小話の詰め合わせ。【三半】
発情期
「近頃…半兵衛様を見るとムラムラするんですが、どうしたら良いでしょうか」
「は?…………イライラする、とかじゃなくて?」
「半兵衛様に苛立つことなど有り得ません。ただ、ムラムラしてるだけです」
「むらむら……」
「正確に言うと、欲情して」
「皆まで言わなくていい!」
ふらふら、よろめく
「半兵衛様!如何なさいましたかっ」
「……………へいき、だ。少し目眩がしただけで、ちょっと休めば治るよ」
「失礼、……ああ熱があるじゃないですか!」
「微熱だよ」
「城までお連れします」
「必要ない」
「ご無理はなさらないで下さい。すぐに医者の手配もいたしましょう!」
「聞け、三成君。この程度は何の問題も無い。今日はここで兵達の指導をしておきたいんだ」
「さあお手を。肩をお貸しします。辛いようでしたら担いで参りますが如何でしょう」
「だから僕は平気だと」
「あとのことは官兵衛に任せておきますから」
「あのね」
「半兵衛様、いつまでもそんなごちゃごちゃ言ってると大坂城の正門から姫抱きにして運びますよ?」
「…………………」
「納得して頂けましたね」
現代パロで、記憶喪失ネタ
「あ、起きた?」
ここは、どこだ。
「昨日も目を覚まさなかったから、さすがに病院連れていこうかって思っていたところなんだけど」
誰だ、このひとは。
「大丈夫、君?」
気遣わしげに手を伸ばす、慈愛と包容力に満ちたこのひとは。
「ああ、良かった」
伸ばされた手を受け取ったら、握り返してくれた。それだけで心臓が跳ねる。
誰だ、このひとは。
女神か。
「あの……」
「僕は竹中半兵衛。君の名前は知らないけど、僕の家の前で行き倒れていたから拾ってみたんだ」
「あの……………めがみさ…いえ、半兵衛様」
「何だい」
「好きです」
「………は?」
「じゃなかった、間違えました。私を飼ってください」
「………………ん?」
「私には記憶がありません。自分が誰なのかも、どこから来たのかも、何も覚えていない……。半兵衛様さえよろしければ、炊事洗濯掃除買出し何でもやります、だから、どうかここに置いて頂けませんか?」
警察に突き出すか、病院に放り込むか、望み通り家で飼ってやるか。
3択の内のどれにしようかな、とたっぷり10秒は沈黙して逡巡していた半兵衛は、縋るような視線に耐え切れず結局そのまま同居を許すことにした。
「………ちゃんと警察に届け出てきて、それでも居場所がなかったらね。いいよ」
この家に置いてあげる、と言い終わる前に。
ありがとうございます!と叫んで勢いよく抱きついてきた男をやはり変質者として通報しようか半兵衛はまたもや思い悩むのだった。
作品名:小話の詰め合わせ。【三半】 作家名:honoka