしらのイベントをやっている日だ。完全始動していた時は、それほど騒ぎにしなかったが、それでも、言葉だけは届けていた。守秘義務違反だと、当初は怒鳴っていたティエリアも、いつのまにか言わなくなった。それでも、自分の誕生日は言わなかったけど。アレルヤもロックオンも聞き出そうとしていたが、ないものは言えない。アレルヤには、こっそりと、そう言ったら、僕も本当の誕生日は知らないよ、と、告白された。彼も、超兵機関に居たところからの記憶しかないから、それは、おそらく生まれたのではなく、連れて来られた日だったんじゃないかな、と、朗らかに言ったのだ。
「でも、区切りではあるだろうから、誕生日なんだ。」
超兵機関は、その時にはなくなっていたから、記録を辿ることもできない。だから、それでいいと思っていると言う。
「俺は・・・どうだろう? 」
ティエリアには、そんなものもない。いきなり、この姿で記憶は始まっている。小さな子供だった記憶もないので、どこで区切ればいいのかもわからない。
「何かの記念日で代用すれば? 例えば、マイスターになった日とか、大好きな季節とか、語呂合わせの好きな数字とか。」
「マイスターになった日か・・・それも、はっきりしていないな。登録日というのならあると思うんだが・・・」
「僕と同じ日は? それとも、ロックオンとか? 」
「それでは、きみたちに失礼だろ? 」
「でも、忘れなくていいだろ? できたら、僕のじゃなくて、ロックオンのにしてよ。」
そうしたら、僕が一杯お祝いできるから、と、アレルヤは微笑んだ。自分と一緒だと、自分も祝われてしまうから、なんだか勿体無いと言った。
「ロックオンは正真正銘の誕生日なんだって。だから、そのほうがいいよ、ティエリア。何か欲しいもの考えておいてね。」
とは言ったものの、そのまま組織は完全始動してしまって、ロックオンの誕生日当日なんて、激戦中で、それどころではなかった。だから、一度も、ティエリアはお祝いをしてもらったことがない。
・・・・きみがいなけりゃ、俺は祝ってもらえないんだぞっっ・・・・
データが刻一刻と映し出されているパネルを睨んで、ティエリアは内心で怒鳴る。アレルヤと話したことは、ロックオンには伝えていなかった。今日が終われば、すぐにロックオンの誕生日が来る。そして、約一ヶ月後に、刹那の誕生日だ。刹那のも、本当ではないらしい。こちらも、組織に拾われた時を、その日に設定されている。
唯一、本当の誕生日を覚えているのは、ロックオンだけという、なんとも不思議な集団だ。
「だが、今年は刹那の番だから、来年は、俺が祝ってやらないとな。」
実は、ティエリアと刹那は、互いに、連絡は取り合っている。連絡というには、些細なものだが、一応、ロックオンの元へ戻る時は、それだけがティエリアの個人連絡網に送られてくるのだ。なるべく、被らないようにしたほうがいいだろうと、そういうことだけは決めていた。だから、一方的に刹那の予定だけだし、ティエリアも、自分の予定だけを送る。組織への報告は、まったく送られていないが、それは、『吉祥富貴』からの暗号通信に載せられてくるから問題はない。
刹那が二月末から四月初頭と連絡を寄越したので、自分とフェルトは、その後ということになる。フェルトには看病されたくない、と、ロックオンは言ったので、今度は、先にフェルトを降ろす。六月中途からが、自分の担当だ。
来年は、二月末から四月直前までを予定しておこうと考えている。来年には無理だろうが、もしかしたら自力で、どうにかしてくるかもしれないからだ。
「悟空、おやつ。」
本堂の片付けをしていたら、ロックオンに呼ばれた。おやつを食べると、出勤時間だ。家のほうに戻ると、珍しいものが卓袱台に鎮座していた。
「え? 」
「ごめん、頼みがあるんだ。これ、食べてくれないか?」
果物がふんだんに飾られた生クリームのホールケーキが、そこにはある。もちろん、いつものように軽食や坊主の晩酌セットも載っかっているが、ホールケーキは珍しい。
「なんかあったっけ? 」
「今日、アレルヤたちの誕生日なんだ。だから、代わりに平らげてくれないか?」
作ってみたものの、食べて欲しい相手は、どこかに隠れたままだ。自己満足だと言い訳してみたが、とても自分一人では食べられる代物ではない。だから、悟空に食べてもらおうと思った。それを傍目にしていた坊主は、そのケーキを持ち上げて、「お茶入れて持ってこい。」 と、命じた。悟空のほうは、なんとなく意図がわかって、すかさず、ティーパックの紅茶をマグカップに作り、ロックオンの手を引いて、本堂へとんぼ返りする。
本堂の本尊に供物を捧げる場所に、ケーキは置かれている。そして、悟空が運んできたマグカップも、その横に置かれた。まるで死者への供物じゃないか、と、ロックオンは慌てて止めようとしたが、先に坊主に喋られた。
「三蔵さん、あいつ、死んでませ・・・」
「わかってる。実際には食わせてやれないが、食った気になるように念を送ってやる。こっちでは、行方がわからない人間が、空腹にならないように、こうやって食事を用意する風習ってーのがあるんだ。拝まなくていいから座ってろ。」
「陰膳って言うんだよ、ママ。アレルヤたちが、向うでお腹空かせないように、ごはんの念だけ送ってやるんだ。」
終わったら、俺が食べるから安心して、と、悟空も、ロックオンの隣に座る。仏教というのは、不思議な儀式があるんだな、と、ロックオンも大人しく三蔵の後ろに座る。三蔵の勤行が聞こえ、最後に、「しっかり食っとけ、このバカモノどもっっ。」 と、怒鳴ったのが三蔵らしい送り方だ。
「カゲゼンって、毎日するものなんですか? 」
「いや、気が向いたらでいい。なんか、あいつらの好物を作った時とか、そのぐらいのことだ。」
終わったぞ、と、ケーキを、そこから降ろすと、悟空に渡す。
「ちゃんと俺が食べて、アレルヤたちが戻ったら、味の説明はしてやるぜ。」
「うん、頼むな、悟空。」
何個こうやってケーキを焼くんだろうと思いつつ、三蔵に深々と頭を下げて礼を伝える。
「ありがとうございました。」
「俺はケーキはいらんぞ。」
「はいはい。」
「シフォンケーキぐらいなら食わないことはない。」
「甘くないのにします。」
ちゃっかり自分の誕生日のリクエストもして、坊主も家のほうへ引き返す。本当に、そういう儀式があるのか、よくわからないが、三蔵なりの優しさなんだろうと、ロックオンも引き返す。
・・・・もっと、上手になっとくからさ・・・戻ったら、食べてくれよ?・・・
本尊の仏像に向かって、呟いて踵は返した。
組織でも、その日、ティエリアは、ぼんやりと作業を中断して考え事をしていた。いつもなら、何かしらのイベントをやっている日だ。完全始動していた時は、それほど騒ぎにしなかったが、それでも、言葉だけは届けていた。守秘義務違反だと、当初は怒鳴っていたティエリアも、いつのまにか言わなくなった。それでも、自分の誕生日は言わなかったけど。アレルヤもロックオンも聞き出そうとしていたが、ないものは言えない。アレルヤには、こっそりと、そう言ったら、僕も本当の誕生日は知らないよ、と、告白された。彼も、超兵機関に居たところからの記憶しかないから、それは、おそらく生まれたのではなく、連れて来られた日だったんじゃないかな、と、朗らかに言ったのだ。
「でも、区切りではあるだろうから、誕生日なんだ。」
超兵機関は、その時にはなくなっていたから、記録を辿ることもできない。だから、それでいいと思っていると言う。
「俺は・・・どうだろう? 」
ティエリアには、そんなものもない。いきなり、この姿で記憶は始まっている。小さな子供だった記憶もないので、どこで区切ればいいのかもわからない。
「何かの記念日で代用すれば? 例えば、マイスターになった日とか、大好きな季節とか、語呂合わせの好きな数字とか。」
「マイスターになった日か・・・それも、はっきりしていないな。登録日というのならあると思うんだが・・・」
「僕と同じ日は? それとも、ロックオンとか? 」
「それでは、きみたちに失礼だろ? 」
「でも、忘れなくていいだろ? できたら、僕のじゃなくて、ロックオンのにしてよ。」
そうしたら、僕が一杯お祝いできるから、と、アレルヤは微笑んだ。自分と一緒だと、自分も祝われてしまうから、なんだか勿体無いと言った。
「ロックオンは正真正銘の誕生日なんだって。だから、そのほうがいいよ、ティエリア。何か欲しいもの考えておいてね。」
とは言ったものの、そのまま組織は完全始動してしまって、ロックオンの誕生日当日なんて、激戦中で、それどころではなかった。だから、一度も、ティエリアはお祝いをしてもらったことがない。
・・・・きみがいなけりゃ、俺は祝ってもらえないんだぞっっ・・・・
データが刻一刻と映し出されているパネルを睨んで、ティエリアは内心で怒鳴る。アレルヤと話したことは、ロックオンには伝えていなかった。今日が終われば、すぐにロックオンの誕生日が来る。そして、約一ヶ月後に、刹那の誕生日だ。刹那のも、本当ではないらしい。こちらも、組織に拾われた時を、その日に設定されている。
唯一、本当の誕生日を覚えているのは、ロックオンだけという、なんとも不思議な集団だ。
「だが、今年は刹那の番だから、来年は、俺が祝ってやらないとな。」
実は、ティエリアと刹那は、互いに、連絡は取り合っている。連絡というには、些細なものだが、一応、ロックオンの元へ戻る時は、それだけがティエリアの個人連絡網に送られてくるのだ。なるべく、被らないようにしたほうがいいだろうと、そういうことだけは決めていた。だから、一方的に刹那の予定だけだし、ティエリアも、自分の予定だけを送る。組織への報告は、まったく送られていないが、それは、『吉祥富貴』からの暗号通信に載せられてくるから問題はない。
刹那が二月末から四月初頭と連絡を寄越したので、自分とフェルトは、その後ということになる。フェルトには看病されたくない、と、ロックオンは言ったので、今度は、先にフェルトを降ろす。六月中途からが、自分の担当だ。
来年は、二月末から四月直前までを予定しておこうと考えている。来年には無理だろうが、もしかしたら自力で、どうにかしてくるかもしれないからだ。
作品名:こらぼでほすと アッシー12 作家名:篠義