こらぼでほすと アッシー12
そしたら、盛大に祝ってやって、祝ってもらおうなんて想像する。かなり無謀な想像だが、想像するのはティエリアの勝手だ。うっすらと頬を緩めて、再会する時を考える。きっと、アレルヤは、「ごめん。」 と、謝るのだろう。
だから、ティエリアは笑顔で、「おかえり。」 と、言うつもりだ。どんな姿であっても、泣かないで笑って迎えようと思っている。
・・・まあ、妥当なところは、二年ほど先だろうな・・・
新しい機体がロールアウトするまでは、奪還は難しいだろう。殺されることはないと保証されているから、捕まった罰に、大人しく拉致られていろ、と、内心でアレルヤを罵る。どこかに捕まっているのだろうことは想像がつく。何かヘマをやらかしたに違いない。そうでないと、マイスターが生身で露呈するわけがないのだ。
・・・・それまでに、組織を復興させなければ・・・・
組織は、導線がかなり断ち切られていて、組織自体が空中分解しているような状態だ。これを、元の状態に近いところまで復旧させるのが、目下の急務だ。何人かのスタッフは、組織から離反してしまった。戦術予報士も、その一人だ。戦う気持ちがなくなってしまった、と、言って離れてしまった。彼女のポストにも新しい人材は必要だが、探している暇は今のところない。再始動までに、どうにかしなければならないだろうが、それは先になりそうだ。
「ティエリア、今いい? 」
ティエリアの作業場に、フェルトが顔を出した。彼女は、ここにしか居場所が無いので、そのまま一緒に動いている。
「なんだ? 」
「私の降下予定は? 」
「四月後半からなら構わない。前半は刹那が居座っている。」
「わかった。」
じゃあ、イアンたちを先に降ろすね? と、スタッフの休暇予定を組んでいることを説明してくれた。フェルトとティエリアは、それぞれ刹那との兼ね合いがあるから、まず、その部分を優先的に休暇に捻じ込んでいる。それができるのは、フェルトが予定を組んでいるからだ。
「間に合わなくて済まない、フェルト。」
「別にいいよ、ティエリア。刹那は元気? 」
「たぶん、あいつは何があってもピンピンしているだろう。」
サバイバル経験ということなら、刹那がピカイチだ。なんせ、小さい頃からサバイバルな生活しかなかった男だ。
「あははは・・・そうだよね。」
「来年は、間に合うように予定を組むから。」
「うん、たまには一緒に降りよう。ティエリアも。」
「そうだな。ま、予定は未定だが。」
フェルトも、お祝いしたいと思っていたのだろう。だから、聞きに来た。こうなると、自分は、再来年になるな、と、思ったら、一緒に、なんて言われてしまう。
「ロックオンはいいよね。みんなから祝ってもらえるもん。」
「そういえば、フェルト。きみは、いつなんだ? 」
何気なくティエリアが、そう尋ねたら、悪戯な笑顔で、「守秘義務違反だよ。」 と、おっしゃった。
「今更だろ? 」
「以前のティエリアだったら言わなかったよ。」
「まあ、そうなんだが・・・俺も、そういうのは親しい間柄では無用だと学んだんだ。」
「じゃあ、ティエリアは? 」
「・・・・アレルヤが帰ったら教える。」
「わかった。じゃあ、私のも。きっと、戻って来るもんね。」
今は無理でも、いつかは戻って来る。合言葉みたいになっているが、そう考えているほうが落ち着く。だから、そんなふうにフェルトとは言い合える。実働部隊は、そういう意味では守秘義務違反はなくなってしまった。
明日には戻るよーと言われたのが、アレルヤの誕生日の翌日だった。もうちょっと早く戻れよ、と、詰ったものの、顔は微笑んでしまうのは止められない。
「今度は一ヶ月いるからね、ママ。」
キラが、そう言って、ムフムフと笑っている。
「エクシアに問題でもあったのか? キラ。」
「ううん。刹那の誕生日だから、僕がお祝いしたいだけ。」
「あっっ。」
そう言われて、ロックオンも気付いた。刹那は四月の頭に誕生日が来る。これで、刹那は十九歳だ。
「忘れてた? 」
「忘れてた。」
ドタバタしていて刹那の誕生日は失念していた。アレルヤのは、ちゃんと覚えていたのに、と、ちょっと後ろめたい気分だ。それに、そこではなくて、接触の報告のほうが気懸かりだったのもある。どの程度、見てきたのかがわからないから、結論はわからない。
「キラくん、そこ、ツッコまない。」
「だって、ママなのに。あ、僕の誕生日、覚えてる? ママ。」
「おまえのは忘れたくても忘れられねぇーから安心しろ。」
毎年、キラの誕生日は盛大にパーティが催されるので、忘れることはない。昨年も盛大に催されていたはずだが、その後の騒ぎで、ロックオンの記憶にはあまり残っていない。というか、参加したのかどうかも怪しいが、日付は記憶に残っている。
「去年は、ママは不参加だったけど? 」
「でも、五月十八日だろ? 」
「あははは・・・正解。」
それならいいや、と、キラは、本日の軽食に手を延ばす。本日は、おでんだ。これはさすがに、量が生半可ではないので、前日から爾燕が、コトコト煮込んでいた。お客様にもお出しするので、大鍋で事務室の一角に保温されつつ置かれている。こちらは、食べ尽くしてもいいというお達しだ。
「なあ、爾燕、結び昆布がないんだが? 」
おいおいと、その鍋をひっくり返して、虎が文句を叫ぶ。おでんも各地方で入れるものが異なる料理だ。
「うちのは関東煮じゃなくて、おでんだからな。その代わり、タコが入ってるし、コロとさえずりもあるぞ? 」
「せめて、すじとはんぺんぐらい入れてくれても、バチはあたらんだろ? 」
「入ってるだろ? すじは。」
「これは牛スジだ。すじじゃない。」
虎が言っているのは、関東煮のほうのすじで、それは白身魚で作られたものだ。爾燕には、馴染みが無いらしい。
「虎さんの言ってるのは、つくねの白身魚版だ。爾燕。」
ということで、鷹が説明する。
「だから、俺はおでんだと言ってるだろ? そっちが食べたいなら、八戒に頼んでくれ。」
厨房から飛んできた爾燕が、そう説明して、また戻っていく。関東煮とおでんにも、違いがある。
「ということは、チクワブはないんですね? 染みるとおいしいのに。」
残念なんて言っているのは、八戒だ。こちらも関東煮の人らしい。
「ハンペンくらい入れろよ。」
と、おっしゃるのは八戒の亭主で、もちろん、こちらも女房の作るものを食べているから、そちらになる。
「コロうめぇーーーーっっ。」
「シン、ひとりでコロばかり食べるな。ママ、取り分けましょうか? 」
シンは、おでんの人なので、高級食材の鯨関係に大感激して食べている。レイは、トダカ家の人なので、同じくおでんの人だ。
「コロって何?」
「鯨の皮と身の間のところです。少しジビエチックな香りはありますが、味が染みておいしいですよ。それと、サエズリは、鯨の舌。こちらも高級食材です。」
「はあ? 鯨? 鯨なんか食うのか? 」
「特区では、昔から鯨は食用だったそうです。今は本物じゃなくて、合成されていますが、それでも高級なんです。」
アイルランドの人にとって、鯨なんてものは動物園のゾウくらいの感覚だから、びっくりだ。
作品名:こらぼでほすと アッシー12 作家名:篠義